PS12 生きて
――PS12 エピローグ・キミがここにいること――
俺は……。
……俺は?
土方玲……。
暗闇の中で一条の光を手繰り寄せて、絞り出す声が痛々しかった。
「ばっぶ。ばーぶ。ばばーぶっ」
俺は、むくちゃんを抱き上げる。
「ぱーぱを起こしてくれたのかい? ありがとうな」
ぎゅっと抱いたら、泣かれてしまった。
「うう……。うぎゃあ、ほぎゃあ!」
そこまで来て、初めて気が付いた。
むくちゃんのお喋りがなくなっている。
ちょっと待てよ。
ここはどこだ?
「俺の家だ!」
コンコンコン。
「ああ、どうぞ」
「おはよう、玲。どうしたの? 昼寝なんて珍しいね」
今は昼なのか。
「カーテンを開けるよ。遮光カーテンってシエスタしたみたいだよね」
俺のインターンで一人寝たい時用に洋間を一つ模様替えしたのだった。
「夕べは帰りが遅くなったようだけど、どうしたの?」
「仕事だよ。ミマイ」
「ええ? アクセントが違うよー。美舞! 美舞だよ」
「す、すまない」
「ばっぶ」
「あーあー、又、おしゃぶりホルダーにぶら下げて。むくちゃん、落すなら、おしゃぶりを止める?」
「ばーっぶ! ばばーぶ!」
<オジョクジノ・ヨウイガ・デキマシタ>
「むくちゃん、ハルミ=ピンクは果物包丁で何でも作るから、まーまはびっくりだよ」
「うまうま」
<オジョウサマ・ナンゴモ・オジョウズデス>
「おー、
おっしと伸びをして、キッチンへと引き戸を開ける。
ふと、俺の部屋を振り返った。
出窓に置いたむくちゃんの好きなぬいぐるみ、まっしろゆきだるまがころんとしていた。
風は緑のカーテンを帆を張っており、俺の気持ちは凪いでいる。
風は、今、時空を過ぎた。
***
今は、俺達がいた時代だ。
遡ったのか、先に行っていたのか、あとさきが分からない。
俺の側には、妻の美舞殿、娘のむくちゃん、お手伝いのハルミ=ピンク、皆がいてくれる。
クロスはどうしたのだろうか?
食後、テレビでニュースを流していた。
「あ! 少年クロスじゃないか! ジャック事務所の新人だって?」
美舞はお茶をクリーム色のちゃぶ台に置いた。
「うん? 玲、どの子?」
新聞をたたんで、壁掛けテレビを指差しに行った。
「このキラキラしている子」
「あら、濃いけど、可愛いじゃない?」
「そそそ、そんな目で見ていたの? いやらしいなあ」
「何の話?」
美舞は、すっかり記憶がないようだ。
いや、それとも全てが俺の夢だったのだろうか?
邯鄲の夢ではないな。
***
ふと、転生する時にハルミ=ピンクがボロボロになっていたのを思い出した。
誰にもどうしようもなかった。
ハルミ=ピンクは、そのままピクリともしなかったのに、急に、瞳が瞬いた。
<♪ ワタシハ・メイド・アンドロイドデス>
<♪ ワタシヲ・ツレテイッテクダサイ>
<♪ ワタシハ・オキャクサマノ・オヤクニタチタイ>
<♪ ワタシハ・カラダガジョウブデス>
<♪ ワタシハ・ユメヲミル>
<♪ ワタシハ・ニンゲンニナリタイ>
<♪ ワタシハ・モット・オキャクサマノ・オヤクニタチタイ>
<♪ ワタシハ・ユメミル・アンドロイド>
そこで、ハルミ=ピンクは歌わなくなった。
最後まで自分の心を歌った。
<ワタシハ……。ニンゲンニ……。ナリリー……。リリー……>
回路が切れたかの様に話し始めたのが、切れた。
目が血のようになり、間もなく、黒くなった。
俺は、これで終わるのを悔いたまま光に包まれたのを覚えている。
***
結局、俺の想いは、平和な家族。
俺は、周りも幸せになれたのではないかと思う。
具現化したのは、元へ戻ることかな?
ハルミ=ピンクは、自分の考えが異世界の旅でしっかりとし、転生により、体が修復した。
細々とよく働いてくれる。
お陰でむくちゃんも元気で楽しそうだ。
お姉さんみたいだな。
ちょっとクロスが地球に一人増え、ジャック事務所のバックダンサーになっていたりして、時空を弄らなければいいと思うが。
美舞も育児ストレスも減り、更に元気だ。
さて、俺もインターンをがんばらないとな。
今日が休みで助かった。
「あれ? 美舞、今日は何日?」
「そう言えば、もうインターンのお時間じゃないの?」
「だー!」
俺は、先ず、スマートフォン越しにぺこぺこと謝り続けた。
時空はずれとお笑いください……。
こんなんでも、幸せなんだよ!
Fin.
ぱーぱは、育児アンドロイド いすみ 静江 @uhi_cna
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