プロットを作らずに小説を書く方法――そしてプロットの作り方を公開してみよう

『プロットを作らずに小説を書くのは天才』


的な話を見て「それホンマか?」と思ったので、考察ついでに自分のやり方をまとめてみようと思った。


まず、極スタについては、3巻途中まではプロットを作ってないんですよね。

ここに関しては自分の頭の中で大まかな展開を考えて、それを元に書いていた。

じゃあプロットなしでどんな感じに小説を書いてたか、なんですけど。流れとしては、まずどういった話にするのかを決めました。

そしてどんな世界なのかを決めつつ主人公にどういった体験をさせたいのかを大枠で決め、後はアドリブで書いてましたと。


最初の最初は、とにかく『読者に何を見せたいのか』を決めたというか『どういう面白さがある話なのか』を決めた――というより、これは最初からあって。あったから書き始めたわけでで、これを『最初に決めた』というのは少しおかしいのだけど。

とにかく主人公がどういう風に動き、どうなっていくのか。『作品コンセプト』と呼んでもいいけど、それが最初にないと始まらないので、それをしっかりと固める段階が最初。


そして作品全体から考えていって、大枠でその作品の方向性をどういった方向にするかを決めましたと。

どういった主人公で、どういった能力を持っていて、どういった性格か。世界設定やスキルやアビリティなどの設定。魔法に関する理論とか、世界の動植物やモンスターの動きや関係性とか、どういった生態系を持っているのかとか。この世界の大体の歴史とか。

全体的な物語の流れとラストにどうなるかとか。

これは上で決めた『読者に何を見せたいのか』という部分が一番活かせる世界観を構築した感じ。

とにかく、世界の成り立ちに関わる根幹の枠組みたる多くの部分を最初に考えておいた。

プロットは書いてないけど世界設定についてはかなりの量を設定集に書いているし、これがないとプロットなしで書くってのは出来てないと思う。


次に1巻部分を書いた流れだけど。

1巻は最初にこの世界の冒険者とはどんなモノなのかを見せることを主題として決めましたと。

冒険者の大多数は生まれ育った町に定住し続けるのが普通で、町を移動する冒険者は他の町にはそんなに愛着もないし、状況が悪くなればすぐに町からおさらばする。

そこに主人公の成功体験としてモンスターの大量発生と、主人公による解決の流れをイメージした。

でも、主人公はまだ低レベルで、大きな役割は担えない。なのでそれを解決する手段として特殊なアイテムを入手する流れを考えた。

それに、定住系冒険者と主人公の方向性がすれ違って主人公がパーティを抜ける決断をする流れと、主人公が冒険者パーティの中で冒険者としての仕事を学んでいく流れを考えた。

ここまでが1巻部分で頭の中でイメージしていた流れで。この時点では毎日更新を続けながらもストックがそこそこあったので、先の部分で良い展開を思い付いたらストック内で修正を加える感じでした。

後はその場のアドリブとキャラクターが動くままに任せる感じ。

ぶっちゃけ、決めたこと以外の部分はかなりアドリブの要素が大きかったと思う。

今ではメインキャラクターの1人になってるリゼ(妖精)を1巻で出したのもアドリブで、ギリギリまであの村を『妖精伝説のある村』にするか『湖底神殿のある村』にするか迷って、あの時点の主人公に湖底神殿を探査させる方法とその流れを考えつけなかったから妖精の方にしてリゼを出しただけだったりする。

(構想としてはあったけど、順番が決まってなかったという話ね)

だから1巻部分で最初から決まってたところは、世界設定とか物語の大枠での流れを除くと、


①主人公が回復魔法をどうやって覚えるか

②主人公が仲間と別の町に遠征に行って野営を学ぶこと

③主人公以外のパーティメンバーが外の世界に旅立つ気がないこと

④主人公がいる町がモンスターに襲われて主人公が低レベルながら活躍する展開


大体この4つだけで、他の部分はほぼアドリブで、後はキャラが動くままに任せてそれを出力していっただけだった。

閑話もいくつか書いたけど、あれもその瞬間、瞬間に面白そうなネタが思いついたら書くだけ。なので締切とかに追われたりリアルが忙しくなったら余裕がなくなって書けなかったりする。


◆◆◆


2巻については飛ばして、3巻は後半部分の幽霊のパートが実質的にミステリー調の展開になった関係でプロットを作るしかなくなった感じでしょうかね。

それと、思い出してみるとあの時は諸事情であのミステリー的な話を追加する必要が出来たので、後付的に書いたような面があってプロット的なモノを作って書かなきゃ書けなかったような印象。

誰がどこでどうなって、どの人物がどこでどう動き、過去にこういうことがあって、それが現代でこう影響して……みたいなことを頭の中だけでまとめるのが自分には不可能で、全体の流れを書くしかなくなった感じ。

なのでその日「あぁ、プロットを作らなきゃ」と思って作ることにしました。

しかしこの部分のプロットは、プロットというより関係図に近いモノなんで実質的にはプロットじゃない気もしますね。

でも、今から考えてみると書籍版4巻のオチ(つまり3巻~4巻にかけてのアルノルンの町編のオチであり、戦争が起こった理由)はこの3巻の時点でその伏線は書いてたので、4巻で戦争を起こす展開はこの時点で既に出来上がっていたんですよね。

よく思い出してみると、2巻でも『西の方がきな臭い』的な伏線は入れてたはずで、戦争展開にすることは2巻の時点で確定してたか。


4巻に関しては、今ちょっと過去のデータ確認してみた感じではプロットがなかったから、ここもプロット作らずに書いてたんだと思う。

とはいっても完全にゼロからなにも下敷きなしに書いたのではなくて、自分の考えをまとめる雑記みたいなモノはあって、これをベースに書いていた。

どんなモノなのかというと。

まず最初にその時点までのストーリーや主人公らの問題点や次に書くべきネタなんかを箇条書きにどんどん書き出していくと。

それにプラスして今後どんな展開にしていきたいのかも書く。

で、それを元にその章(4巻部分内)で最後にどんなゴールを目指すのかを考えた。

この時のゴールとは、主人公が別の町に行くことになる展開。

それを目指して、やる必要があることや、主人公にやらせたいこととか、主人公が手に入れさせておきたいスキルやアイテムなんかを考え、それらの事象を配置出来る道を思い浮かべた感じ。

話の中の細かい部分は完全にアドリブ&キャラが動くままに任せただけ。


◆◆◆


で、自分の中で完全にプロットを作って書いたと思ってるのは5巻からなんですよ。

ここで自分のプロットの作り方が大体、形になったと思う。

まずこの巻に関しては4巻の段階からダンジョンをクリアする展開を考えていた。

(だからターンアンデッドというダンジョンをクリアするために必須となった魔法を4巻の間に出していた)

そこを土台にし、4巻と同じように最初にこれまでの問題点や次にやっておくべき話を箇条書きにした。

で、主人公がダンジョンをクリアするために必要な要素を考えて、それを主人公が得るための展開を考えた。

基本的な流れとしては、最初にストーリーのゴールを設定し、そのゴールにたどり着くにはどうすればいいのか考えるのがいいんだと思う。


5巻は読者に出来るだけ最後まで『物語のゴールがダンジョンクリア』だと悟られにくいように書こうという意図があった。

なので主人公がダンジョンクリアに必要な要素を少しずつ集めていくけど最後までダンジョンクリア出来るかどうか分からないように構築する必要があって、そこを考えるためにどうしても時系列で様々な要素を並べておけるプロットという存在が必要になった感じだと思う。


ここで5巻のプロットの最初の部分を公開してみる。

以下↓実際のプロットのコピペ。



 馬車の中で黄金竜の爪のバッジを外す

  シューメル公爵の領地以外では目立ちすぎて悪い影響があるかもしれないので

 アルッポの町に到着

 町の入口でアーティファクト真実の眼による審査がある。

  同じ乗合馬車に乗っていた面々が列に並び、真実の眼の審査を受ける

  その横を豪華な馬車がノーチェックで通り抜ける

  ルークの前に並んでいた人が真実の眼に触ると、薄い青色に弱々しく光る

  列の後ろから「ちっ……これだから錬金術師は」と罵声が聞こえる。

 他の町に比べ、冒険者が打撃系武器を持っている割合が高いことに気付く

  ハンマーとか棍棒とか

 情報収集

 冒険者ギルドに行く

 冒険者ギルドの資料室で情報収集

 裂け目のダンジョンについて知る

 錬金術師ギルドに行く

 ギルドでコンロの製作者を聞くが、教えてもらえない

 錬金術を使えないので錬金術師ギルドに入ることも出来ない

  ギルドに入るには有力者(貴族、錬金術師)の推薦が必要。

  推薦に値する人物

 弟子になって錬金術を学ぶか考えるが現実的ではないので諦める

  初級錬金術師入門 金貨30枚をオススメされる

  高すぎるのでお断り

 ダンジョンに入る前に槍を新調しようと考え、武器屋を探す

 お金はあるので良い槍を買おうとして高そうな店に入ろうとするが入口で拒否られる

  ギルドカードの提示を求められ、上級冒険者しか入れないと冷たく言われる

  諦めて帰ろうとした時、その横を高そうな鎧を着た冒険者っぽい一団がノーチェックで通り抜ける

  そこで自分がどう見られているのか、扱われたのかを知る

 冒険者ギルドに行く

  ギルドで冒険者から情報収集

  町の事とか、武器屋の事とかを聞く

   武器は打撃系を勧められる

   スケルトンに刃物は無用。

   ゾンビは多少体が損壊しても生き続ける。頭を潰すのが手っ取り早い。

  ダンジョンは3階までにしておけと忠告を受ける

   ダンジョンの大きさ的に4階まで行くとその日中には帰れなくなるから

   4階まで行くと野営が必須になるから

 武器屋へ

  紹介してもらったミドルクラスの武器屋に行く

  自分に合った武器を考える

   属性で言うなら光属性より聖属性ではないかと考える

  しかし聖属性武具なんて伝説で出てくるぐらい

  そもそも現代に作れる人がいるのか疑問

   自分で作るしかないかも

  ミスリル合金カジェル

   2mぐらい。以前使っていた槍に似ている

 裂け目のダンジョンに入る

 1階をくまなく歩いてダンジョンについて探る。

  倒した敵が消えない事

  地上を同じようにゴブリンが集落を作っている事に気付く

  ダンジョンの端に行ってマギロケーションで確かめる

 ダンジョンを出る


ここまで。

プロット(だけじゃなく、設定資料とか本編も)は全てテキスト形式で保存しているので、実際に使ったプロットそのままです。グラフィカルなツールとか外部ツールはまったく使ってないです。現時点では完全にテキスト形式だけ。

以前は特殊な無料小説ツールを使用していたけど、バージョン更新されなくなり今のWindowsでは動かなくなったりでデータの回収が不可能になったので、今はどこからでもデータが見れるテキスト形式で残すことにしています。

起こるイベントを時系列に並べ、その詳細と、そのイベントによって起こる事象とか裏の意味とかを段落下げでツリー状にぶら下げていくイメージ。

考えてる段階で特徴的なセリフが思い浮かんだら、それもそこに書き込んでいく感じ。

残りの部分はアドリブで思いつくままに書いていく。


◆◆◆


以前、NHK大河ドラマ鎌倉殿の13人の最終回の後に脚本の三谷幸喜氏のインタビューがあって、鎌倉殿の13人の制作秘話が語られてたのだけど、その中で三谷幸喜氏が脚本の書き方を少し語られていたのだが。

それを見た感じでは三谷幸喜氏もプロットを完璧に作ってから書くタイプではなく、書きながらアドリブで作り上げていくタイプなんだと感じたわけです。

具体例を出すと、作中、源頼朝の父である源義朝の髑髏(しゃれこうべ)が作中全体のキーアイテムになっているのだが、実はこれは序盤に頼朝が平家打倒に立ち上がる時のキーアイテムとして用意され、それ以降は登場の予定がなかったそうなのだが、後になってその髑髏を別のシーンでも使えば面白くなるのではないかと思いつき、急遽撮影スタジオの倉庫に眠っていた髑髏を見つけ出して再利用したそうな。

(処分されずまだ残っているかどうかすら分からなかったらしい)

そして源義朝の髑髏が作品全体を通しての重要なキーアイテムとして認識されるようになった。

つまり、彼はその時の思いつきで展開を大きく変え、その瞬間のアイディアを採用して、それでもより面白く変えることが出来て、なおかつ整合性を取れると。

別に伏線のつもりで配置しているわけじゃないのに、後になってみるとそれを使ってもっと面白い話に出来るギミックを思いつくらしいんですね。


で、どちらかといえば僕もそっちタイプで、伏線とかそういうつもりで用意してたわけじゃない要素が後になって伏線として使えることに気付いて、それを上手く使った展開に変える、みたいなことが何度もあるんです。

これは別に自分が凄いとかどうこうじゃなくて……

いや、まぁ確かに序盤で適当に入れてた要素を後になって『それを上手く使えばもっと面白く出来る』と気付いたその瞬間は「俺は天才か!」と一瞬だけハイテンションになるけど、すぐに「あの時、思いつきでアレを入れてなかったらこの展開はなかった……」と気付いたらすぐに恐怖に襲われるので、かなり心には悪いんですよね。

1冊の本で大体1回か2回はそんな場面があるからかなりしんどいです。


でも、プロット作らずに書くならこの能力?は必須なような気はちょっとしてたりする。

「特に意味はないけどコレ入れとくか」

みたいなノリで使うかどうかも分からないモノを上手く序盤や中盤に目立たない程度に散りばめておけて、実際にソレを上手く回収出来る能力的な感じ。

ぶっちゃけプロット作らずに(まぁ完全にアドリブだけで書いてるわけじゃなくて全隊の流れは最初に考えてたりするけど)書く場合、当たり前だけどプランがないからその場で面白いモノ(展開とか小ネタとか面白要素とか)を考えて書き続けていかなきゃならないので、暗闇の中をゴールの光を目指して歩くような不安感が常にあるんですよね。

だからちょっと安定しないところもある。


自分がこの「プロットを作らないで書く方法でもいいんだ」と自信を持てたのは芥川賞作家の保坂和志先生が著書内で登場人物の動きに任せる書き方で小説を構築していると書かれていたのを見たからなんだけど。つまり保坂先生もプロットを作らずキャラクターが動くままに物語を作っているらしくて。この本を見てなきゃ僕も今の書き方に疑問を持ったままだったと思う。

正直、小説を書き始めの頃は自分の書き方が合ってんのか間違ってんのかまったく分からない中で手探りで小説を書いてたので、かなり不安な部分もあったんです。

今となってはプロットを作るメリットとプロットを作らないメリットの療法を理解して、その時々によって使い分けている……というか、混ざったやり方というか『大枠だけ決めて大部分はアドリブ』みたいな感じに落ち着いてる感じか。


とにかく、人によっては「プロットもナシに小説を書くとかありえない」と言う人もいるけど、それは間違いだし『普通にプロット作らず小説書いてる人はいる』ってのが結論。

でも、プロットがないと本当に霧の中を進むような状態になりかねないのでおすすめはしない。

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