第3話 銀髪の魔女と金髪の青年の永遠を誓った恋人関係
私が教えてあげなきゃ。そう意気込んだけども、こればかりはオルに理解してもらうしかなかった。恋愛感情。異性を好きになるということ……そして、性欲とはなにか。
彼には、教えてあげられなかったことだ。私は母親代わり、姉代わりの家族になろうとしたけど……性や恋愛に関しては上手く教えてあげられていなかった。
知識はあるんだけど……女の子が男の子にそういうのを教えるのはなんか恥ずかしいでしょ?
それに私、恋愛なんてしたことないし……魔女になる前の約十八年間だってずっと研究ばかりだったし……。そういうこと、もちろんしたことないし……。
一人ですることの知識も、今でも時々してるけど……そんなこと教えられないし……。
オルにキスされてから、私自身の恋愛感情や性欲のようなものが増している気がする。
きっと、今まで母性として消費されていたものなのだ。彼を息子のような弟のような扱いをすることで、誤魔化していた感情。代わりに使っていたもの。
感情という炉に、恋愛や性欲を薪としてくべ、母性として燃やしていたのだ。
「はぁ」
ため息がつい、漏れてしまう。好きだから。オルが好きだから。でも、本当に彼が理解して、その上で受け入れてもらえるか不安で……。
彼は年齢相応の精神に育ったけど、そういう部分では幼い。人との関係は、人とかかわることでしか成長できないから。
私と先代と五代目くらいしか、関わったことはないだろう。
だから、身近にいる女性である私に、性的興奮を覚えてしまっただけなのかもしれない……。
彼がひどい人間という話ではなく、まだ知らないだけなのだけど……。
うう、切ない。寂しい。オルとキスしてから、もっとオルとキスしたくなってる。
そう思いながらも、オルの状況を冷静に考えてる私が嫌だ……。
「ああ、私、オルと離れたくなくなっちゃった」
前までは、オルと離れるのは仕方がないこと。寿命的にも、彼の自由のためにも、そう考えていた。
だけど、その理由が薄れようとしている。オルの方から、私を求めてしまっていた。だから今私は……オルが欲しくて、切なくなってる。
だって、オルが好きなんだもん。きっとずっと最初から好きだった。不純な動機で母親や姉のように振る舞ってたんだ……人が寂しかったんだ、命を救いたいなんて、仮の理由だったんだって思ってしまうくらい……オルのことを気付けば好きになっていたんだ。
自己嫌悪するくらい苦しい。だけど、オルのことを好きな感情は止められなかった。
ああ、オルの気持ちが、本当に恋愛の好きだといいな……。だって、私……切なくて我慢できない。
魔女さんに渡された本を読み終え、大体のことを理解した。恋愛小説と、恋愛心理の本と、この国の保健体育の本と、それの性知識について細かく書いてあるもの。
自分の下半身に起こる現象は魔女さんの家に来てから、成長してから時々あったから深く考えていなかったが……今どういうものなのか理解した。
そして、僕の体が変化したとき、どんな状況だったのかを思い出す。……ティナさんが無防備に、バスタオルだけだったり、裸のまま脱衣所であってしまったときではなかったっけ……?
ああ、もうその時からティノさんのことを女性として意識していたんだな……。我ながら、その時から雄としての本能があったのかと呆れる。
では、この感情は性欲だけのものなのだろうか……?
僕は、違うと思う。そう信じたかった。だって、いつもティノさんのことを考えているんだから。
どんな時だって、僕はティノさんが大事で、大切で、一番で……僕の全てだった。
性欲もあるとは思う。だけど、それは恋愛から発生するものだと僕は思えた。
答えが出たなら……ティノさんに伝えに行かなきゃ。
僕は部屋を出て、ティノさんの部屋に向かう。
ノックをすると、「ひゃう」という可愛い声が響いた。
「ティノさん、入っていい?」
「ど、どうぞ?」
なぜかティノさんの声は上ずっていたけど、気にせずに部屋に入る。
「そ、それでどうしたの?」
ティノさんの顔は真っ赤で、ふとももをもじもじとこすり合わせていた。なにか薬の実験をしていたのかもしれない。ティノさんが体調不良になるような薬は最近なかったが、前まではよくあったし。
「答え、でたから伝えようと思って」
「そっか……どう、だった? 本を読んでみて、恋愛って言うものがどういうものか解った? ……オルの気持ちは、どういうものだった……?」
心配そうに、ティノさんが尋ねてくる。僕はそんなティノさんの目を見て、安心してもらいたくて、優しく告げた。
「僕はやっぱり、ティノさんが好きだよ。異性として、恋愛的に。だから……もう一回、キスしていい?」
「……うん」
僕は、ティノさんの肩を掴み、顔を近づけて、唇を重ねる。ちゅっと音を立て、ティノさんの柔らかい唇の感触を味わった。
右手を動かし、ティノさんの後頭部に持って行く。さらさらとした銀髪に触れて……優しく撫でた。
短いキスだった。時間としては十秒にもならない程度のキスをした。
「……ねえ、オル?」
「なあに?」
「私も、オルのこと好き。家族としてじゃないわよ? 異性として」
とろんとした顔で、ティノさんは僕にそういてくれた。……心臓がさっきより激しくなる。
下半身に血が流れるのを感じる。ああ、もっとティノさんがほしい。
「ねえ、ティノさん……この先もしたい。ティノさんともっと愛し合いたい」
「……ほんと、貴方は賢い子ね。本で読んだ言葉を覚えてすぐに、どの場所で使うか理解できるなんて。いいわよ、オル、違う意味で、家族になりましょう?」
ベッドに座っていたティノさんをそのまま後ろに倒す。恋愛小説にはこういう場面があった。それを思い出しながら試した。
「オルってば、疲れてねちゃうなんてね」
「……ごめん。すごかったから」
「そうね、すごかったわ」
私は、下半身にある異物感と快感の余韻をいとおしみながらオルの胸板にだきしめられていた。
最高の初体験だったと思う。最初はだれもが失敗するけど私たちは大丈夫だったようだ。
……それにしても私は子供ができるのかしら? 薬を飲む前に初潮を迎えていたけども……薬の影響がそう言うことまで及んでいるかはわからなった。
でも、それはオルと一緒にたしかめていければいいことよね?
「ねえ、オル。私の後ろのテーブルにある薬品、解る?」
オルに抱きついたまま、私はオルにいった。
「ああ、あるよ」
オルがそのままの状態で手を伸ばす。きっと瓶を掴んだのだろう。
「それはね、私が飲んだ不老の薬よ。それを飲むと私と同じになるのだけど――……」
と説明し始めた時には、オルは瓶の蓋を開けて、薬品を飲み始めていた。
「……本当にいいの? それを飲んだら……」
「魔女……男の場合は呼び方違うのかな? 魔女さんと同じになれるなら別にいいよ。僕にはもう、魔女さん無しの人生なんて考えられないんだから」
それがすべてだった。
オルの全てで私のすべて。
終わりがいつくるか解らない人生を、幸せなものと確実にした選択。一つ目は彼を見つけた時だけど、今、本当に道が定まったのだ。
瞳から涙がこぼれる。孤独だったものがなくなった。欠けていたものが見たされた。
彼との別れがなくなったから、私はいつかのお別れを待たなくて済むんだ。
「ありがとう、オル。大好きよ」
私は、オルにキスをする。永遠を誓うキスを。幸せを、喜びを、全部オルに伝えるために、キスをするのだ。
それから私たちで、十五年間と同じように暮らすのだけど……それが二人だけだったのか、三人か四人だったのかは、また別のお話し。また別の魔女のお話し。
ただ、銀髪の魔女と、金髪の青年は、いつまでも山の近隣の村で、噂になっていたとさ。
昔々になることなく、いつまでも。
黒い白衣を着た銀髪の魔女と、義手をつけた金髪の青年 綾崎サツキ @holic_maple
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