5.「で、結局なにを作るの?」
そんなこんなで、Zエンジンの稟議がようやく通り、プログラマも稼働を開始した。
「いや、それはいいんだけどさ。結局なにを作るのよ」
そう、企画会議はまだ迷走している最中。
つまり、作る内容は決まっていない。
予定では、ゲームのキモとなるバトルのシステムを仮に作ったもの、いわゆる「プロトタイプ版」の提出が2カ月半後。
急がなくてはいけないのだが、急ぎようがない――
「まぁ、とりあえずZエンジンの検証もあるから、先にそれを進めてるけど」
眞山を含むプログラマチームはそう言って、これまでのプロジェクトで作ったグラフィックやプログラムライブラリをZエンジン上で動かす試験をし始めた。
――しかし。
「……これ、まずいんじゃないの?」
検証を始めてすぐに、重大な問題が発覚したのだ。
「……つまり、データの持ち方がまったく違うと」
俺はその頃、検証作業ばかりで仕事がヒマな眞山と、ちょくちょく飲みに行っていた。いつもの「とり大名」でなんこつ揚げを
「そう、だから思ったよりプログラムの負荷が高いし、一度に読みこめるテクスチャの数も限られる。ノーマルマップなんか無理」
ノーマルマップとは、3Dモデルの表面に疑似的に凹凸を表現し、よりリアルに見せるための技術のひとつだ。
「でもさ、ほら、これ」
俺はスマートフォンを出して、アプリを起動してみせた。そのころ流行していた、有名ゲームメーカーの3Dゲームだ。3Dキャラクターが動きまわり、さくさくと読みこみも早い。
「……それはたぶん、自社開発の独自エンジンだろ。今からそんなの作る時間無いよ。Zエンジンは向こうの指定だし……」
「まじか……」
Zエンジンのメリットは、iPhone、androidを問わず開発ができることだったが、その分開発の仕方に制限がある。得意なことと苦手なこともはっきりしている。単純な処理速度だけでいえば、専用に自社でエンジンを作れば当然、そちらの方が早い。
でもそれが出来るのは、それこそ大資本のメーカーくらいなものだ。
「それに、そのゲームみたいなアニメ調のグラフィックならごまかしようもあるんだけど。『DM』みたいにリアルな画だとどうにもごまかしようがない……」
眞山は店員を呼びとめ、追加のコーラを頼んだ。俺は手元の梅サワーに口をつけ、考えていたことを口にした。
「……それってさ、どういうことになる?」
「……」
眞山は答えなかったが、後日、俺は別のところからその答えを知らされた。
答えはバトルシステムの考え直し。
検証の結果、想定していたボリュームの3Dモデルを表示し、リアルタイムで動かすことができない、ということがわかったのだ。
そもそも迷走していたゲーム全体の構成も、ここに来て一気にひっくり返ることになる。
伊佐崎がこだわっていた「衣装チェンジ」や「召喚獣」などの仕様も、読みこんでおける3Dモデルが限られている以上、方針転換を余儀なくされた。
「やっぱゲーム専用機じゃないんだなぁ」
当時最新のスマホのカタログスペックは、プレイステーション3とは言わなくともVITAなどにも劣らないと言われたものだが、ゲーム用に作られたハードと携帯電話とではやはり、やれることが違うのだ。
しかし――
「それでだから、結局なにを作るのよ?」
またもや白紙に返ってしまったバトルシステムの仕様。
プログラマチームにもそれぞれ、やることがないわけではないが、そろそろ手空きの人員が出て来ていた。
プランナーチームは相変わらず、週2回、午後を丸々とミーティングしている。
しかし、ミーティングルームから出てきたディレクターの河原さんをつかまえても、首を捻るばかり。
「……とりあえず、こうなりそうだからここだけやっといて。申し訳ない」
河原さんはプログラマチームに頭を下げ、プログラマたちも渋々とそれに従った。
そうこうしている内に、プロトタイプ版プログラムの提出まで、あと2カ月を切っていた。
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