第6話 遠浅ブルーハワイ2

小岩凪はどうやら感覚と感性で色々出来ちゃう子らしくしかもケロッとスイッチが入れ替わりが激しい子のようだった、次に行く前になんとか、なにか言葉でもかけてやりたいとふっとそんな事を思った。




何本か既に波に乗った吉川さんはふぅ、と一息ついてから決まって感想を俺に聞いてくるのだが感想を無い頭で捻り出せていないが三番目でやっと何か捻り出せそうで小岩さんを俺は呼び止めた。




「なんで止めんの~吉川さん」「いや素直に感想が出そうにないかチョット待ってくれ…そうだな、素晴らしいとかすっごいとかそんな単純な言葉で君の波乗りをこう語って良いものじゃないって思うんだよねうんとまぁ…感服したというかうむ、格好良かったしなんかこう…だめだ語彙力の無さが響いてる。


勝手にこんな事を思ってしまってアレなんだが俺も波乗ってみたいなとかしか言えない素人を許してやってくれまいか?」




いや~ほんとに勘弁してほしい、ここはビシッと綺麗だとか言ってやればいい場面なのかもしれないが言えなかった俺をどうか許してくれ。




「なんかこう…もっと楽しそうな顔を君はするんだなとかこの動きどうなってんだろうとか興味を持ったほうが良いのかもしれないけれど」


バツの悪い褒め方をしてしまった事を今更に後悔しているのだけど褒められた当の本人でさえもどうやら返答に困っているようではあった。




「へ、へぇ、そそんな感想が返ってくるとは…ぜんっぜん思わなかった」


若干の赤ら顔なのはまぁなんとなくいいなとは思ったんだけれどそっからは今までの気兼ねのない感じはどこかに行ってしまった感じで彼女が浜に上がってきても「うん良かったんじゃない?」くらいしか言えないし


「そ、そうかそういうことにしとく」とかなんかもう最低限の言葉のやり取りしか無くなってしまってすごくどうしたものかと困ってしまったのである。




ここでそんなにベタな褒め方とかしたら返って失礼だしなんか嫌だなと思った結果がこの会話に遠慮が生まれてしまった現状なのだ。全く、どうしてこうなった。




「あ、あんまり本数こなしちゃうと冷えてくるし今日はコレくらいにしときましょうかね!!」


誰に言っているのかも良く分からない負け惜しみのような何かを言って彼女は結局七回ほど海へ向かっていったのだった。


「うし、良いもん見させてもらったし今回ばかりは特別だ、珈琲の一杯や二杯奢ってやることにした」


「は!?いいの!?本気にするよ!?お財布の中身大丈夫なの?!」


何本も波に乗った後だってのに元気だなおい。


「大人なめんな、そんな一杯で牛丼十杯も食えるような珈琲でもない限り平気だよ問題ない」


必殺技のクレジットカード先輩の登場という手もありなのかもしれないがそんなに物価が高い


「そのお金の計算の仕方はどうかと思うんだけれど」「牛丼は正義だぜ?」「なにその?」


安値一回の食事の積み重ねが一体どれだけの預金通帳の残高を増やすことに貢献できると思っているのか!!


「それはともかくとしてカフェテリアに行こうか、小岩さん満足出来るくらいに波乗りした?」


「納得するのはそのうちの一本位だけど楽しんだからokだ!!」


了解、良い笑顔だ。


ところで、ここら辺はあまり来たことないからよく分からないんだが駅前にあるチェーン店で良いかな?




「あぁ、いいのいいの。私いい店知ってっから、


ここから歩いてちょっとのとこなんだけどね美味しいんだー、そこのチョコレートケーキ!!」




行きつけの店があるのな、個人経営店か…どうも俺は安価なチェーン店に落ち着く節があるからここでもなんとか違う店の新規開拓したい感はある。




「あんまり長居する予定は無いからな、俺は結構疲れが溜まってんだ」


そんな事をわざわざ言わなくて良いのだろうさ、だが俺はそーいう要らない事をどうにも言ってしまうのだ。




「えー、そうなのかよ〜じゃああれだなまた次回、今度はお互いがお休みの日に揃って遊ぼーぜ!」


なんでまた俺みたいな奴と遊ぼうとするんだかよう分からんな…


「ちょっと待ってて下さいな、身支度整えてくっからさ!」


とんとん拍子に話が勝手に進んでしまっているがこれは次もまた会うパターンになってしまっている…いやいやいや、まさかね?




「んじゃ五分で準備してくっから、海の家の前で待っててなよろしく!!」


砂浜をサーフボードを持ちながら急いで海の家までかけてく小岩さんを俺は結局見送るしか方法が無かったのは言うまでもない。


「勝手に帰るとかは、吉川さん絶対しないって思ってるけど本当にありえないからね!?」




ここまで来たら帰るわけにもいかないだろう、変に律儀とかよく言われるが法律は知らないから破る奴がいるもんだとしても口約束位は守ってやるさきっとな。




小走りでシャワーを浴びに行く小岩さんのウエットスーツを着た後ろ姿になんかこう…やっぱり女の子だなっと思ってやましい思いをまだ出来たのかとタバコの煙を吐く真似をして白い息を空へ吐いた。




賑やかな声の主が居なくなると途端に反動で寂しく冷めた気分になるのはきっと俺だけではないはずだ。


眠さと向き合うのはもうやめたが寂しさと向き合えるほど俺は大人になっちゃいない、


輝きが鈍く白く濁って小さくなるのを看取るのが自分だけだなんて勘弁してくれと泣きたくなった、なるだけで涙なんて滲むのは弁慶でも泣く場所を打ったとき位だ。




「このまま得るもんとかなく終わっちまうのか…」


充実感とはこの仕事を二ヶ月で今生の別れで袂をわかち彼の最後の言葉は「お前とはもうやれない」と軽口を叩かれ砂の楼閣は崩れ去る…なんだそれ自分で言ってて意味がわから無いがまぁそーゆー事なんだよ。




人間讃歌と慈愛が湿気った先に雄大で俺を飲み込んでくれそうな海がそこにあったから思わず飛び込みたくなったがスーツ姿のどざえもんなんて格好がつかないからやらない。元気はないがそれなりに現金はある。使う当てと気力を探して幾星霜、趣味の一つでも作ればいいんだろうとは思うけどな…




「おーい、吉川さん? スイッチ切れて阿呆みたいな顔だけどどしたー?」


阿呆みたいな言うんじゃない、バレるだろ学歴とか無いの… 振り向いた先には先ほどまでの


「いやー寒い寒い、スーツ脱いだら余計に寒いよ〜早く喫茶店はいろうぜぇ吉川の旦那ァ?」


そのくねくねした手の動きと口調は何処で習って来たんだ、お兄さん許さないぞ?




「いいからいいから! 早くしないと喫茶店に逃げられるんだからね!」


何をしたら喫茶店に逃げられるんだろうかと考えながら海から真逆の方向へと駆け出す小岩凪を深呼吸を一度吐いて追う。


物欲しそうなカモメが啼く浜辺を後にして俺と彼女は…いやこの言い方はよそう、勝手に自己暗示で勘違いしそうだからな。




「ねぇねぇ吉川さん、甘いものって好き?」


「そーさなぁ、甘いものというより塩っぱい物の方が…いや、チーズとか好きだったりするぞ?」


「ちーず!?」「ブルーチーズとかモッツァレラとか、種類は多いし風味も作る工程と時間がちょっとでも変わるんだぜ?」


「ほえー、なんか吉川さんワインとか好きそうだね」「そうだな、確かワインに合うチーズもあるなやばっなんか思い出したら腹減ってきたわ」




いつかは洋酒が似合うナイスミドルになってはみたいがこのまま老いても得るものなく手放す一方な気がして薄っぺらな不安がまるで目の前で食べられようとしているミルククレープの様に…ってちょっと待て、それ俺が頼んだやつだろうが!!食うな、返せ、君には魅惑の光沢を放ついかにも高カロリーなチョコレートがあるだろう?




「もー、いつまでも電池の切れたおもちゃみたいにぼーっとしているのが悪いよ、目の前の人その界隈ではちょー有名人なんだからね!!」




「ビシッと決めているところ悪いが小岩さん街中アンケートとかして有名ユーチューバーと比較対象にされたら勝てないだろ?」


「そ、そーんな訳無いって!何それ酷いっすね吉川さん」


小岩が連れてきたのは確かに駅まで戻った先の少し入ったところにあった。大きなナラの木の下なので最初は廃墟かとも思える程だが内装はある種のアンティーク揃いだ。


個人経営のお店なのだろう、店に入ったところ割と若い人が店のオーナーとして店のカウンターの奥で静かに笑みを浮かべていた。




「でもこのお店当たりでしょ?雰囲気いいしゆっくり出来るし、何よりこのダイエットしている女子の天敵であるはずのケーキをぱくぱくと食べられちゃうから怖いよ!」




小岩さんの体型すらーっとしてる様に見えて肉付きがいいから困ってるみたいな会話を軽くした後で「よく考えたらこの会話セクハラじゃね?」との指摘があり中断したのだが自ら風呂敷を広げておいてそれを持ち出すのは少し卑怯じゃ無いのか…とも思ったがまぁいいや。




「にしてもいいのか、こんな見ず知らずのおっさん捕まえて話し込んだりしちゃってさ。 まぁ隠れ家には便利そうだしお友達に見つかるみたいな事が起こらなくも無いだろうけど」


思いのほか熱かったコーヒーを冷ましながら小岩さんとの会話をする自分を頭の中で場違いで身分不相応だと捻くれた影が罵っている。 彼女には華やかで楽しいキャンバスライフがあるし自分には六畳一間の万年床でレンタルビデオを見ながら自分を慰める位の差があるのだ…




「そんなの知り合いのお兄さんですーって言っとけばへーきへーき、それよりさなんで吉川さんスーツ姿で海に入ろうって思った訳? 二日酔い覚ましになるかって聞かれたらそんな事は無いって私は言うけど」




あぁ、その事か。 それなら答えは簡単「呼ばれてる気がした」だ。 夢想家過ぎる答えだがなぁに人なんていつ狂気が染み出すか分からないもんだぜ?




「ぞっとしない話…確かに私も海に入ってる時海面じゃなくてちょっと沖まで出て潜ると不意にこう…意識が撹拌されてぐちゃぐちゃってなるとそのまま溶けちゃうんじゃ無いかって位に自分と周りのことが気にならなくなる事があった…あったあったそんな事!それでさっきから暗がりが嫌な感じするって言ってんの?」




吉川はその自覚がなかった為詳しい話を聞くと小岩さんいわく影を避けて歩いていたとはなし、俺を驚かせた。




「俺さ、そんな話してたか?!」


「うん、さては眠すぎて覚えて無いとかだったりする?ちょっと寝る?」


暗闇を怖がるとか怖い映画見た後の子供かよ、それで覚えてないってどういうことなんだ…?




「あっち暗いとこだけどやっぱり怖い?」


指差された方を見て確かに俺は身の毛がよだつ光景を目撃した。それは恐らく幻覚なのだろう、むしろそれであってくれと思いたいものがそこに佇んでる!!? 顔形の詳細までははっきりしないし服装もイマイチ何着てるか分からんが一つだけ確かそのやけにぼやっとした形の影が自分だと直感的に理解し恐怖した、気持ち悪い…吐き気のする…事態は深刻だ。


仕事で疲れた時とかに天井のシミが人の顔に見えるとかそー言う類


一体なんだあれは…意識がぐにゃりと折れ曲りそっと俺は思わず立ち上がった席に力なくつくと小岩さんはじっと俺が話し始めるまで待っていてくれた。


優しいな君はもう…




「なんかいた?」「そりゃぁ薄気味悪いのがね」


「あー、海はね〜割といっぱいいるんだよ変な連中がさ、昔から言われてる話で他の国の話とかと酷似しているやつが割とあってびっくりだよ」




その手の話詳しいのと聞くと話によると小さい頃小岩さんが苗字で呼んだ際にある男の子が「こいわって怖い話のお岩さんみてぇ、こえー!!」といって調子者の男子に言われたのがきっかけだそう、


その後に悔しくて「お前らを呪ってやるゥ!!」とハッチャケてみたがそのお岩さんか気になったので調べてみたらいつのまにかその手の話にのめり込んだ。


その結果昔から伝わっている話位は網羅してみたのだという…まさか小岩さんオカルト系女子だとは思わなかった。




「あ、都市伝説とか突拍子も無いのは駄目だかんね!その手の話もさらってはいるけど陰謀説ばっかりじゃつまんないしその狭い考えばかりに縛られても仕方ないから!」


一体どんな育ち方したらこんないい子が育つのか俺はその術を知らぬまま朽ちていくのだろうな…


「だからオカルト系女子と言うよりもそうだなぁ、怪談系女子?」




ひゅーどろろと胸の前で手を下に幽霊の真似をする小岩さん。 何その新しいジャンル、略してかいじょ?怪女系ってよんでいいっすか、てか可愛いな。


「いやー、怪女は流石にないって」「適当に言ってみたからな」「なんだよー、適当かよー」


つうか何気なーくしてるけど俺また久し振りに女の子と話してる様に見えてそうじゃ無い事実に驚いているんだが…仕事以外の時間何もしてなかったからなー。




「これはさ、とある友人実際に起こった出来事なんだけどね?」


ちょっと待て、その声色を使う時は大抵怪談とか都市伝説が始まるって相場が決まっているんだがそうは問屋が卸させねぇ、暗がりに絶賛得体の知れないものが見える状況でそんな話しされてたまるか。




「それよりもあれだ折角の練習時間をなんか色々邪魔する形になっただろ? すまんな」


世界的な選手が何故一般的にはおよそ無名のビーチに居たかは分からないが。


「あー、それは別に吉川さんが気にかける事じゃないよ。 私1日のルーティンが崩れたって平気な人だし、何より目の前であんな漫画みたいなことする人が居るとは思わなかったけどねん」




小岩さんはケーキを食べたフォークで俺を指差して思い出し笑いしそうに堪えている、


「勘弁してくれよ、たまにあるじゃんそー言う気分になる時がさー」


俺は言い訳をするが小岩さんはわざとらしく「何を言っているのか分かんないなー」と言ってガトーショコラを食べ進める。




「こんを詰めてもつまんないじゃん。息抜きは大切ですよー、最新世界ランク最新は忘れたけど最高三位さんが言うんだから間違いない!!」




「三位には見えないリラックスっぷりなんですがそれは…さっきの波乗りってそこまで難しい技とかはもしかしてやってない?」




「…やってはみたんだけど諦めちゃったんだ。 あー、なんていうかノリが良くなくて」


バツの悪そうな顔を見て質問するべきじゃなかったと後悔して、なら今の世界ランクって何位なのと聞いたら31位となんとも反応しづらい事になっていた。




「まぁ、浮き沈みがなきゃやり甲斐ないじゃん? 後三十人もライバルがいるんだぜ?」


フォローになってないのは気づいてたがそんな言葉しか残念ながら出来ていなかった。




「2年で三位まで上がって…その後の忘れもしないわISAの試合、それが終わりの始まりだったなー」


溜息吐いてどこか遠くを見つめてながら小岩さんは静かにカフェラテのカップを机に置いたがまずいまずい、それ完全トラウマスイッチ入りかかってるやつだ。


「戒めは必要だとしてもそれを毎度の如く追体験しても結果が変わるわけじゃない。むしろ成功していたら、失敗を乗り越えてたら、と発想を少しだけ変えてみたらいいんじゃないか? 人間なんて所詮失敗する生き物なんだ、「分からない事は分かんない」何が分からないかを整理して分析して終わり!!それが出来る分だけ偉いよ小岩さん」




大した事は言ってないつもりだった、何でもかんでも気を回して出来る人なんていないし狭い了見でものを捉えて認識を広めていければいいなと個人的にはそう思っている。




「はっ……!? 話聞いてたけど小難しい話聞くと眠くなるから聞き流してた!!」


お、おうそうか。 割とちゃんとした話をしたつもりだったが聞き流されたのならしゃーない、


「ま、考え込むのも考えものってことが言いたかっただけだから別にいいんだけどネー」


と妥協してみることにした。


「折角吉川さんの素晴らしい説法が聞けたというのに勿体ない事をしたね小岩さん?」


「そうでもないよ」と返されて二の句が告げず、、


「だって連絡先の交換したから別に予定合わせれば会えるじゃん?」


思わせぶりな視線を向けてくる辺り凄くあざとい、どれ位あざといかと言うとガンジーが駄々こねて地べたに大の字になるレベル、大人をからかうもんじゃないぞ?




「もちろん誰にだってこんな態度とるわけないじゃん、吉川さん位だよ」


下心は抱いていないはずだがそれを見透かした様な含みを持った笑みだった。女子大学生って本来こんなものだったのか、俺には知る由も無い、 だって学部のほぼ全員が男だったもの…




「お、おうそうですか…」


「そうですかってなんだよそれ〜、別に私の方が歳下なんですから敬語使わずにタメ口でよろしいですことよ?」


忘れた頃にやってくる小岩さんの礼儀正しさ…いや待て、その得意げな顔は尊敬とかじゃなくて最早尊大な態度だぞ?




「因みになんですけど濃いめのチョコのお菓子の中にガトーショコラとブラウニーってあるじゃないですか、二つは原材料までは一緒なんですが卵と使い方と薄力粉の量が違うらしいよ?」


敬語消えるの早くない? それと為になるか微妙な雑学をありがとう、知識は器に溢れるくらいに注ぎ続けて乾かない様にしないとたちまち他の人に底がみえてしまうからね…




「それはそれとして真面目な話、社会人の情報が欲しいんだよねー、学校に来るOBとか親だけじゃなくて生の情報ちょーだいな?」


根回しというかちゃっかりしてるなぁ…ん?小岩さん就職希望なのか、大学に行った後でその得意なスポーツで食べていきたいとか思ってはいないのだろうか…そう思って俺は質問する。




「小岩さん折角いい実績持ってるんだから少しの間でもアマチュアでもプロでもやってみればいいんじゃないのさ?」




「うーん、それは殆ど考えてない…ってのは嘘。


もう一度だけ挑戦してみようと考えている。そう、まぐれとかじゃなくて真剣にやってあの景色を望めるのなら私も捨てたもんじゃないって思えるから」




彼女から笑みが消えている、惚れ惚れするほど真剣な顔つきでそんな事を口にされたら何にも言えなくなっちまうじゃないか。十数枚からなるミルクレープ程に俺は分厚く折り重なって価値のあるものになれたのか、ふとした疑問が湧き出たが放っておく。




「んー!!吉川さん凄いなぁ、いつまでも話してられるよ〜」


小岩さんの方はどうやら食べ終わった様でぐいーっと背伸びをすると一度深呼吸をして海の方向を見て頷く。


「吉川さんに言っちゃったからこれは有言実行するしかないよね、親にも言ってない私だけの秘密だったのに…


でも決意って有言しないと実行に中々移せないもんだと思う事にしたから、吉川さんも何か目標言ってよ。


私と吉川さんどっちが先に叶えるか競争しよ?」




なんだその出来レース、俺にそんな行動力があったらこんなにはなってねーよ。




「そーだな…一日一善?」「そーゆんじゃなくって具体的な奴じゃないと目指す意味と達成感がないでしょ?」


言われてみれば確かにそうだが、俺には目標を立てるだけの自分が無いからな…


「割とちゃんと考えてね、待ってるから」


なんだろなぁ…実現しなさそうだけどやりたい事とかある…わ、そういえば


「…なら約束しよう。俺は目指していけるものがまだ残っていたわしかも超難関中の難関、これ叶ったら本当に誇れるやつだわ…詳細はwebで」




小岩さんとの今後のやり取りを約束しつつ、お互いのこれからを期待して俺の財布の中身が少しまた軽くなってしまうのである。


またどうして俺が暗闇に佇んでいるのかは分からないが、疲れて幻覚でも見ているのだろうという事で結論付けた。そんなの寝れば治るだろう…


「それじゃまたね吉川さん、時間作っからちゃんと返事してよね?」


別れ際に念を押されて、帰りの電車に乗り込むと早速着信音が鳴った。


「オツカレー、早速再開練習なう☆」


流石大学生元気あるな〜と返信をして柔らかな日差し


の中部屋の掃除から始めようと、鼻歌歌いながらアパートへの道を自転車漕ぐのだった……

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黒潮のエトピリカ 峠のシェルパ @d51kouiti

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