第5話



目を覚ますと喉が渇いていた。ノジマの母が全裸で突っ立っており、初めて見た身内以外の女体は薄暗くて上手く認識できなかった。


タンスと一体化した姿見に私の肩から上が映っていた。首まで焼けただれているが頭部だけは活き活きとしていた。戦きのあまり発狂した私であったが、先に自分で施錠したことを恨んだ。声を出すと擦りきれたような、ざらついた音だった。テーブルの上に縛られ、もがきながら彼女をみた。


すらりと肉付きの良い脚を私の股あたりに乗せた。指先が私の股間をつく。そして、脚を高くあげた。



迷いなく、踵で踏みつけた。想定した痛みは、睾丸が潰され、下腹部辺りの内臓が抉れるようなものであったが、現実は直接的に傷口を抉られる神経が悲鳴をあげる痛みであった。


耳元で、もう無いのよと囁き、喉が渇いたならこれをあげる、とポリタンクを差し出された。


口の中にプラスチックのノズルを突っ込まれ、中身が流れてきた。いくら灯油を飲んでも渇きが癒えず、噎せる程の臭気が胃で滞留している。

唾液などとともに吐き出すと、バッチイと叱られた。股間から血が吹き出た。


なんで俺を、と嗄れた声で言った。別にあんたじゃなくても大丈夫やけどな、と、彼女は舌を出した。妙に長くて、顎の下まで伸びていた。その表面には不精髭が生えているかのような感じがした。


「人間って、ただの回路なのよ。適切な刺激を適切に与えてたら思い通りの反応になるの」


何を言ってるのかさっぱり分からないが、私は操られたのか。彼女と目を合わせただけでかかる、変な催眠術を連想した。メデューサが石化させるように、男を悪戯に惑わせる催眠。婬魔の類い。


「そんな伝説めいた与太話じゃなくてさ。単にスケベなイデアに右往左往して勃起する馬鹿を食べちゃうだけの話」

何のことか分からないうちに腹を開けられて火のついたマッチを入れられた。火柱をあげる自分の体が、滑稽でたまらなかった。


もっと単純に言ったらこうゆうこと、と裸の彼女が顔の上にまたがった。視界の中心にヴァギナがあり、その周囲を毛が覆っていた。


私の股間からドクドクと多量の血が射出されているのを感じる。全身でその緊張を捉え、全身の神経に快がもたらされた。虚脱の末に意識が朦朧とした。

ヴァギナが顔に張り付いて、柔らかな肉の暖かさに包まれた。顔中が彼女の出した粘液まみれになり、膣の中で蠕動する肉の動きに頭が吸い込まれていく。小陰唇が私の首を断ち切ってしまった。


潤滑油のようなものがビニールの上に撒き散らされたかのごとく、摩擦のない柔軟な肉の道を転がりゆくと、拓けたところに落とされた。


そこには数千は越えるであろう、沢山の頭が転がっていた。私のように彼女が補食してきた男たちだろうか。彼らが一斉に私をみた。2000以上の眼の光を浴びた。


下は小学生くらいの幼い顔から上は死に際の老人くらい。

手前には知った顔、いや頭がいた。

「ノジマさん、あんたもか」

「義母」「熟女」「未亡人」。その奥にはノジマの父がいた。「OL」「上司」「人妻」。

赤面しながら、お互いに笑いあったのだ。

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悪魔の中 古新野 ま~ち @obakabanashi

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