第14話 ”恋の予感”の心理学

 人の心にはある一定のメカニズムが存在し、統計からいくつかの傾向やタイプによって、心の動きを予測することができる


”結果にはすべて過程があり、要因があり、そして起因がある”


 また、一方で人間は動物である以上、動物的な欲動や欲求を有しており、生物が子孫を残すという原始的、根本的目的から、逃れることはできない


 人は”心”という”不確かなプログラム”を搭載した特異な生き物である


 この辺りでやめておきましょう

 月曜日から眠たくなるような御託を並べてみても気分がブルーになるだけですね


 さて、”酔っ払い”と”たまり場”のエピソードを語ってまいりましたが、その場に異性が混在する限り、そこには”色恋沙汰”或いは”下世話”が存在します


 健全な男女であれば、それぞれの立場がどうであれ、身近にいる異性を意識しないというのは、逆に失礼という物である


 こういう考えに至るまで、僕は随分な時間を費やし、時に誰かを傷つけるようなこともあったのだろうと思います


 いや、そんなことはない”何もしないということは何も起きないのだから、そこに何ら責任を感じることはない”


 そう考えるのも至極当然ですが、もう一方でやるにしろ、やらないにしろ、結果は必ず出る

 何もしないで誰かを傷つけるのなら、何かをして傷つけた方が”傷つけた起因、要因、過程、結果”のいくつかを自分で認識できる分、対処ができるという考え方もあるのです


 いわゆる”やらずに後悔するよりやって後悔するほうがいい”というやつですね


 僕はその場に”行く、行かない”の起因、”留まるか帰るか酔っ払いを戒めるか”の過程、”不満と困惑からの解放”という要因を認識し、隣に座った女性が肩を寄せ、手が触れるという状況に置いて、手を握るという行為を行った”結果”から、これは”つり橋効果(*1)”に違いないと分析をし……こうして書き連ねているのです


 うん、これはおかしいですね、はたしてそれだけで済む話なのか

 もちろんその先のことや、細かい状況について語るべきことはあるのですが、そこは語らないが是で御座いましょう


 世の中の現象はすべからく方程式によってあらわすことができるなどとは思っておりませんが、他人がまとめた理屈や成功体験をいくら読んだところで、現実起きることは実にさまざまであり、結果僕が一番ここで言いたいことは、”起因”こそもっとも重視すべき項目であるということです


 僕はネタを仕入れるために、そういう場所に行ったのかと言えば、後付の理由としてはそうですし、単に楽しい思いをしたかったと言えばそれもそうですが、さて、今回のオチ


 実は二月ほど前にこの店に来たときに、その予兆はすでにあったのです


 つまり僕は”脈を確かめに”そこに足を運んだというのが、この結果を生んでいるわけで、もちろんそこで”吊り橋効果”が起きることを予測も期待もしていなかったし、なんなら他に客が誰もいないくらいの方が”話ができていいのにな”くらいに思っていたわけです


 彼女が他に客にちょっかいを出されるところなど、あまり見たくもないし、かといって”やめろ”と言える立場でも、間に入って人の愉しみを邪魔するような趣味もない


 何事にも加減がある、過ぎたるは及ばざるがごとし、されど”及び腰”も”過ぎたるがごとし”なのです


 ”たまり場”には、ライブハウスのようなうねりが存在し、心が動かされた時は、自然と身体が反応するものです

 なんでもかんでも飛び跳ねたりダイブしたりするのは、僕の趣味ではありませんが、気持ちが揺さぶられれば、身体を動かさずにはいられません


 ”Yes, It's Rock'n'Roll !!(*2) "


 楽しむ場に行って、楽しまないのは罪であります


 それと同時に”祭り”は必ず終わる、自分だけお祭り気分を引きずるのは興ざめという物です


 この二つをわきまえることで、人生は良い顔で過ごせる時間が長くなる


 さて、酔っ払いがその場の状況を悪用して女性と手をつないでウキウキしている話は終わりです……と言ってしまうと、何のありがたみもないですが、まぁ、最初から申し上げているように啓蒙する気はさらさらございませんので悪しからず


 ただ、今回の件で僕が申しあげておきたいことは一つだけ


 ”ここぞという時のために、隣の席は空けておけ!” でございます


 ではまた次回

 虚実交えて問わず語り


注釈

(*1)つり橋効果とは不安や恐怖を強く感じている時に出会った人に対し、恋愛感情を持ちやすくなる効果のこと

カナダの心理学者であるダットンとアロンが、つり橋を使って実験した結果を元に提唱した学説であるため「つり橋理論」「つり橋効果」といわれる



(*2)Rock'n'Roll(ロックンロール)とは1950年代半ばに現れたアメリカの大衆音楽スタイルの呼称

語源については、古くからアメリカ英語の黒人スラングで「性交」及び「交合」の意味であり、1950年代はじめには「バカ騒ぎ」や「ダンス」という意味もあった


(*3)第11話 たまり場ダイナミクスの冒頭参照

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885225268/episodes/1177354054885297568

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る