第10話 後日談 Q&A

後日談


「そうかい。で?このざまかい。」


「痛っ!痛いっす!師匠。」


バシバシと包帯の巻かれた腕を容赦なく叩くのは優希と花凛の師匠の紫村睦月しむらむつきであった。


「というか、マンションで白黒空間モノクロームを展開されていたのに師匠は居なかったんですか?」


「んあ?あぁ、そりゃな。」


師匠は、優希に耳を寄せるように仕草する。


「大声出さないでくださいよ?」


「噛みちぎられたいか?それとも脳みそを書き出されたいか?」


「師匠、話ってなんでしょう?」


キリッとした表情で優希は耳を貸した。近くによると少し甘い香りが漂い、吐息が耳にかかってくすぐったい。


。」


「な、なんで!?」


「しっ、うるさい。」


「ぐへっ。」


危うく舌噛むところであった。そのことで興奮して声を上げてしまったことを恥じて声を落とす。


「で、なんでなんです?」


「説明されたろ?花凛の父を殺した奴がアンセスター協会のトップだって。」


「まさか、揉み消されたんですか?」


「そりゃな、あくまで保持者サバイバーの持つグローリーはイドラムに対するものであって人に振るわれるものじゃない。」


「それなら、花凛の父のことだって!」


「そうさ。公式的には、彼の死は事故となっている。そして、その死を看取ったのが、かの残虐王様さ。」


「そりゃ………ひどい………。」


あまりに残酷すぎる世界に優希は、少し表情を暗くする。


「今回は、タカ型イドラム共同討伐中に、ちょっとした誤解により互いの技がぶつかってしまった不慮の事故ということで処理された。」


「そんな。じゃあ、花凛や俺を襲ったことは?」


「そんな事実は存在しない。しかし、それでも花凛はトップの残虐王の召し使ということもあって、傷つけてしまったエレなんとかは、左遷ということだ。」


「エレキ・カジョータですよ。師匠。」


「………他人の家系に口を出すのはマナーが悪いが。自分の使い魔とは言え、人の五感に勝手にアクセスするのは良くないと思うが?」


「あはは、すみません。ちょっと気になって。」


現れたのは、手に箱を持ち舌を小さく出している花凛であった。見る限り傷はなさそうだ。


「それで?師匠が介入しなかった理由は?」


「お前な、一体いつから……まぁいい。」


ため息をついて耳を寄せず小声で紫村は喋り続ける。


「花凛や、お前には悪いが、儂はお前たちの味方ではない。」


「え?」


優希は驚きの表情を隠せない。優希は、花凛の方へと顔を向けると花凛の顔には、驚きはない。わかっていたようだった。


「早とちりしないでくれ。儂はアンセスター協会の味方というわけでもない。つまり、中立のようなものだ。」


神妙な顔した紫村に2人は見入った。面倒なことはやらずやりたいことをやり、興味ないことには関わりすらしない彼女が、真剣に語っているのだから、2人にとって、大切に受け止めるべきだと感じさせた。


「儂は、お前らの事情を誰よりも知ってるしお前たちに力の使い方も教えてきた。」


「だったら。」


「だからだ。」


紫村は歯をくいしばるような表情をする。


「儂は、こんなんでも協会の幹部を任されてる。いや、無理やり被せられたのだ。もしもの時の言い訳に使う為に。」


「もしもの時のためにとは?」


「…………当然、お前らが裏切った時のためだ。」


眉間にシワがより顔に力が入る。


「儂が力を貸しているならば、幹部が裏切ったという大義で全力を持って我々を殺しにかかる。その逆に、儂が力を貸さず、お前たちが裏切ったと分かったら、儂にお前たちを殺すように命令するだろう。」


「そんな………。」


優希は、目を丸くする。


「儂の師であり花凛の父、赤菱華斬せきびしかざんを殺した残虐王には、儂では勝てない。お前たちを守れない。逆らえんのだ。…………すまない。」


そう言って、紫村は顔を下に向けた。視線の先には、拳が強く握られていた。


優希はそれを見て、沸いてきた気持ちは、ただ一つ。


悔しい。


優希以上に紫村は、自分の力のなさに苦しみ今も自分の立場に苛立ちを覚えているのだろう。悔しさが伝播してくるようだった。


そんな時、


「大丈夫ですよ、師匠。花凛には、俺がついてます。」


優希は、そう言って笑った。なんの根拠もない。屈託無い笑顔がそこにあった。紫村は、大人の反論を吐こうとしたが、なぜか口の奥から何も出てこなかった。


花凛は、二人のやりとりに少し顔を赤くしている。


「ふん、お前にそのセリフは、500年早いよ。」


「せめて20年、いや10年で妥協してくれませんか?」


「ならん!うちの娘は、安くないぞ!」


「ちょ、ちょっと変なこと言わないでくださいよ!雛澤君もそんなことで悔しそうな顔しないで!」


「「「ふふ、あはははははははははは!!!」」」


一同の笑い声が病室に広がる。一旦区切りがついたことで、花凛は手に持っていた箱を机の上に置く。


「これ、一日限定20個のいちごたっぷりのイチゴシュークリーム、3つ買ってきたの。」


「あの駅前の名店イチゴ・ガーデンのか!?出来した!」


「師匠は、甘い物に目がないですもんね。」


花凛は、そう言って机の上に置いた箱を開け、中からドライアイスを退ける為に取り出す。それを見て紫村は思い出す。


「あ、そうだ。伝え忘れてたが。」


紫村はそう言って、紙につつまれた柔らかなシュークリームを取り出しながら


「カジョータが左遷された為、この地区に新しい保持者サバイバーが来るらしい。名前は………あ、これ美味い。」



ガシャンッ!


「優希!自動車との衝突するも無傷で避けたが次に来た自転車に轢かれて骨折したってほんとかい!?!?」


そこに現れたのは、優希の幼馴染の弓形ゆみなり茅弦ちづるであった。本気で心配してきたのだろう、上がった息遣いと真っ赤な顔と沸き立つ湯気から全力疾走してきたことがわかる。


しかし、その場は…


「な、なんで………先生と転校生とイチャイチャしながら、1日限定20個のいちごたっぷりシュークリーム食べてるの…………?」


「あ、いや……これには、訳があってな。」


理由はわからないが優希は、なぜか冷や汗をかきだした。何がやばいという確信があった。訳と言ってはみたが、なんと説明したらいいのだろう。二人に助けを求めたが、二人ともシュークリームと対決していた。


(花凛、チラチラみてないで助けてよ。)

(いやよ、巻き込まれたくないもの。)

(薄情者~~~!!!)


「ボクにも食べさせろ!」


「あ、こらっ!姉弟子!これは俺のだ。あっ!あああ!!食いやがった。こっちは病人だぞ。返せ!」


「うるさいうるさい。病人は病院食だけ食ってろ!こんな贅沢なものは要らない。幼馴染を心配させといて、贅沢いーうーなー!」


「さて、赤菱。儂らは戻るか。」


「はい、先生。」


そういって、何事もなかったように二人は立ち上がる。


「ちょっと!?俺を置いていくんですか!?」


「儂は仕事があって。」

「学生は、学業優先よ?」


二人は、考えていたセリフをスラスラといい逃走を図ろうとした。しかし


「ダメっ!師匠も、転校生ちゃんも。噂は本当か聞かせてもらうまで帰さないんだから!」


噂大好き茅弦は、二人の前に仁王立ちして口のクリームを舐めとりながら通り道をふさぐのであった。


「あの……ここ、俺の病室なの忘れてませんか?」


本来なら静かなはずの病室は、彼女たちの声と優希の笑い声が絶えぬ空間へと変わっていったのであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


1章あとがき


用語解説コーナー


ゆ「Q.花凛は残虐王の“召し使”。優希は花凛の“使い魔”ですけど何が違うんですかー?」


か「それはね、契約の種類が違うの。召し使は主従を結ぶ契約で主に人が人に使う時に使うの。それ比べて、使い魔ってのは、どんな物でも生き物でも主従が結べるの。つまり、人間にも出来るってわけ。」


ゆ「Q.師匠の言っていた、“家系”とは?」


か「保持者サバイバーたちは親しい者や自らの子供や跡取りと契約をするの。さっきの召し使みたいなね。その契約を結ばれ繋がっていくことを家系図のようだから、契約された関係を家系と呼ぶのね。」


ゆ「Q.初めてイドラムに襲われた時の優希は、次の日の登校時には怪我が治っていたのに今回はなんでまだ治ってないんですか?」


か「それは、回復の源である魔力をあの時私が彼に送り込んでいたからね。だから、通常より早く回復した。むしろ、今回の回復のスピードが普通なの。それでも2~3日で治っちゃうけどね。」


ゆ「Q.花凛の好きな食べ物は?」


か「基本的には甘いだけど、辛い物も好きね。ハバネロとかデスソースとかどんと来いよ!」


ゆ「Q.『優希くん』、『雛澤くん』とつかいわけているようですが……?」


か「そ、そんなこと関係ないでしょ!//////」


(他人の前では名前が言えるけど、本人の前だと恥ずかしくて名前が言えないガールなのです。)



次回からは、2章です。新たなヒロイン登場!?ご期待ください。

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たった2人の叛逆者《トレーター》 名乗らずの木 @nanorazulewis

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