第7話 終わりとはじまり

それは突然だった。


「転勤になったよ。」


いつもならすぐに返すメールを返せなかった


その頃の私たちは、相も変わらずうまくいっていた。

お互いにこころを開いていたし、互いが支えで心の拠り所だった。


だけど、物理的な距離には勝てない。


彼についていくなんてことはできないし、彼もまたそんな無茶なことは言わない。


大人だから。

家庭があるから。


彼はずるい。

おわりにしようと言ってくれない。


私から終わりにしようなんて言えるはずがないのに。


こんなに好きになりたくなかった。

離れたくない。


脳内お花畑な私は、悲劇のヒロイン気取りだった。

彼も同じで、転勤が決まってからはどんなに遅くても、毎日会いに訪れた。


そして、終わりの日。


私はなぜか、彼が借りていたマンションの退去にいっしょに立ち合った。


それから、二人の思いでの場所をドライブした。

彼の前では泣きたくなかったから、一度も泣かなかった。


だけど、最後のドライブは辛くて、何か話したら泣いてしまいそうで、何も言えなかった。

自宅まで送り届けてくれた彼に、ありがとう、体にきをつけてね、じゃあねと精一杯の笑顔で伝えて車を降りようとしたとき


彼が私の手を掴んで引き寄せて、キスをした

「ありがとう」


もうダメだった。

涙が溢れて、しがみついてわんわん泣いた。


何度もキスをして、最後は耐えられずに車を飛び出した。


なんだこれ、こんな辛さ知らない。

うまく息ができない、涙がとまらない。


好きって、こういうことなんだ。

私、彼が大好きだった。

もう、この部屋に彼が来ることはない。

もう、この部屋で彼と寝ることはない。

もう、彼に触れられることも触れることもできない。


もう、逢えない


はずだった

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