うちのカミさんがね……

第15話 ベランダから聞こえる”移民の歌”

 カミさんと出会ったのは、もう20年以上も前になる

 カミさんは当時まだ10代だった

 僕とカミさんの年齢は9歳離れている

 僕としては、出会った時点でいろいろと範囲外だったので、”面白い子だなぁ”とは思ってみていたが、女性として僕の関心をそそうよなことは何一つなかったと言っていいかもしれない


 ある朝、僕が布団から起きて身支度をしているとベランダから奇妙な声……奇声が聴こえてくる


”あああーーーあっ!”


 何事かとベランダを覗くとカミさんが洗濯物を干しながらレッド・ツェッペリンの『移民の歌』(*1)を口ずさみ……いや、シャウトしながら僕のパンツを干している


”なーんだ、歌ってるのか”

 で、済ましてしまう僕にも問題はあるのかもしれないが、カミさんと出会ったころのことを考えれば、それは日常茶飯事なことであり、故にカミさんであると言っても過言ではないのである


 何故にそうなのか?


 僕が勤めていた会社が、新規事業として漫画喫茶(*2)を始めた。そこにアルバイトとして雇われたのがのちに”うちのカミさん”になるのだが、彼女の評判として現場から聞こえてきたのは、朝のオープン前の掃除のときに”ずっと歌っている”という話だった


”それもエレベーターの中から聞こえるくらい大きな声で”


 当時は確かglobe、スピッツ、華原朋美、JUDY AND MARY、ポケットビスケッツなどが流行っていたのかな


 そういうものをやたらとでかい声で歌っているとか、真面目なのだが、しっかりはしていない、むしろうっかりだ、とかいつも肩に力が入り過ぎだとか、上司に対して物おじしないところが面白いなどと言われていた


 それがどうしてどうなって僕のカミさんになったのか


 結婚式の二次会で、僕の大学の後輩バンドをバックにJUDY AND MARYの”くじら21号”を熱唱したまではよかったが、ステージの”返し(*3)”があまり良くなかったので自分の歌がちゃんと会場に聞こえていないと文句を言い、なんと同じ曲を誰もアンコールしていないのにもう一度歌ったカミさん


 正直に言うと、他の誰の結婚式よりも自分たちの結婚式~披露宴~二次会が楽しかったと、それだけは自慢なのだが、今週は”カミさん”についてあれこれと書き連ねようと思うわけです


 安心して下さい


”のろけ”は、ほぼありません


 ではまた次回

 虚実交えて問わず語り



注釈

『移民の歌』(*1)

(いみんのうた、Immigrant Song) は、イギリスのロックグループ、レッド・ツェッペリンの楽曲。1970年、彼らの第3作アルバム『レッド・ツェッペリン III』のA面1曲目に収められて発表された。

プロレスラーのブローザー・ブロディの入場曲として有名


漫画喫茶(*2)

当時はまだ出店数は少なく、インターネットなどの環境もそろっていなかったので純粋に漫画を読むだけだった


ステージの返し(*3)

ライブハウスなどで客側に向けられたスピーカーとは別に演者が自分たちの演奏を聴くために用意されたスピーカー。観客席に向けた音を外音、ステージ内の音を中音などと言う

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