3.ミソギ・クレキ
「どうもすみませんでしたー」
黒髪の軍人は明らかに納得していない顔で、身元引受人の書類にサインをした。筆記体を用いない不慣れな文字を、カルナシオンは一つ一つ区切るように読む。
「ミ、ソ、ギ、ク……クレ、キ。ミソギ・クレキでいいのか?」
「あぁ、すみません。ヤツハの生まれで一年前にこちらに来たばかりでして。喋るのは問題ないのですが、文字が苦手なんです」
ミソギは苦笑しながら、ペンを置いた。
「十三剣士隊が身元引受人っていうのは初めて見たな」
「あぁ、保護したのが俺達なんですよ。彼は各国を転々としていた行商人で、瑠璃の刃の抗争時に危険地帯から動けなくなっていたので、フィンに連れて来たのですが、どうも常識がなくて」
「おい、クレキ軍曹。常識がないとはなんだ」
「あんたのことだよ。此処はハリじゃないんだから、ちゃんと手続きをして商売しろって言っただろ、俺が!」
ミソギはそう怒鳴りつけた後で疲れた様子で額を拭った。
「あと礼儀もないので、失礼をしたかと思います」
「いや、俺は構わないんだが……。軍曹、なんか疲れてないか?」
「疲れもしますよ。移民の身元保障ぐらいは入居や転居の際に何度かやりましたけどね、犯罪犯したから迎えに来いなんて連絡はこれが初めてです」
「良い記念になったではないか」
ホースルがそう言うのを、ミソギは睨み付ける。
「後で首に新しい風の通り道を作ってあげるよ」
「下から上に風が通るように頼むぞ。何しろフィンは寒いからな」
「反省してるのかい、お前は」
「反省はしている。次はバレないようにする」
そのやり取りを見ていたカルナシオンは小さく首を傾げた。
「仲がいいんだな」
「冗談は辞めてください! こいつと仲良くなんかありません!」
「クレキ軍曹」
「なんだよ。俺はお前の身元引受人ではあるけど、お前と戯言に付き合う暇なんかない」
「俺の話し方は変か?」
「はぁ?」
呆気にとられるミソギに対して、ホースルは淡々と指摘されたことを説明する。
「というわけで、俺の話し方は少々おかしいようだ。何故今まで指摘してくれない」
「知らないよ。俺だって移民だし」
「お陰で恥を掻いたじゃないか。責任を取れ」
「誰が取るか! 大体俺の話を……勝手に帰るなぁ!」
踵を返して出て行くその後ろ姿に、ミソギは苛立った声を投げる。
「そこで止まらないと本気で殺すからね。本気だぞ。いいな」
「じゃあさっさと手続きとやらを済ませろ」
「だからなんで、あんたはいつも偉そうなんだよ!」
ミソギは必要な個所に記入を済ませると「詳しいことは明日連絡します!」と言い残して、ホースルの後を追いかけて行った。
それを見送りながらカルナシオンは肩を竦める。
「なんだありゃ」
「変な人ね。今の商人、何歳?」
「十八。俺達と同い年だとよ」
「それであんな千年生きた魔法使いみたいな話し方するの? 失礼なうえに変わった男ね」
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