第4話


 もう、わたしは迷わない、諦めない。


 だって、わたしは白魔導士や、黒魔導士としてのガイヤが好きなのでは無く――人としてのガイヤが……好きなのだから。


 わたしは彼に気持ちを伝えることにした。


 ガイヤから長話を聞いた次の日、食事を届けに行った。


――ただ、わたしの気持ちを聞いて貰うだけで、返事が無くても良い。



 わたしは食事を小さな引き戸から差し入れた。


 牢内のガイヤは、ぼそっと、こんな一言をわたしに言う。


「ありがとう。……君に大切な人はいるか?」


 わたしは、ガイヤがこんな事を言った事が、意外だった。わたしは答える。


「大切な人はいるよ。その人は、わたしのこと、好きじゃないかもしれない。その人とわたしは、幼馴染だった」


 ガイヤは聞く。


「僕にも、大切な人がいる」


 わたしは言う。


「実は、わたしの大切な人は……大切な人はガイヤ、あなたなの。わたしは人としてのガイヤが好き」


 ガイヤが答える。


「僕の大切な人は……君だ。敵・味方関係なく、アルテシアのことが好きだ」


――思いが、通じた。


 そう思った瞬間、わたしの身体の周りから、白い光の輪が出てきて、ガイヤの身体の周りから出てきた、黒い光の輪と重なった。


 幾度も輪が重なったのち、何事も無かったかのように、それは消えた。



 何、今の光の輪の重なりは? 別に何も変化は無かった……いや、凄く変化している!


 白魔法の他に黒魔法も、使えるようになっていたのだ。


 白魔法で、忘れてしまっている事は何も無い。


 わたしはガイヤに聞く。


「今、白魔法を使える?」


 彼は答える。


「使える。思い出した。黒魔法も覚えている。それと白魔導士に対する敵意が消えた」


 そう、わたしたちに起きた事は、ありえないことだった。


 白魔法、黒魔法、共に欠けたところは、一つも無く、完璧に使えるのだった。


 そして、もう一つの真実に辿りついた。白魔導士と黒魔導士だけでは無く、どちらにも属さない、


 それ故、どちらの魔法も使えて、新しい魔法を生み出すことの出来る、“魔導士”という存在があったという真実に。


 たぶん、先ほどの出来事は、――白魔導士と黒魔導士が同調したことにより、決して交わる事がなかった、“白と黒”が交わり、新たな力を生んだ――ということだったのであろう。


 今、ここに白魔法で治す事が出来なかった、黒魔法シャドーを治す効果と白魔導士と黒魔導士をどちらにも属さない魔導士にする効果をもつ魔法、“ミラクル”が誕生した。


 突然、ナターシャ女史がやって来た。たぶん魔力の波動で、異変を感じたのだろう。


 ナターシャ女史は一目で事情を把握したのか、こう言った。


「あなた達は、魔導士になったのじゃな。では、永久に終わる事がなかった、この争いを止めに行くのじゃ」


 そして、ガイヤがいる、牢の鍵を開けた。わたしは聞く。


「なぜ、白魔導士の長であられる、貴方がこの戦争を止めたいのですか?」


 彼女は答える。


「……この争いの発端は、闇の存在についての価値観の違いじゃった。じゃが、わたしは気がついたのじゃ、この争いは無益だと」


 わたしとガイヤは、言う。


「わかりました。この争いを止めるために、白魔導士と黒魔導士の違いを無くします」




 そして、わたしとガイヤは白い大きな塔と黒魔導士たちの基地の間にある、砂漠に行き、そこで新たな魔法を生みだした。


 その魔法の名は“ミラクル・シャイン”である。




 その効果は、魔法世界マジックワールド全体に、輝かしい奇跡をもたらす物で、魔法世界全体の白魔導士と黒魔導士を、どちらにも属さない“魔導士”にすることが出来るのであった。




 わたしとガイヤは同時に魔法を使う、


『ミラクル・シャイン』




 その言葉とともに、白い大きな塔に、漆黒の闇を黒魔導士たちの基地に、はまばゆい光を発生させた。




 これで、“白と黒”が交わり、この争いは自然消滅して、止まった。




――そして、魔法世界に平和が訪れた。




 それは新たな時代の幕開けだった。


 〔終〕

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白と黒の年代記憶……あるいは灰色の日々――少女は願う 桎梏梔子 @minori-3k

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