インソムニア
尾巻屋
また一つ、マッチが無駄になる
また一つ、マッチが無駄になる
意地のような煙を吐きながら、赤い生首が地に転がった。
さっきまでラッパ飲みしていたはずの天然水は、吸殻の煤で汚れ始めている。
外から聞こえてくる笑い声は、未だ青き春を送る若人のものか。
潰れたビール缶が悲しく嗤う。
どこを見ても目につくのはゴミ。幾重にも重なるビニール袋が、勝手に居場所を作っている。
外は雪らしい。この前は雨だった。その前は覚えていない。どうであろうと、この部屋は常に暗闇だ。
格好つけて咥えたシケモクは遥か昔に寿命を終えている。
釣り上げられた値段は楽しみの数を減らしている。
あかりがつかなくなった頃から悪臭を放ち始めた冷蔵庫には、発泡酒が2本ほど。
いささか勿体無いか。
足元には、丸められたちり紙。
乾いた木製の首根っこを掴み、箱の側面を滑らせる。しばらく見ていなかった光というものが、ひび割れた爪を照らした。
ぽとりと、光が落ちる。それはだんだんと、明るくなっていく。
また一つ、マッチが無駄になる。
インソムニア 尾巻屋 @ruthless_novel
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