外野
先日、同業者同士での情報共有と称した飲み会に参加した。うちの会社からは2年目の僕と、三年目の美人な先輩と、6年目のすらりと身長が高いがどこか不潔感のある顔のいい先輩。別会社からは30かそこらの中間層の方々が数名づつ、全部で五つの会社間で情報交換をした。今年の大阪北部地震以降相次いで発生した自然災害による被害と、また対策、社員へのフォローや、福利厚生、また実際に提供し得たサービスの質。お客様からのお声。前半はかろうじてまともな情報が各所に点在していたものの、お酒も進めば、ただでさえ男所帯な職業柄か、下世話な、女や酒やパチンコや、しようもない男の仕様もない話がではじめた。じわじわと美人な先輩を見る周りの目を変わってくる中で彼女は只管に美しかったし、毅然としていたけれど、それでも酒を飲まない僕の横から離れようとはしなかったから、それはそれで、僕と彼女への無遠慮で不躾な散策も後をたたなかった。そんな中で、うちの会社と密接に連携を取り合っているK社の33歳の男性が僕に話しかけてきた。
「君こんなかで一番若いなあ。いくつなん?」
「20歳です。よろしくお願いいたします。」
そう言って名刺を出す僕に、
「酒の席で名刺なんかいらんで、適当なんや、気楽に行こうや」
とジョッキを軽く揺らす。
「はあ。わかりました。」
「俺は安藤。K社の現場で君らと同じような感じで働いてるんやけど、俺が20歳やったら、絶対この会社では働いてへんで。辞めてるわ。」
「そうですか。僕は結構楽しいとおもてますけど。」
「そら世間を知らんのやわ、やめやめ、もっとええとこがすーぐ見つかるで。女も酒も知らんうちに、周りだけ固めてしまうたらいきしずらいで」
「そうですかね。綺麗な空気は吸えてますけど。」
そういう僕にその人はがはがはと笑った。左手の薬指には指輪が光って、聞いた話にやると二児の父親だというこのひとは、初対面の僕に向かって僕の人生のカケラも知り得ないくせに、僕が手に入れた環境を捨てろと言い続ける。その感覚が無性に気持ち悪くて、バカらしくて、怒りよりも呆れの方が優った。歳をとるにつれてこんなふうに自分の考えを固定してしまっているこの人の空気はさぞ不味いんだろう。息をしづらいんだろう。僕は僕の生きたいようにやっていくし、それが周りからは安パイに見えようが、固かろうが、つまらなかろうが、誰がそれを否定できるのだろう。僕は僕の歩いて行く世界以上のものを見れはしないし、身の丈に合わない夢を追うこともしないし、それが最善だとも、また妥協だとも思いはしないのだ。そこに、僕の人生がのっかっている限りは、僕の車輪で前に進めるしかないし、その車輪に、この人みたいな下世話な人間を組み込むことはしない。僕の世界にはこの人は入ることができないのだから、本当に外野でしかないのだと、呆れた気持ちで思った。後から、美人のせんぱいに、ひどいこと言うよね、腹立つよね、と言われたけれど、どうやら僕とこの人とも違うかったようで、そうですね、全くです。人の名刺も受け取らないんだから。と苦笑いすることしかできなかった。
20歳 せの @seno_
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