第10話 アルバム

『私は最後まで、あの人と籍を入れませんでした。貴方という宝物を授かっても、それは断固として貫かれました。もともと親にも反対された相手でしたし、あの人も引け目を感じていたのでしょう。私がこうなってしまった今、結果としてそれはよかったのです。高い医療費を彼に請求することもありませんし、彼が未亡人になることもありません。

 けれど一つだけ謝らなければならないことがあります。年端もゆかない貴方をおいて、勝手に出ていく私を許してください。あなたが成長し、文字を理解したときにはもう、あなたはきっと立派な大人になっていることでしょう。私が愛したあの人が、あなたを立派に育てていることでしょう。

 悲しみに耐え、あの人と貴方が、幸せな人生を送ることを祈っています。

 最後に、私の言葉を綴ったこのノートは、貴方との思い出の間に挟んでおきます。

 いつしかあなたが私のことを懐かしがってこれを開くその時まで、どうか元気で。幸せに』



 十年後、少年だったその子は、アルバムに挟まった薄いノートを見つける。


 そこに綴られた懐かしい母の文字に、大粒の涙を流すことを、彼ははまだ知らないのだ。

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とある少年の話 サカサモリ @sakasa-mori

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