6.IASAの歴史 その2

「みなさん、私の研究室へようこそ。先進科学者アドヴァンスト・サイエンティストのテレスです」

「アリスでーす!」

 ——毎度毎度の同じセリフ。コピペしてるのがバレたらどーすんだよ! たまには気の利いたことを言ったらどーですか? 二人とも——


                ◇


「なんだか、随分と時間が空いちゃった気がするんですけど……」

 首を傾げたアリス。

「ま、そこは中の人の都合とか色々あるんでしょ? 私達には関係ないこと。……さて、アリス。前回は何処までお話ししたんだっけ?」

「……んーと……えーと、アインシュタインがノーベル賞を取ったのが光電効果だったってことでしたっけ?」

「ま、当たらずも遠からじってところかしらね。アインシュタインのノーベル賞が光電効果だってのは当たってるけど、本当は『一般相対性理論』で取ってやるー、みたいな感じでIASAから無理矢理引っ張り出したって言わなかったっけ?」

「あー! そーだ、そーでした。……うにゅう、わたし……物覚え悪いなぁ」

「そんなのは気にしなくても大丈夫。じゃ、話を続けていくわよぉ。……で、アインシュタインが『一般相対性理論』を公表しちゃったお陰で、色々な事件が起こったわ。そして、悲劇も——」

「悲劇?」

「そう——『一般相対性理論』は見事過ぎた。そして、やっぱり早すぎたのよ。E=mc2……これの意味するところは前にアリスが言った通り、質量とエネルギーの等価性、定量的関係性を表している。……どういうことか……分かる? アリス」

「えーと、つまりは……質量は……エネルギーに変換……できる?」

「正解よ、アリス。まぁ、ここまでは物理を嗜むものであれば、容易に辿り着けるわ。問題はこの先。ちょっと難しくなるけど、しっかり付いてきてね」

「……うう、大丈夫かなぁ」

「ま、出来るだけ簡単にしてみるわ。質量はエネルギーに変換出来る——自然界でも見ることができる。例えば、バーベキューをやるときの火元になる木炭や練炭。火を付けると燃えて、お肉や野菜を焼くことが出来る。火が消えると炭は灰になる。その重さはどうなるかしら?」

「軽くなりまーす」

「そうね。ちょっと乱暴過ぎるけど、一般相対性理論を身近な例で示すとこうなるわ——炭に火が付いて熱エネルギーを発して、灰になったから軽くなる。つまり、炭の重さが熱エネルギーに変換されたと考えられるわよね?」

「ふむふむ。確かに」

「じゃ、次は高度になるわよ! 原子には安定しているものと不安定なものがあるって分かる?」

「……え? それってどーゆーことですか? 何をもって安定、不安定って」

「じゃ、例を挙げるわね。安定しているものは水素、酸素、鉄、ヘリウム、カルシウムなどなど。で、不安定なのはウラン、ラジウムが好例ね」

「……もしかして、放射能を発するものが不安定ってことですか?」

「その通り。でもね、考え方としては逆なの。不安定だから、放射能を発しているの。不安定だから安定になるために、放射能を発しながら崩壊して二つの別の原子になる」

「ふむふむ」

「ウランは崩壊するとクリプトンとバリウムになるんだけど、例えば1gのウランが崩壊したら、クリプトンとバリウムは合わせて何グラム出来ると思う?」

「え? それって、質量保存の法則から考えると1gじゃないんですか?」

「高校レベルの科学ではそうなるわね。でも、実際には1gに満たないの。そこを相対性理論を絡めて考えると——」

「あ、分かった! 軽くなった分はエネルギーに変換されちゃったんですね!」

「うんうん、正解よ、アリス。このとき発生するエネルギーはそのE=mc2で計算することが出来るの」

「……でも博士ぇ、これが悲劇とどう繋がるんですかぁ?」

「このように核分裂を用いると膨大なエネルギーを手に入れることが出来る。エネルギーの使用法——それは明暗いずれの方法にもなり得る。明は普通に生活のエネルギーとして。暗は破壊のエネルギーとして……」

「まさか……原子爆弾!」

 大きく目を見開いたアリスに、テレス博士は無言で首肯した。

「……先進科学者アドヴァンスト・サイエンティストでなくても、それ以上に頭のいい科学者は沢山居る。そして、その頃は第二次世界大戦中。ナチスドイツが原子爆弾の開発をしているという噂に戦々恐々となった米国はマンハッタン計画を発動する……」

「……」

「そして、実際にヒロシマ、ナガサキに原爆が投下され、アインシュタインは己の我が儘による浅はかさを呪ったの」

「……そーだったんですね」

「でも、その後のアインシュタインは世界平和に尽力したわ。IASAの活動と共にね。……さて、ここまででIASAの設立に関する歴史はおしまい! 次回は現在のIASAと活動についてお話ししましょう。それではみなさん、ごきげんよう!」

「まったねー!」

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