第5話 中学校というか学校そのものへあまり行きたくはないけど、社会人ぽい振りして行ってみるか、仕事だし

自宅ではない。中学校へ行くのだ。

平日水曜の午後遅い時間。電車賃すら勿体無いので4liveのメンバー4人が通う隣の市立中学校まで自転車で行った。

高校中退アルバイトという属性のわたしが母校以外の中学校を訪れる際、どんな服装がいいのかと悩んだ。結局前の会社の入社式で一度だけ着たスーツにした。2年経ってもぴったりということは、背格好の成長がないだけでなく、女子としての体の成長もないということなのだろう。まあ、別にいいけれども。

よくわからないので職員室へ行き、いじめに遭って不登校気味の4人組に会いたいと入り口に一番近い席の下っ端ぽそうな男子教員に訊いた。オーナーは4liveというバンド名と彼らの通う学校名しか知らず、4人それぞれの名前すら知らなかったので、こういう訊き方しかできなかった。


「ああ、彼らね」


おわ。これで通じるんだ。びっくり。

下っ端教員は追加質問をしてくる。


「ところであなたは?」

「彼らのカウンセリングをしたいと思いまして」

「ああ、NPOの方ですね。じゃあご案内します」


嘘はついてない。まあ、バンド活動という彼らの今後についての進路カウンセリングと言えないこともなかろう。カウンセリングのNPO法人と勝手に勘違いしたのは下っ端教員の方で、わたしは否定も肯定もしていない。

案内されたのは職員室隣の会議室だった。4人揃ってテーブルに向き合い何やら問題集らしきものをそれぞれやっていた。


「きみらにお客さんだ。カウンセラーの、ええと・・・」

貫田ぬきたです」

「貫田さんだ。君たちのカウンセリングをしてくださるそうだ」

「あの。彼らはいわゆる保健室登校ですね」

「はい。どんな形でもとにかく出席日数を満たさないことには色々と本人たちにも不利になりますので」

「今日はこの後授業は」

「いえ。彼らは基本ここで自習してて折を観てわたしたちが指導に来る形態です。いじめの首謀者たちと顔を合わせないように下校時間もずらしていて、今日はもう終わりの時間です」

「そうですか。今日はもう時間がないんですね。では日を改めて早い時間に来ますのでその時に詳しいことをお聞かせください」

「すみませんね、わざわざ来ていただいて。今後ともよろしくお願いします」

「こちらこそ。では今日はこれで失礼します」


会議室の出口へ向かう途中で、ベースの女の子にわたしは囁いた。


「校門で待ってる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る