久し振りに母校に戻って懐かしい場所を歩いてきた日の言葉に出来ない想い
いったい教師というものは…
永遠に卒業できない
学校の亡霊のようなものなんだろうかの?
ハチミツとクローバー 5巻から引用
――――――
ちょっと京都に行ってきたのですが、そこで時間もあったので母校に寄るため大阪に寄ったんですよ。
元々、機会があれば行ってみようとは思ってたんですけど、たまたま今日パッと思い出して寄ったんです。
学生時代、あの場所で過ごした楽しい思い出がフラッシュバックして懐かしい思い出に浸っちゃうのかな? とか考えながらワクワクして長い時間、電車に揺られてたわけですが、着いた時の気持ちは正直なところ言葉に出来ない謎のモノで、言葉には出来ないけど、あえて言うなら虚無感に近かった。
学生時代、よく通っていた飲食店に行き、当時大好きで行けば毎回のように注文していたメニューを頼む。
当時と同じく旨かったが昔のような感動はなかったし、若干、作り方が変わって味も変わっているような気がした。
相変わらずなのは店主の親父だけだったのかもしれない。
日曜日なので誰もいないキャンパスを歩き、様々な場所の写真を撮る。
全体的には大きくは変わっていない。
学内ではいつもサークルでたまり場にしていた場所に行く。
昔たまり場だった場所には荷物が置かれていて、今も人が集まっているような形跡はなかった。当時所属していたサークルは数年前には解散していたので、それは当然かもしれない。
学校の裏にある心霊スポットの池に行く。
池は昔と変わらずそのままで、陽の光に照らされて輝いていた。
学校のトイレを借りる。
休日でも使えるトイレは昔と変わらなかった。
学校の中央付近にあるベンチに座る。
日曜なので学生はほぼゼロ。近くのベンチには学校の警備員が休憩で座っていた。この場所は丁度、銀杏の木の下で影になっていて、涼しかった。
自販機で買った水を口に含み、空を見上げる。
空は雲ひとつない晴天で、青い銀杏の葉が気持ち良い風に揺られてサワサワ音を立てる。
ポケットからスマホを出し『これ』を書き始めた。
なんだか言葉にして書き残しておきたい気分だった。
最初に思い浮かんだ言葉が、ハチクロで主人公らが所属する美大の教授が卒業生を見送る際に発した言葉。
『教師とは、いつまでも卒業出来ない学校の亡霊なんだろうか』
これだった。
自分は教師ではないけど、まだこの場所に縛られているのだろう、という感覚があって、それが『似ているな』とでも思ったのかもしれない。
当然ではあるんだけど『この場所にはもう自分の居場所はないんだ』というモノを強く感じたというか、再確認したんですよね。
あの時の僕らには、この場所はホームで、自分達の町であり、自分達の空間だった。
ダラダラっと町を歩き、授業に出て学食で安い飯を食い、公園で酒を飲みながら日向ぼっこして、友人と雀荘で徹麻して、居酒屋で馬鹿騒ぎし、サークルで鬼ごっこ大会したり、宝探しゲームしたり、深夜に学校の裏で星を見ながら語り合ってたら警察に職質されたり。
そんな僕らの場所はもうない。
いや、もう僕らの場所ではなくなったのだ。
それを銀杏の木の下で改めて感じ、心に突き刺さった。
そうしていると、スマホに小さな虫がついた。
それを爪先でピンッと弾き、また書き続ける。
しかし風が吹くと、また小さな虫がスマホについてくる。
どう考えても銀杏の木から小さな虫が風で飛ばされてきていた。
「帰るか……」
もう少し見て回りたいところがあったが、なんとなく銀杏の木にすら歓迎されていないような気になって、もう帰ることにした。
帰り道、バイトでよく訪れていた子供用品店を見ると、潰れて更地になっていた。
より寂しくなりつつ駅に向かい、電車に乗る。
少し落ち着いて、窓から町を見る。
そして今日の出来事を思い出してみる。
でも、僕は少しは、大学から、あの頃から、あの町から卒業出来たような気はした。
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