15.マイペースな商人
「すみません、ごちそうになってしまって」
ミソギが礼を述べると、シノが首を横に振った。
「気にしないで下さい。いつも兄達がお世話になっておりますから」
「いや、とんでもない。セルバドス隊長にはいつもお世話になってばかりで。道中お気を付けください」
二人が去った後、ミソギは傍らで依然として考え込んでいるホースルに目を向けた。
「どうしたんだよ、一体。あんたにしてはボケッとしてるじゃないか」
「別に私はいつも通りだ。そもそも、お前やあの二人みたいに頭の回転が速いほうではない」
「まぁ、確かにあんたはマイペースだね。で、何を考えてたんだい?」
「気になるのか」
「あんたを放っておくと、妙なことを勝手にしでかしそうだから」
ホースルは小さく首を傾げたが、それは疑問から来るものではなく、単に首にかかった髪を振り払っただけだった。
凡そ社会性と言うものが欠如しており、人間の生態を理解しているとは言い難いホースルであるが、ミソギに対しては一定の「礼儀」に似たものは所持している。それが例えば「殺すにしても、明日にしてやろう」程度の物だとしても、ホースルにとっては立派な礼儀のうちに含まれていた。
従って、その相手から投げかけられた質問にも、本人なりの礼儀を持って回答する。
「放火されたのは、いずれも店舗だ。店舗に火が放たれたとなると、どうしても人々はその店が気になるだろう」
「まぁ、一般家庭が放火されるのと違って、どこのどういう店かっていうのが正確に伝わるからね」
「それはつまり、注目を集めると言うわけだ。良くも悪くも」
「じゃあ経営者が自分の店に注目を集めるためにやってると?」
「良くも悪くも、と言っただろう。衆目に晒されるというのは、必ずしも店の評価には繋がらない。お前は「放火された店だから、初めてだけど入ってみよう」となるか?」
「……それは、ならないけど。俺達みたいに調査しているとか、あの二人みたいに前から利用していたなら兎に角」
「まぁあの赤毛には、見回りの意味もあったのだろう。その辺りは抜け目のない男のようだからな」
ホースルは今出て来たばかりの『アズレイス』を振り返ると、小さく鼻で笑った。
「なんとなく犯人の目的が読めて来た。おい、疾剣。軍の見回りルートを教えろ」
「部外者に教えるわけないだろ」
「教えないなら、違う者に聞くまでだ。基地の半分ぐらいを破壊したら教えてくれるだろう」
「やめろ」
それが脅しでも嘘でもないことを知っているミソギは、すぐに制止する。
「お前の個人的興味のために基地を壊されたら堪らないからね。特別に教えてあげるよ。でも悪用しないでね」
「無論だ。一応お前には感謝はしている。こうして無事に堅気になれたからな」
「いや、まだあんたは堅気とは言えないよ……」
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