どうしてなろう系には『ダンジョン』が出てくるのかの見解【どう冒険させるか問題】
なろう系を読んでると『ダンジョン』というモノが出てきますよね?
ダンジョンとは、元の言葉の意味は『地下牢』だったらしいが、ゲームなんかの影響からか地下迷宮や、そこから拡大解釈が進んで迷宮そのものをダンジョンと呼ぶケースが多い。
ゲームにおけるダンジョンは、例えばドラクエとかならモンスターが巣食う建築物や構造物とか特定のエリアのことで基本的には廃墟や洞窟にモンスターが住み着いたりして人が侵入するのが困難になった場所、的な定義だと思うが。
主になろう系などで使われている『ダンジョン』はそれらとは少し違っていて、どちらかといえばWizardryとか不思議のダンジョンシリーズのダンジョンもしくはMMORPGのダンジョンに近いモノだと言える。
つまり、内部のモンスターやアイテムを取っても何故かまた復活してダンジョン内に再配置される仕組みがあり、何度でもチャレンジする価値がある場所として描かれていると。
これがなろう系ではよくある設定の1つになっているのだが――
なろう系では、どうしてこういう形の『ダンジョン』がよく描かれるのか。
その結論を述べるなら、
『ダンジョン的なモノがあると、考えられている以上に様々な展開を作りやすくなるから』
なんですよ。
ちょっと昔話をしますが。
昔、某ファンタジーラノベ超人気作が好きで読んでいたんです。
その作品には冒険者や冒険者ギルドとかクエストとか現代のなろう系にもある定番ファンタジーのシステムがしっかり詰まった世界観になっていて、そういう作品の走り的な感じだったんです。
で、その作品の中で主人公のパーティがギルドでクエストを受けて旅立つ流れがあったんですが、その依頼内容が『町の近くの湖畔に大昔からある塔を調べてくれ』みたいな内容だったんですよね。で、主人公らがその場所に行ったら宝物を見付けたり色々な冒険が待ち受けていたわけ。
よくある展開ですよね。
でも、それ読んだ時に強烈な違和感があったんです。
いやだって、冒険者という探検やお宝探しを生業にする職業がある世界観で、町の近くに洞窟とか怪しい塔があったら誰かが既に調べに行ってるだろ? って思いません?
それも最近出来たモノとかならともかく、昔からずっと存在してるなら誰かが調べて中がどうなってるか知られているはずでしょ?
まるで主人公らのために用意されたようにしか思えなかった(いやまぁ実際そうなんだけど)んですよね。
それにその場所を主人公が冒険してしまうと、もうそこは他の人が冒険する価値のない場所になってしまう。そうやって簡単に世界が解き明かされるなら……言語化は難しいですけど世界観が凄く狭く見えたんですよ。
今の地球でもそうですけど、もう地球上に探索されてない場所なんて海底と地下ぐらいしか残されてないじゃないですか。もう大航海時代みたいに未知の存在に遭遇するなんてほぼない。
それにもし『伝説のお宝が眠っている』みたいな場所があったら、国とか権力者がそれなりの人数かけて調べると思うんですよ。
ゲームではフィールドマップに出たりダンジョンに入ったらモンスターが延々と出続けてもプレイヤーはそれに違和感を持たないけど、リアルな世界ならそこそこの人数をかければダンジョンの中とかマップの周辺モンスターを全て駆逐するぐらい出来るはずだから、本気になればそういう場所を安全に調査するのは難しくはないはずなんですよね。
つまり現実的な話をすると、行きやすい場所はもう既に誰かに散々探索されてるんだから『町の近くに伝説の◯◯が眠っている洞窟があるから調べてみよう!』みたいな展開って少々使いにくいんですよね。
無理にそういう展開をやると上記の例のように違和感出ちゃう場合もあると。
RPGとかだとそういう場所があっても普通に受け入れてるけど、小説とかのリアルな世界観に落とし込むと結構な違和感になっちゃう。
なのでファンタジーで冒険をメインにするような話を書く場合『特殊な能力を持つ主人公にしか見付けられないモノがあった』とか『人が入ろうとしない秘境に冒険に出る話』とか、なんかそういう『主人公は特別』要素を用意しないと主人公を冒険させるってのが大変だったりすると。
でも、それを解決してくれるのがダンジョンなんですよ。
ダンジョンという内部が自動で元通りになって攻略難易度が高くて冒険出来る、まるでMMORPGのダンジョンのような未知の空間と、そこに存在する理由とか気にしなくてよい強力なモンスターとかアイテムがあることで、そこで楽に冒険をさせられるんです。
◆◆◆
物語を作る側の視点からの話をしていきますが。
ちょっと想像してみてほしいんですけど、この地球で今の自分自身を主人公にして自分を家から旅立たせて冒険させるとしたらどうしますか?
これを読んでいる人がどういう町に住んでいるのかは分かりませんが、これ見てる大体の人は大人で、長年住んでいる家の近くは普段から探索し終わっているわけで、家から離れた場所まで足を運ばなきゃ『冒険』にはならないはず。
とすると、電車とか車でどこか遠くに旅するとか、もしくは普段は行かない方角の隣町まで歩いてみるとか、そういう話になる。
でも、その『冒険』って自分にとっての冒険であっても客観的に他人がその冒険を見て楽しいと思いますか? という話なんですよね。YouTuber的な目線で考えてみてほしいんですが。自分にとっては新しい世界への冒険であっても他人がそれをコンテンツとして見ても大体は面白くもない冒険であろうと。
じゃあそれを他人が見て客観的に面白い冒険にしようとすると、どうする必要があるかというと『前人未到の場所』とか、少なくとも『あまり人が行かない場所に行く』みたいな要素が必要になってくるじゃないですか。
そうなると主人公である貴方にはもっと遠くに、もっと秘境に行ってもらう必要があると。
もしくは家の近くで冒険するなら、主人公である貴方に特殊なスキルとか偶然何かが起こる必要があって――例えばですけど『考古学の知識があったから家の近くを探索して遺跡を発見した』とか『公園で殺人を目撃し犯人を追うことにしたのだが……』みたいな要素が必要になるわけ。
――だけど、そういうのがないなら『ダンジョン』が必要になる、ってことなんです。
ここで言うダンジョンとは、場所が地球なんで比喩的な表現であって、つまり主人公の身近に非日常をもたらす何か――現実的な話では起こり得ない状況に主人公を引き込む、ある意味で超常的な何か。場所とか物とかキャラクターがあると主人公を遠くに動かす必要はないし、主人公に特殊なスキルを付与しなくても冒険させる展開が作りやすいんです。
例えば『深夜の学校に幽霊が出るらしい』とか『神社の奥の森は神域になっていて神が住んでいるらしい』とか。そういう超常的なのが近くにあったら、そこの謎を解き明かす系の冒険に出来ると。
◆◆◆
もう一度ファンタジーの冒険の話に戻して整理すると。
まず人類の生活圏に近い場所に冒険するような場所はまず残ってないはずだ、という当然の推測から『主人公に冒険をさせるなら遠くに旅立たせるしかない』って結論が最初の段階。
指輪物語とか桃太郎とか西遊記とかもこのパターン。
ただし、主人公を遠くに旅立たせる話の問題点として脇役キャラが使い捨てになりやすいことがあって、深い人間関係の話なんかを作り上げていくのが難しかったりする。
勿論、書き方によってはいくらでもやりようはあると思うけど。
なのでそういうのを嫌い、遠くに旅立たせずに冒険させたいなら主人公を1つの町(とか地域)に留まらせるしかないし、留まらせながら冒険させたいなら『町の中に主人公にしか解決出来ない何かがある』的な話にすることになる。
例えば『困っている町の人を助けたら問題の裏には◯◯がいて――』みたいなのとか『主人公の力を使って街の地下に遺跡を発見』とか。そういう感じの展開をどんどん考え続けていくしかなくなるわけ。
ファンタジー的な冒険というより人間関係とか権力社会の中で生まれた問題とか謎を解決する系の冒険が多くなる。
そうするには問題の種となる事象を考えないといけないのだが、同じ場所に居続ける主人公に何度も何度も問題を押し付けることになるのでワンパターン化したり強引な展開とかが増えやすくなってしまう。作者のネタも切れやすい。
(だから昔の超長編のラノベとかはトラブルメーカーキャラを作ってそいつにトラブルを何度も持ち込ませることで展開を無理に作ってたんだろうなと思う)
なろう系で学園編が人気ないのもこの辺りも一因だと推測する。
もう1つ、遠くに旅立たせずに冒険させる方法として、転移魔法とか高速移動手段を実装し、主人公を遠くで冒険させつつもホームタウンには自由に帰ってこれる設定にする方法がある。
これは冒険と町での人間関係を両立出来る良いとこ取りが出来るプランだが、これにもこれなりにデメリットがある。
物資の高速輸送とか、遠方でしか手に入らないアイテムの入手とか、危機からの緊急脱出とか、主人公のやれる範囲が拡大しすぎてしまう。例えば貿易でお金を稼げるとか、アイテムの補給が簡単になったり、ピンチの状況でも逃げられたり、早く情報を得られたり。物語の幅が逆にかなり狭くなりやすくなってしまうので安易に使うと一瞬で物語が崩壊しかねない。
あと、上手くやらないと冒険感が薄まる可能性はかなりある。
なのでダンジョンが欲しくなってくる、という流れなんです。
『ダンジョンの近くに出来た町』を作れば冒険と人間模様を両立出来るから。
ダンジョンでの冒険パートを書いて町中での人間関係の話。両方問題なく出来るんですよね。
主人公に冒険をさせるならだけど、これが『ダンジョン』という存在がないと中々難しくなると。
勿論、やり方次第では他にもやりようはあるとは思う。
ファンタジーとかSFならそういうことが可能である世界観にしてしまえばいいだけなので、上手く冒険出来るようなシステムを入れ込んでしまえば別に問題はないのだろうから、これは比較的スタンダードなファンタジー世界での話と考えてほしいんだけど。
とにかく、主人公と人との関わりを描くなら1つの町に留まらせる方がいいが、それだと冒険が難しくなる問題は、僕の観測した範囲では多くのファンタジー作品で起こっているというか「これ作者さん困ったんだろうな」と感じるシーンはかなりの見るんですよね。
なので書く側の人はここをちゃんと最初に考えてないと後で困ったりするし、読む側の人もこの観点を持って見るとちょっと面白くなると思う。
『主人公が最初の町からずっと動きたがらない』
『主人公がいる町に問題が起こりまくる』
『主人公が転移や高速移動手段を持つが十分には活用しようとしない』
(特にダンジョン的なモノがない世界観では)この辺りの展開は書く側もかなり葛藤があると思うんですよね。
その辺り考察するのもちょっと面白いかも。
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