第3話

 それから、一週間後、ガイヤにいつものように、夢を見たかと聞くと、黒魔法のほとんどを覚えたと、言われた。


 まだ、知らないのは、かなり高度な黒魔法らしい。


 その一週間後、ガイヤは魔方陣で、移動するのが、難しくなってきていた。


 さらに、二週間後、ガイヤは、ついに黒魔法の全てを覚えた、と言った。


 ということは、白魔法を完全に忘れたという事。


 つまりは、完全に黒魔導士になったと言う事になる。


 わたしは、分かっていた事だが、それでも、悲しかった。


――ガイヤが仲間だった、わたしたちを襲ってしまったら、どうしよう。




 しかし、最も恐れていた事態が起きてしまった。


 その日の真夜中に、ガイヤが仲間、しかも、ナターシャ女史を襲ってしまったのである。


 ガイヤは長老室に、許可も得ずに入り、ベッドで寝ていた、彼女をサンダースネークで、攻撃した。


 命中しそうになったその時、ナターシャ女史は、白魔法ミラーを使い、防ぎ、ガイヤに跳ね返した。


 白魔法ミラーは、魔法の攻撃を防ぎ、相手に跳ね返す、白魔法だ。


 ガイヤは、跳ね返ってきた、サンダースネークにより、身体が麻痺して動けなくなった。


 そして、魔法の音で目を覚ました人々とわたしは、開け放たれたドアからその瞬間を見た。


 わたしは、この時思った。


――ああ、現実になってしまった。


 ということは、ガイヤが拘束されてしまうということになる。


 わたしはナターシャ女史に聞いた。


「ガイヤを拘束するのですか?」


 彼女は答える。


「そうしたくは、無かったが仲間を守るためじゃ。やむをえん」


 さらに続けて、ナターシャ女史は言う。


「皆のもの彼を地下の牢に閉じ込めよ」


 わたしは、地下の牢の存在なんて、知らなかった。


 入り口は、ナターシャ女史のベッドの下の魔法陣だった。


 だから、長老室には、よほどのことが無い限り、入ってはならないのであった。



 ガイヤが拘束された牢は、地下にあるので、当然太陽の光が射さず、しかも、蝋燭が廊下だけにあり、一つしかないので、薄暗かった。


 牢は三つあり、牢の鉄格子は、特殊な白魔法がかけてあるので、黒魔導士は黒魔法を使うことが出来ず、


 魔法陣も描くことは出来ない。


 つまり、黒魔導士なら、脱出することは不可能だ。


 だいたい、鍵が二重にかけられているので、まず、脱出は出来ない。




 わたしは、ナターシャ女史に頼まれて、ガイヤに食事を運ぶことになった。


 それで、ガイヤがいる牢の前にやって来たのだが、彼は、昨晩の一件で身体が麻痺して、動けないのか、牢内で、寝ていた。


 たぶん、身体が麻痺していても、意識はあるので、昨晩のことは憶えているのだろう。


 わたしは、食事を小さな引き戸から差し入れて、その場を去った。




 わたしは、その後、エリーゼと話をした。あることを、彼女に相談するために。


「ねぇ、エリーゼ。相談があるんだけれど、良い?」


 わたしは聞いた。彼女が答える。


「良いよ。まさか、恋の話?」


 わたしは、驚いた。


――何で、分かるの!


 わたしは言う。


「そうだけど」


 彼女は聞く。


「やっぱり、ガイヤに告白したいの?」


 わたしは、頷く。


――わたしは、顔が赤くなるのを感じた。


 彼女は言う。


「あいつに、気持ちを伝えても、無理だと思う。……でも、あいつの話をしっかり聞いていれば、奇跡が起こるかもね」


 わたしは、オウム返しに聞き返した。


「奇跡?」


 彼女は答える。


「そう、奇跡。何となく、女の勘でそう思っただけ」


 わたしは、


「相談に乗ってくれて、ありがとう」


 とお礼を言った。



 エリーゼに、相談に乗ってもらった日の午後、わたしはまた、ナターシャ女史に頼まれて、ガイヤに食事を運ぶことになった。


 さすがに、ガイヤは麻痺から回復していた。


 朝に差し入れた、食事はしっかりと、食べられていた。


 わたしが、食事を小さな引き戸から差し入れたときに、


 不意にガイヤが話し掛けてきた。


「黒魔法を全て覚えてから、あの夢はもう、見なくなった。僕は……、こんな所に居る場合では、無い。ここから、出せ!」


 わたしは言う。


「あなたを出すと、あなたは人を傷つける。……どうして、攻撃するの?」


 彼は答える。


「逆に聞く。君は何故、光こそが全てであり、闇などは存在してはいけないと考えている?」


――わたしは、その事について深く考えた事は無かった。


 ただ、小さい頃から、そう教えられてきたから。


 しばらくの間、沈黙が続いた。その沈黙を破るように、ガイヤが言う。


「理由が見つからないみたいだな。小さい頃から、そう教えられてきたからだろ」


 わたしは、頷いた。彼は続ける。


「闇があるから光があり、闇は必要だと考えているのが、黒魔導士。闇は必要だ。闇がなければ、夜も無い。夜が無いと、休む事が出来ないだろ」


 わたしは、その言葉にハッとした。ガイヤはさらに、続ける。


「光の白魔法は、大切な人を守るために生まれた力だ。闇の黒魔法は、大切な人を力で、守るために生まれた力だと、僕は思う」


 わたしの頬に、涙が流れる。


――ガイヤはひょっとしたら、白魔導士じゃなくなっただけで、あまり変わっていないかも。


 ガイヤはまだ、話をやめない。


「白魔導士が、黒魔導士が悪いと決めつけ続けるのなら、僕は攻撃をやめない」


 これが、理由だった。わたしは、思った。


――この戦争が続くのは、悪いと決めつけらた方が、反発することによって、憎しみが生まれて、それが、さらなる憎しみを生むからなんだ。


 白魔導士が、黒魔導士を悪いと決めつけているから、この戦争が終わらないんだ。

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