宮崎駿監督の次回作に期待して待っていよう、と空を見上げる

僕の人生に影響を与えた作品として名前をあげるとすれば、恐らく真っ先に出てくるモノの1つにスタジオジブリの『天空の城ラピュタ』がある。

自分の中の原点の1つで、あの世界観こそが自分が描きたいモノなんだと感じている。


が、それ故に、それ以降のジブリ作品には……なんというか、こう……ちょっと違うというか、後になって考えてみたけど、やっぱ僕が好きなのはラピュタとかナウシカのような西洋ファンタジー的な冒険活劇で、ラピュタとかナウシカを先に見てしまったからジブリにはそういうのを求めてたけど、そういうのが作られないからちょっと残念に感じてたんだろうなと思う。

だからこそ、その足りないのを自分で書いて補おうとしている感があるんですよね。

自分で小説書いている理由の1つがそこにある感じ。


話は変わるけど最近NHKのプロフェッショナル仕事の流儀で放送された『ジブリと宮崎駿の2399日』という番組を見たんです。

番組内容的には宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』の制作をゼロから追ったドキュメンタリーで、宮崎駿という人物の狂気や孤独や妄執やらが詰まっていた。

その中で、宮崎駿監督が引退を撤回して、君たちはどう生きるかを制作しようと考えて動き出したところで高畑勲氏が亡くなってしまい、高畑勲の死を受け入れられずに取り憑かれてしまって制作が止まってしまう。

そして映画の中に高畑勲を登場させようとした。

宮崎監督の作品の登場人物には元になった人物がいるらしく、主人公は大体、宮崎駿そのもので、今作に関してはポスターにもなっている『サギ男』が鈴木敏夫Pらしい。

しかし登場させようとしたものの高畑勲がそこでなにをどうしているのかが宮崎監督には見えなかった。

宮崎監督は高畑勲を探して森を歩く。

回想では宮崎監督がいかに高畑勲監督を尊敬していて、影響を受けていて、愛していて、そして受け入れられないから憎しみに変わっていき、それでも大好きだから認められたくて片思いになる過程が描かれていく。

ただただ高畑勲に認められたくて、褒められたくて、喜んでもらいたくて映画を作る宮崎駿。

だが高畑勲は既に亡くなってしまっている。

そこで宮崎監督は高畑勲と向き合い、映画のラストで高畑勲と決別し、彼をモデルとしたキャラを殺すことで葬ることにしたのだ。

つまり、この『君たちはどう生きるか』という映画は母が亡くなった後の宮崎駿少年の成長と、高畑勲との出会いと、そして別れ、決別までを描いた作品だということ。


鈴木敏夫Pの語る宮崎駿監督のエピソードをいくつか見ていくと高畑勲監督がいかに宮崎駿という人物に影響を与えていたのかが分かる。

というか「宮崎駿が映画を作っているのは高畑勲に見せるためである」というようなことを鈴木Pは著書の中で語っていたりするし。高畑勲監督が作ってる最中の文芸作品(火垂るの墓)を宮崎監督が見てしまって、自分ももっと文芸的な作品を作りたくなって「ネコバスとか描いてる場合じゃない! トトロがコマに乗って飛ぶなんてダメだ!」とトトロの方向性を変えようとしたから鈴木Pが困ってしまって高畑勲に相談に行き、高畑監督から「ネコバスを消すのはもったいない」という言葉をなんとか引き出して、それを宮崎監督に伝えることで宮崎監督が納得した的な逸話とか。

つまり、宮崎監督は高畑勲への対抗意識とかそういうのが作品にかなり影響を与えていたのはまず間違いないわけで、高畑監督に褒められるような方向性を目指したところがかなりあったんじゃないかと想像している。


で、今回の『君たちはどう生きるか』で、宮崎駿は高畑勲との決別を決めた。

つまりそれは、今の宮崎駿監督は高畑勲監督を乗り越えて本来の自分に戻っているのではないか、と想像する。

勿論、高畑勲監督の影響は常に残り続けるだろうが、でも、もしかすると次の作品は初めて宮崎駿監督が高畑勲という人物を意識せずに作る作品になるのではないか、と考える。


ドキュメンタリー『ジブリと宮崎駿の2399日』は、宮崎駿監督がぶつくさ文句を言いながら風の谷のナウシカの新しい絵を描いているところで終わる。

風の谷のナウシカは宮崎駿監督が描いた漫画を原作としたアニメ映画(実際はほぼ同時進行だったりするが)で、実は映画化されているのは原作漫画の中の最初の25%ぐらい。映画は原作の序盤の序盤でしかない。

なのでナウシカの続きを作るという企画は今までも何度か浮かんでいたし、当時ナウシカの制作に携わっていた庵野秀明監督がナウシカの続編を作りたがって交渉してるけど宮崎駿監督が拒否して進んでないという噂は昔からずっとあったので、それを知ってる我々からすれば「ついに来たか!」という感じで見ていたわけだけど。

かつて、高畑勲監督が「30点」と評価した風の谷のナウシカが今になって動き出したのだとしたら、やっぱり宮崎駿監督は高畑勲監督を乗り越えたのではないか、という気がするわけです。

まぁ、高畑勲監督が30点という評価をしたから宮崎駿監督が奮起して漫画版がああいう結末になった(漫画版の完結は映画化の後)という考察があって、それに鈴木Pも納得されているようなので、なんとも言いにくい話なのだが。


でもとにかく、もしかすると宮崎駿監督の次回作は僕が好きだったラピュタとかのような作品になるのではないか、という期待感が今凄くあって、物凄くワクワクしているんですよね。

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