5.魔女の阻止
ミソギは窓の縁に足を乗せると、思い切り蹴り飛ばすようにして宙に飛び出した。
窓から数メートル離れた場所には城壁があり、そこから回廊が奥へと伸びている。城壁の上に転がるようにして着地した数秒後、カレードも同じように続く。ミソギより背が高い分、窓から出るのに苦労したが、着地は至って鮮やかだった。
「どこから登れるんだ?」
戦争が多かった時代の名残、要塞として機能していた王城は、外から見れば荘厳でも、上から見れば様々な建物の「寄せ集め」だった。
石造りの状壁の内側に、住居棟や別棟などが敷き詰められ、それらに蓋をするように回廊が出来ている。つまり、回廊は平坦な道ではなく、様々な建物の屋根と一体化しているということだった。
「屋根を使えば、一番高い塔の中腹までは届く。大剣、塔の上まで辿り着く自信は?」
「俺は飛剣じゃねぇから無理だが、何も辿り着く必要はねぇよ」
カレードは不敵に笑うと、背中に背負った身の丈ほどの剣を引き抜いた。
「何処に飛ばせばいいかだけ教えろ。そうすりゃ塔の先端なんて言わず、塔ごとふっ飛ばしてやる」
「頼もしいね。念のため、何でふっ飛ばすのか聞いてもいいかい?」
カレードは誇らしげに、左手で何かを掲げて見せた。球体状の黒い塊は、先日入手したばかりの魔法具だった。
「あぁ、それ持って来たの。結構いい威力だよね」
「爆発魔法が入ってるんだろ?一回試して見たくてさ」
「あの魔女が止められるなら四の五の言わないよ。どうせ、この王城に俺達はなんの思い入れもないしね」
ミソギの許可が下りたと判断したカレードは、口角を吊り上げた。
「じゃあいっちょ、行ってくるわ」
「あぁ、頼むよ」
空を歪めながら近づいてくる「魔女」を睨み付けながら、ミソギはそう呟いた。
「王城に思い入れはなくても、俺達はこの国を守る義務があるからね」
その言葉をきっかけにカレードは足元を蹴った。回廊の端の手すりに飛び乗り、そこから居住棟の屋根へ移動する。
あまりの勢いの良さに屋根の瓦が一部弾け飛んだが、カレードの視界には入らなかった。
続く別棟は居住棟よりも高い位置にあったが、カレードは軽々と飛び越えて、またも屋根を砕く。普段は閉め切った城だけあって、派手な音を立てても誰も出てくる気配はなかった。
傾斜のついた別棟の屋根を走り抜け、目指すべき塔へと辿り着く。入口があるわけでもなければ階段が存在するわけでもない塔の壁へ突進しながら、カレードは剣を握りなおした。
「はぁっ!」
息吹と共に巨大な剣を振るう。風切り音が響き、剣の先が塔の壁に減り込んだ。
頑丈に作られているはずの石壁が歪んだ音を立ててひび割れる。上下に伸びたヒビを目がけ、カレードは続けて剣を振り下ろした。
人の足が入るほどのヒビが出来たと同時に、その割れ目に右足をかけ、勢いよく飛び上がる。
カレードは後先は考えない、しかし結果だけは「知っている」。貧民街で生きるか死ぬかの二択で生きて来た男は、直感だけは誰よりも勝っていた。
左手に握っていた、爆破魔法の入った手榴弾をひび割れに向かって投げる。
その手榴弾は十三剣士がホースルに頼んで取り寄せたものであり、作成は合法的であるが入手経路が違法という、グレーゾーンにある武器だった。
「疾剣! どっちだ!?」
「八時の方向!」
ミソギの声が、魔女の方角を教える。
カレードは手榴弾目がけて、剣を振り下ろした。
爆発音があたりに響き、爆撃がひび割れを直撃する。カレードの剣撃によって弱っていた塔の壁には、それに耐える力が残っていなかった。
塔にある窓の縁を掴んで、爆風の直撃を回避したカレードは、不吉な音を立てながら揺れる塔を見上げる。
今度は窓枠に足を掛けると、真っ直ぐ上に飛び上がった。
揺れる塔と、歪んだ空と、どこからか聞こえる不協和音。
魔女は塔のすぐ傍まで迫っていた。
色彩鮮やかな雷を放ちながら、それはカレードに向かって凝縮された闇を広げた。
しかし、カレードはその状況の中で笑いながら、最後の一撃を塔に振り下ろす。その目には純粋な享楽があった。
「くたばれ!」
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