2.事情聴取
「ホースル・ビステッド。何処の出身だ?」
「何処、とは」
「だから、どの国で生まれたか聞いてるんだよ!」
「……どの国、とは」
「お前、揶揄ってるのか!?」
刑務部の取調室で、カルナシオンは大声を出す。
対する商人はきょとんとしていたが、少し考え込んだ後に手を叩いた。
身長は平均より高いうえ、捕まったにも関わらず堂々と背筋を伸ばしているので、余計に大きく見える。捕縛された時に外れたバンダナとフードも元通りになっており、そのために表情がわかりにくい。
「出身地か」
「当たり前だろ」
「何処と言われても困るのだが、俺は孤児だから正確なところはわからない。孤児院も転々としたので、正直何をもって故郷とすべきか不明だ」
「あぁ、そうかい。じゃあ最後にいた国は」
「ハリ」
「いつこっちに来た」
「半年前だ」
「じゃあお前、こっちに来てからずーっと、ずーーーーっと、制御機関の前で無許可営業していたのか! いい根性してるな!」
「仕方ないだろう。金もないし職もない。それとも俺に飢えて死ねと」
「商売人なら、その国の営業法ぐらい把握しろよ。ハリで捕まらなかったのか?」
「捕まってはいない」
カルナシオンは溜息をつく。商人というのは多かれ少なかれ、利益のために法の目を掻い潜る傾向にある。自分の目の前の男もその手合いだと判断した。
「よくまぁ、堂々と……。さっきの反応からして、絶対お前自分が無許可営業だって知ってたな?」
「知らない。何やら怖い顔したのが追いかけて来たので逃げただけだ」
「嘘つけ。お前、ハリにいたってのも嘘だろ」
そう指摘すると、ホースルは困った顔をした。
「嘘ではないが、何故だ」
「ハリとフィンは多少訛りの差はあるけど、同じ「西アーシア語」だ。お前、教本に書いてるような言葉遣いしてるから、訛りを誤魔化しているんだろうと思ったが、そんな喋り方でずっと商人をしてたなんて嘘くさい。普通はもっと警戒心を和らげる言葉遣いにするはずだ」
「……なるほど、それは盲点だった」
「盲点って、お前」
「まぁ色々あるんだ。気にするな」
「気にするわ! それに半年前というか一年前からハリからフィンへの渡航、移民は制限されてるんだぞ。お前、どうやって来た!?」
「歩いてきた」
「密入国か?」
「まさか。ちゃんと然るべき手続きは取ったから調べてみるがいい」
「偉そうだな、お前」
「話し方がまずいか。そうか」
何やらマイペースに納得している相手にカルナシオンがもう一度怒鳴りつけてやろうかと考えた時、ノックの音がして扉が開いた。
「外まで響いてるわよ、カルナシオン」
「なんだよ。何か用事か?」
「移民で商売法違反だと管理部の方にも問い合わせがあるのよ」
シノ・セルバドスは書類を手渡す。
「彼は軍の保護規定に従ってハリから移民している」
「軍? 商人だろ?」
「民間よりも軍経由のほうが許可が下りやすいから、珍しいことではないわ。半年前だと瑠璃の刃の件も一段落して、犯罪者を入国させる可能性も低くなっていたし」
「ふーん。まぁそっちに違反がなけりゃいいや。あんがとよ」
「どういたしまして」
シノは真面目な顔をして言いながら、ホースルを見た。
「貴方、何で制御機関の前で商売なんかしたの?」
「商売がしやすそうだった。この建物から人が出てくる時間帯は決まっている。商店街がこの先にあるから、必要なものはそこで買うだろう。しかし、建物まで戻った時に買い忘れに気付いた場合、あるいは購入までに時間を要する場合は手近に済ませたいのではないかと思った」
「つまり、そのニッチなところに入り込んだってわけね」
「あぁ」
「仕入れはどうやって?」
「商店街の各店舗と契約して、忘れやすいものを代行販売していた。マージンを貰って生計を立てていたから、商店街の者達の邪魔にはならなかったはずだ」
「へぇ」
シノは口元に妙な笑みを浮かべた。
「天下ご用達のあの商店街で商売法を知らない者はいないわ。素性の知れない貴方と即時契約を結ぶとも思えない。取引には契約書を用いる。契約書は正規の商人でないと手に入らない」
つまり、と嬉しそうな調子で続けた。
「貴方、違法文書も使ったわね」
「……」
ホースルが小さく舌打ちをした。
「なんだ、この煩い女は」
「失礼ねぇ。管理部のシノ・セルバドスよ」
「そうか」
「貴方、身元引受人はいる?」
ホースルはその言葉に数分考えこんだ後で頷いた。
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