18.「有給消化してください」
そしてその翌日。
橋多さんによって、DMプロジェクトの社内ミーティングが招集された。
「……既に聞いている人もいると思いますが、DMプロジェクトは一旦仕切り直しとなります。そして、以後は彼がディレクターという形で進めます」
「……よろしくお願いします」
立ち上がって言った俺に注がれる、冷たい視線。
そもそも、プログラマやデザイナーから見たプランナーという仕事は、決してイメージのいいものではない。
一言で言えば、「絵もプログラムも書けないワナビー」というのがその認識だろう。技術も知識もないのに好き勝手な要求ばかりし、仕事もせずに口うるさく催促をし、時には仕様変更ですべてをひっくり返し、そして手柄は全て自分たちのものにする――それが「プランナー」だ。
だが、このDMプロジェクトにおいては正直なところ、まったく反論の余地がなかった。この1年あまりで、ガモノハスにおける「プランナー」という職種への信頼は、完全に地に落ちている。
俺が戦わなければいけないのはまず、このことだった。
「まぁ、こういう形でプロジェクトを仕切ることになりましたが、DM2の基本方針はまだなにも決まっていません」
おれがそう切り出すと、会議室に集まったスタッフたちから失望と冷笑が漏れた。
やっぱりこいつもそうだ、プランナーってのは、俺たちにぶら下がってるだけのクズだ、それならいない方がマシだ――
そう言わんばかりの視線を受けながら、俺は言葉を継ぐ。
「……ですので、とりあえず明日から1カ月ほど、みんな休みをとってください」
―――え?
会議室の中がクエスチョンマークで満たされた。
「みんな有給たまってるでしょ? 正直今やることなんもないし、いい機会だから全部消化しちゃってください。その間に仕様書とか書いとくんで」
他に色々と、先方の状況なども伝えつつ、その日の会議はそれだけ。
戸惑いながらスタッフたちが会議室を出たあと、俺は主要メンバーの何人かを会議室に残した。
プログラマの眞山。
デザイナーのミノさんと菜月。
プランナーの阿達、宮谷くん。
「……そういうわけで、君たちには休みはないんだけど」
「……そうだろうと思ってたけどね」
「ごめん」
眞山が毒づき、ミノさんが頷く。阿達は爆笑し、菜月は困った顔で苦笑いをしていた。
俺は続ける。
「みんなが休んでるこの1カ月が勝負だと思う。後はとにかく作るだけ、っていう状況に、どれだけ早く持っていけるかが開発のキモだ」
そしてそれが、プランナーやディレクターの最大の仕事だ――
プランナーやディレクターは技術を身につけなかったクズのやる仕事ではないし、そこには確固たる技術と知識が存在する。
そのことを、わからせてやる。ガモノハスのスタッフにも、そして伊佐崎や田山や、この会社の上層部にもだ。
ゲームが売れるかどうかなんて、この際関係ない。
これは飽くまでも個人的な動機での、俺自身の戦いであり、「プランナー」という仕事の敵討ちだった。
* * *
その日から1カ月、まずはゲーム開発の基本的な部分を固めなくてはならない。
最初にやることは、開発チームの体制づくり。
まずなによりも優先するべきは――
「……窓口を比良賀さんに1本化する、か」
橋多さんは眉間に皺を寄せて俺の話を聞いていた。
「その話を、伊佐崎さんとかその他の人たちにも認めさせたいんです。なんとか会社としての要望、って形でいけませんか」
「先方が納得するかな」
「これまで迷走したことの反省もあるはずですし、いけませんかね?」
「……わかった、要望としては投げるけど、受け入れられるかは……」
「それじゃ困ります」
橋多さんの話を喰い気味に遮って、俺は身を乗り出す。
「これが受け入れられなければ、引き受けられません」
「……おいおい、今更そんな無茶な……」
「橋多さん、無茶ってのは吹っ掛けられるのでなく、こちらから吹っ掛けるものです」
橋多さんはため息をついた。
「わかった。最初に君に無茶を強いたのは僕だしな……仕事をさせろ、と言ったのも僕だし、ここは君に仕事をさせられることにしよう」
「ありがとうございます!」
俺は頭を下げる。
そうだ――信頼できる人に仕事をさせていくこと。それが俺の役割だ。
DM2版、リリースまであと12ヶ月。
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