第4話 今時時給850円のバイトなんてどうかと思うけど、わたしにとっては身に余る厚待遇かもしれないから取り敢えず受けとこう
「カナエ、雇ってやろうか」
「え」
「ただしバイトでな」
「時給は?」
「850円」
「・・・安いよ」
「その代わり、時間の融通はきかせてやる。日中はハローワーク通いやら会社の面接やらせにゃならんだろ」
「時間は?」
「まあ夜だな。フロア全般。機材のセッティングからドリンクのオーダー、会場整理とかだな。閉店の時は掃除も」
「全部じゃん」
「実は正規のスタッフが辞めちゃってな。急募してるんだがなかなかな」
「わたし晩御飯の準備とかしないといけないんだけどな」
「へえ。カナエって料理できるのか」
「母さんが出てってからずっとわたしが作ってるんだよ。ばあちゃんはもはや要介護3だし、父さんも会社の人員半減で残業続きだし」
「そうか。困ったな」
「まあいいよ。土日に常備菜とか作り置きしてあとは朝頑張るよ」
「そうか。すまんな」
「いいよ。なんだかんだでオーナーには世話になってるし。真面目な話、中退した時、ここに来なかったらわたしヤバかったと思うもん。あと、仕事しながらでもバンドの演奏聴けたら、まあそれはそれで楽しいし」
「よし。契約成立だな。それで早速仕事を頼みたいんだ。時間外でな」
「はあ?」
わたしはオーナーにしかめ面をしてはみた。彼の性格は知ってるのでこんなことだろうとは思ったけど。
「この間の中学生バンドいただろ」
「ああ。4live ね」
「あいつらに出演交渉してきて欲しいんだ」
「え?」
意味がよくわからないけれども、あの子らの顔を思い出して少しだけ心が弾んだような気がした。
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