7.IASAの現在と活動

「みなさん、私の研究室へようこそ。先進科学者アドヴァンスト・サイエンティストのテレスです」

「アリスでーす!」

 いつものように、左にはテレス博士。右にはアリス。……ん? いつもと並びが逆になってますな。


            ◇


「ねぇ、博士。今日はアリスと博士の立ち位置が違うんですけど……何か意味はあるんですか?」

「ないわよ。恐らく、中の人がコピペ防止とかいって、適当に書いてるんだわ、きっと」

「博士……ものすごーく冷たい声で、辛辣に吐き捨てるように言わないで下さいよぉ。……アリス、寒気がしてきちゃいました」

「あ、ごめんなさいね、アリス。決してあなたに向けたものじゃないから」

 そう言ってアリスをぎゅっと抱き締めるテレス博士。

「うわわぁっ! 止めて下さいよぉ、テレス博士ぇ……。」

「そうね——」

 そう言って、テレス博士はあっさりとアリスを解放する。

「——今日のお題は、これ!」

 テレス博士がチョークを掴む。

「……現在の、IASA?」

「そっ! 20世紀初頭に組織されたIASA。それはこれまで歴史の影で様々な先進技術をコントロールしてきている。でもね、決して隠している訳じゃないの」

「そーなんですか?」

「ええ、IASAは全ての技術の存在を公式サイトで明らかにしているわ。でも、現代社会がそれを受け容れていないだけなのよ」

「と、言いますと?」

「この講義を始めたときに、話したでしょ? 私たち先進科学者アドヴァンスト・サイエンティストが『時間は時粒子タキオンに支配されている』とか、『重力は重力子グラヴィトンの作用で成り立っている』って言っても、それ以外の科学者たちには眉唾モノにされてしまうって」

「あ、そう言えば……」

「人はね、自分の目で確認したものでないと、心底信用できないのよ。だから、私たちの技術や理論はトンデモ科学、疑似科学として扱われてしまう。それを認めた一部の人間しか分かり得ない。IASAの公式サイトは夢物語でいっぱいで、好事家の妄想の発表の場所、と考えている人たちが多いのよ」

「へぇぇ」

「ま、そのお陰で危ういながらも技術進化のバランスが取れているのよね。『信じるか、信じないかはアナタ次第です』ってところかしら。……じゃ、現在のIASAに関するデータを表示するわね」

 テレス博士が黒板をコン、と叩くといつものように白くなって文字が浮かび上がってくる。


 ・本部     ドイツ デュッセルドルフ

 ・北米支局   アメリカ ピッツバーグ

 ・南米支局   ペルー ナスカ

 ・豪州支局   ニュージーランド クライストチャーチ

 ・アジア支局  日本 東京

 ・アフリカ支局 エジプト ギーザ


 ・登録先進科学者アドヴァンスト・サイエンティスト 3,865名


「ホントに世界的な組織なんですね。それ以上に驚いたのは、案外と少ないんですね、私たちの同業者って」

「まぁね。少ないから、歴史の影に埋もれているとも言えるわ。……さてアリス、ちょっと思い出してみましょうか。IASAは何の略だったからしら?」

「あ、博士! 馬鹿にしてるでしょぉ。でも、ちゃーんと分かりますよ! それは『いんたーなしょなる・あどばんすと・さいえんてぃすと・えーじぇんしー』ですよね!」

「ハイ、正解。よくできたわね。では、もう一つ。"agencyエージェンシー"ってどんな意味?」

「えっと、『代理店』とかですかぁ?」

「あら、今日は随分と正答率高いじゃないの! 素晴らしい! そう、"agency"は代理人、代理店といった意味ね。先進科学者アドヴァンスト・サイエンティストに代わって、理論や技術を管理する『代理人』ってこと。でも、それを行うには資金が必要になる。で、IASAの活動を支援してくれる後援者スポンサーがいるの。当然、表だってはいないけどね」

「どんな会社がスポンサーになってるんですか?」

「有名なところだと、アメリカのスパイラル・エンタープライズや、日本の星野グループ、ドイツのニューベルン・コーポレーション、イギリスのノーザン・デッカー社などなど」

「超有名企業ばっかりじゃないですか!」

「そう。彼等は活動資金を提供する代わりに、IASAから今の時代でも理論や技術の一端を借り受けるの。……まぁ、許可が下りるまで時間は掛かるんだけどね」

「えー! じゃ、後援企業だけがそういった技術を独占できるってことじゃないですか! ズルイじゃないですか!」

「まぁまぁ。確かにアリスの言う通りね。でも、そんな技術が一般に出てきているの見たことある?」

「……ない、です」

「そうよね。IASAはあくまでを垣間見せているのみ。そこからはそれぞれの企業が独自で研究開発をしているの。彼等にも一定の苦労と時間を掛けてもらっている。……でもね、IASAが率先して技術開発したこともあるのよ」

「えーっ! 本当ですか?」

「ええ、本当。……その技術、なんだと思う?」

「……んー、なんだろ?」

「今日は冴え渡っているアリスでも、無理かしら?」

「茶化さないで下さいよぉ、博士ぇ……って、あ、もしかして!」

「あら、思いついた?」

「うふふ、今日のアリスはひと味違いますよ! それは『核融合発電』でしょ!」

「すっごーい、アリス! 正解! その通り、『核融合発電』です。これにはね、こんな背景があるの。……2011年に日本で大きな地震があって、そのとき、福島原子力発電所の核反応炉が炉心融解メルトダウンを起こして、国際原子力事象評価尺度INESに於いて最悪のレベル7を記録した事故になった。それまで最悪とされていた1986年にロシアで発生したチェルノブイリ原発事故を上回る事故。被害が甚大だっただけに、IASAの日本支局からの提案もあり、常温核融合発電の技術開発がIASAの主導で進められたわ。……それでも、5年の歳月を要したわ。たくさんの先進科学者アドヴァンスト・サイエンティストと支援企業の総力を結集して技術が結実し、国際原子力機関IAEAの名の下に、この技術を発表したの」

「IASAの名前は出てこないんですね」

「そりゃ、そうよ。IASAはあくまで歴史の影。歴史の表舞台に出てはいけないのよ」

「なるほどぉ」

「これからも時代を超越した理論や技術は生まれてくる。だから、私はこう思うの。いつの日か、人間の力をもってすれば、『技術進化の壁理論』なんて、打ち破れるんじゃないかって。そのときが来れば、IASAもいらなくなるのかな、なんてね」

「そんな日が早く来るといいですね、テレス博士!」

「きれいにまとまったところで、今日のお話はおしまい!」

「えー、もう終わりなんですかぁ? ……でも、何だかナットクできたんで、よしとします!」

「うんうん。……それじゃ、次回からは様々な理論や技術に関する『各論』に入っていきましょう。では、みなさん、ごきげんよう!」

「まったねー!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アリスとテレス博士 大地 鷲 @eaglearth

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ