5.IASAの歴史 その1
「みなさん、私の研究室へようこそ。
「こんにちは、アリスでーす!」
いつものように黒板の前にはアリスとテレス博士が立っている。
『技術進化の壁理論』にはピリオドが打たれたためか、黒板に描かれていた曲線と直線は最早消されていた。
では、今回は新しいテーマかな?——
◇
「なんだかんだでもう五回目になるんですね、テレス博士」
「そうねぇ、アリス。今までは昔のお話——最初の
「
きょとんとしたアリスに対し、テレス博士は茶目っ気たっぷりのウインクを送ると、人差し指を振る。
「ちょっと違うわ。現在に繋がる話。……アリス? あなた、前回の最後に何か言おうとしてなかったっけ?」
「……ほよ? ……あーっ! ……何でしたっけ?」
思い出したかのようなリアクションから一転して首を傾げるアリス。それを見てオーバー気味にズッコケるテレス博士は、お約束の様式美と言えよう。
「まったく、忘れっぽい娘ねぇ。……『
「あ、そうかも!」
「そうかも、じゃなーいっ! その団体が前身だった組織を言おうとしてたんじゃないのかしら? アリスは」
「あ、そーでしたそーでした! ……思いだしましたよぉ、はかせぇ!」
「OK! ハイ、ではどうぞ!」
「それは『IASA』でーすっ!」
「よくできました♪」
テレス博士はアリスの頭を撫でる。
くすぐったそうに目を細めるアリスであったが、すぐに博士がチョークを掴んで、何やら黒板に横文字を書き始めた。
International Advanced Scientists Agency
カッ——とチョークを止めたテレス博士。
「えーと……いんたーなしょなる・あどばんすと・さいえんてぃすつ・えーじぇんしー?」
「そうね、International Advanced Scientists Agency——IASAの正式名称よ。その頭文字を取って『IASA』としているの」
「へぇ、そーだったんですか」
「設立当初はAdvence Scientists International Agency、『ASIA』のどっちにするかで揉めたらしいわ。まぁ、これだと、『アジア』と読めちゃうから、欧米諸国の
「なるほどー」
「で、IASAになったワケだけど、読んで字の通り、先進科学者たちの交流とその研究——技術や理論を含めた発明、発見を管理する団体ね。これまでの話の流れで分かると思うけど、『
毎度の如く、黒板がホワイトボード状になり、そこに一文が浮かび上がる。
『——科学の進歩は人類の生活等に恩恵をもたらすと同時に、多大な弊害も生み出す。過去の歴史を鑑みても、科学の劇的な進歩が戦争を誘発している、ということは否めないものである。
人類最大の危機がどのような形のものであるかは我々には言及できないが、過去と同じ轍を踏むのであれば、技術進化の産物をきっかけとする世界戦争が勃発するのではないだろうか——』
「1915年にチェコのプラハでこの宣言が発表され——ま、これはその一部だけど——当時は大々的なニュースにもなったわ。でも、全世界のほとんどは眉唾物と決めつけ相手にもしなかった。特にドイツではアインシュタインがユダヤ人だったってことも相まって、風当たりが強まっていたのよね。で、IASAは一部にしか認められない組織になっちゃったの」
「何だか不遇ですねぇ……」
「でもね、ある意味それはいいことだったの。技術に関する発明発見は、最終的にはその科学者個人に委ねられたけど、当時にしてみればオーバーテクノロジーになりかねない多くの技術が、注目を浴びずにIASAの管理下に置かれていく。
それは例えば、レーザー光線の基礎となる誘導放出の実験であったり、マイクロマシンの設計法だったり、様々なものがあったわ」
「ふむふむ」
「その中には『一般相対性理論』もあったんだけど、これ、実はアインシュタインが半ば強引に発表しちゃったのよね。その理由が可笑しいの。アインシュタインには、ミレーバという妻がいるにも関わらず、又従兄弟のエルザに恋しちゃってね、どうしてもエルザと結婚したくて、ミレーバにノーベル賞の賞金を全額渡すことを条件に離婚を提案したの。その破格の条件にミレーバは承諾。アインシュタインはノーベル賞を取るために『一般相対性理論』をIASAから引っ張り出して発表しちゃったの。確かに、相対性理論は新たな科学の原点となり得たから、ノーベル賞受賞は確実と思われた。それだけに、ヴォルフラムたちは渋ったみたいだけど、アインシュタインの心の平穏のために承諾したそうよ。皮肉なのは、ノーベル賞を取ったのは相対性理論じゃなく、『光電効果の発見』だったってことね」
「何だか、色々と変な人ですね、アインシュタインって」
「ま、変わり者っちゃ変わり者よね。……でね、このアインシュタインの我が儘が後の悲劇を生むことになるのよね」
「え! そーなんですか! ……でも、どーせ、ここで『続きはまた今度!』って言うつもりですね? テレス博士っ!」
「察しがいいわね、アリス。じゃ、そーゆーワケで、続きはまたの機会に! ごきげんよう!」
「みんな、まったねー♪」
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