おい、磯野~~ フレンド登録しようぜ

ちびまるフォイ

見えてないと不安じゃない!

新学期もはじまり、友達と仲良くなったころ。


「ねぇ、そろそろ私たちフレンド登録しよっか」


「なにそれ? RINEのアカウントは交換してるじゃん」


「そうじゃないよ。フレンド登録。

 メッセージを送らなくても、お互いのことがわかるだよ。

 ね? 手を出して」


手を出すと、小指に小さな赤いヒモが巻かれた。


「はい、これでフレンド登録完了だよ。

 私たちはこれでずっとフレンドだね」


「ふぅん」


翌日、目を覚ますと同時に電話がかかってきた。


『おはよう! 今起きた?』


「え……なんでわかるの?」


『だって昨日フレンド登録したじゃない。

 ほら、私のほうも見てみてよ』



オンライン中のフレンド:佐藤ゆかり



『ね? ちーちゃんが起きたら

 私の方にもメッセージが届いてくれるの。

 これで同じ時間に起きれるし、一緒に学校いけるね』


「うん、そうだね」


フレンド登録すると、相手が今何をしているのか表示される。

食事中からはてはトイレまで。

どこにいるのかもGPSでしっかりわかる。


「おはよう、迎えに来たよ。一緒に学校いこっ」


「う、うん……」


私はすでに息苦しさを感じ始めていた。


「ねぇ、このフレンド登録さ……外せないかな?」


「なんで!? ひどい!! 私たち友達でしょ!?」


「ううん、ちがうの。ずっと友達だよ。でもこれは……」


「それって避けてることじゃん!!」


友達は走って学校に向かってしまった。

フレンド登録しているのでいつ学校に到着しているのかわかってしまう。


「あの……今朝はごめんね。私、こういうの慣れてなかったから……」


「ううん、いいよ。私こそカッとなってごめんね。

 私たち友達だもんね、ケンカするなんてよくないよ」


ゆかりちゃんとはあっさり仲直りした。

でも、なんだかフレンド登録縛られているがゆえのものに感じてしまった。


慣れればフレンド登録も平気になるかと思っていたが、

むしろ日増しに監視されているような怖さを感じ始めた。


「ちーちゃん、さっきの昼休み何してたの?」


「いや普通にお昼食べてたけど」


「ウソつかないで! フレンドステータスに「談笑」って出てたよ!!

 私以外の人と仲良くしてたじゃん!! フレンドでしょ、私たち!」


「ゆかりちゃん用事でいなかったし、

 ひとりで食べてたらクラスの人が声かけてくれたの。それだけだよ」


「だったら、なんでそれを言ってくれないの!?

 それって後ろめたいことがあるからじゃないの!?」


ああ、もう。


「私たちフレンドじゃん!! どうして話してくれないの!?

 ちーちゃんのこと信じられないよ!!

 フレンドなんだから教えてよ!! 私だけ友達だって思ってるの!?」


本当に。



めんどくさい。




「お母さん……あのね、友達のことは好きなんだけど

 友達とフレンド登録するのがつらいって思う時があるの」


「どういうこと?」


「距離感が近すぎるっていうか……」


「それじゃこうすればいいんじゃない?」


お母さんは私のフレンド指輪を外して自分の指につけた。


「あなたが学校にいるときはつけるしかないけれど、

 家に帰ったときは私がつけるわ。

 そうすれば自由になれるでしょう?」


「お母さん……!」


急に肩の荷が下りた気がした。


全体で見れば何も状況は変わっていないのに、

自分が監視されずに過ごす時間ができるだけで本当に嬉しい。


「ありがとう! お母さん!」

「いえいえ、どういたしまして」


お母さんは専業主婦なので、一度家に帰って指輪を渡せば

あとは自由に出かけることもできる。


ショッピングに行くこともできるし、

昔の友達に会ってもとやかく言われる心配もないし、

クラスメートの男子たちに誘われてカラオケにだって行ける。


家に帰りさえすれば私は自由の身。


「中嶋さ、なんかすっげーイキイキしてるよな」


「え? そう?」


「学校にいるときはいつも佐藤の奴と一緒じゃん。

 そんときと比べて、すっげー元気になってる気がする」


「あはは、まぁほら学校と放課後はちがうじゃん」


「なんつーか、カワイイよ」


「え?」


目が点になった。


嬉しいとか答えをどうしようとかよりも先に、

ゆかりちゃんがどう思うかを気にしてしまった。


「前から、中嶋のこと気になってたんだ」


「え、え」


フレンド指輪は外している。

私がここで何をどう答えても「恋人告白」のステータスは出ない。




「俺と、恋人登録してくんね?」




「……は?」


「恋人になったらお互い何をしてるかわかるんだ。

 浮気も心配ないし、離れていてもずっとつながれるんだ」


さっきまでほてっていた体が一気に冷めていくのを感じた。


「だからさ、俺と恋人になって、恋人登録してくれよ!!」


私は黙ってカラオケ店を出て夜の通りを歩いた。

なんだかもう限界だった。

これ以上私の時間を奪おうとしないで。好きにさせて。


「はぁ……なんで私、この時代に生まれちゃったんだろ……。

 昔はきっとこんなこともなかったんだろうなぁ……」


近道しようと裏道を通ったとき、いきなり腕をひかれた。


「痛っ!?」


「おっと、お嬢ちゃん、ここは危ないぜ?」


見るからに悪そうな男数人が私の腕をつかんでいた。

握られた手首の感触から逃げられないのを痛感する。


「このあたり、この時間は危ない人が多いからさぁ。

 ほら、俺たちが家まで送ってやるよ」


「い、いりませんっ! 離してください!」


「こんな夜に女の子ひとりで帰らせるなんてことできるかよ。

 ああ、そうだ。ねぇ、君。これをつけなよ」


男が取り出したのはギザギザの刃がついた赤黒い指輪。


「これは、奴隷登録するのに必要な指輪なんだ。

 キミがどこにいて、何をしようとしてるのかわかるんだ。

 そして、つけたら持ち主に従うようになっている」


「い……いや……や、やめてください! だれか!! 助けてください!!」


慌てて大声を出すと、男たちも焦ったのか力づくで体を抑えた。


「大声出すんじゃねぇ!! おい! 足抑えられろ!!」


身動きできないよう抑えられると涙が流れた。


どうして私フレンド登録を外しちゃったんだろう。

どうしてあのとき恋人登録受けなかったんだろう。


もし、指輪していれば、こんな状況にはならなかったのに。



「おい!! 君たちなにしてる!!」


「やべっ!! おい逃げるぞ! 警察だ!!」


高圧的な声が聞こえると、男たちはクモの子を散らすように逃げた。


「君、大丈夫かい? 通報があったからかけつけたんだよ」


警察官の肩越しにお母さんが見えた。

恐怖で忘れていたはずの不安が一気に押し寄せた。


「お母さん!! お母さんが通報してくれたんだね!! ありがとう、ごめんなさい!」


「いいのよ、ちーが無事ならよかったわ。

 もうこんな夜にひとりで出歩いちゃだめよ」


「うん! うん! 今度からちゃんとお母さんに連絡する!」


すると、お母さんは顔を横に振った。


「ううん、それは必要ないわ」




「あなたには親子登録しているから、

 あなたがどこにいて、誰と会って、何を考えているか

 すべてリアルタイムで私のところに届くから心配ないのよ」

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