8『この町』

薄明が夜の名残りを払って

町のフォルムを再構築していく

日の出前、潮の香りが増して

耳に注がれてくる波のさざめきは

町に染みついた縷々たる揺らぎだ


船に荷を載せていく漁師たち

淡々としていて欠伸する姿は日常

あの中にいたこともあった

ぼくが乗っていた船は今は廃船

風が虚しく心を撫でていく


坂道を登る体と

転げ落ちたい心

平衡を欠いてる


すれ違った犬は孤独に喘いでいる

春には傍らにいた老人の姿はない


展望台の公園から見下ろすこの町は

衰退しているらしい


百年後の町並みなんて解らない

この町から潮騒や港が失くなる

誰もそんなこと考えちゃいない


日照に手を合わせる老女をみた

日常として繰り返される祈りは

縷々たる揺らぎに同調してゆき


海に還り


またぼくらに注がれるのだろう

その祈りに倣うとき心と身体が

重なっていく

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