「槍は叩くモノ!」……という説に対する考察

『槍は叩くモノ!』


という説があるのを知ってますか?

一般的に『槍』と言ったら突くための武器というイメージがあるけど、実は戦国時代なんかでは槍は突くのではなく叩いて使っていたんだ! という話があると。だから戦国時代なんかの時代劇に出てくる合戦シーンで、足軽が槍でヤァヤァ突きあってんのは間違いであるという説がある。

こういった説が出てくるのは、あまりこの当時の資料が残っていないようで、実際の槍の柄とかもよく分かってないっぽいんです。


でも結論から言うと、この説はどうやら正しいみたいなんですよね。

日本の戦国時代には平均4mぐらいの長さの槍を使っていて、それを上から叩きつけることで遠心力やら槍の重さやらが加わった重い一撃が出るから、突くよりも効率的だったらしく、織田信長なんかは6mぐらいの長い槍を使ってもっとリーチを稼いでいたという話。


で、まぁそれはそうとして別にいいのだけど、個人的な問題としてですね、


「槍は叩くモノなんだから突いたりしてんのはおかしい!」


って言われちゃうわけですよ。

槍をメインウエポンにしてる主人公で小説を書いているとね。

ぶっちゃけ「そんなこと言われてもなぁ……ファンタジーだし……」と思わないこともないってか、仮にそれが事実でも大目に見てくださいよ……ってなところではあるのですけど、それはそれとして、自分としてはこの『槍は叩くモノだ!』説にも少し思うところがあるというかですね。

ぶっちゃけ間違ってるんじゃないのかと思ってるんです。


『槍は叩くモノ!』は正しいけど、でも間違っている。

それはどういう話やねん、という話をしていきたいのだけど。


まず第一に、現代に伝わっている槍道の動画とかを見ていると、基本的には突きをベースにした攻撃をしていること。これは様々な流派があれど、基本的にはどこも同じっぽい。

第二に、現在の槍道で使用される木槍は年齢にもよるが大体2mと少しの長さと決まってるっぽい。

第三に、海外を見ればランスとかファランクスとか突くことを考えた槍や戦術は存在する。

第四に、4mオーバーの槍を振り回したり突いたりするのが難しい。

第五に、当時の足軽槍兵はほぼ農民。

第六に、武者の浮世絵なんかで武者が持ってる槍は大体2m前後と推測出来る。

第七に、昔の資料等にも槍で突いてたような記述があるらしい。


以上の話を解説しながらまとめるとですね。

まずリーチの長い武器の方が戦闘では有利という大前提があると。

そして剣より槍の方が使用する金属量が少ないためコスパが良い。

戦いを本職とはしてない農民を兵として使うなら恐らく槍が一番訓練時間もかからず戦力に出来る。

そして、リーチが長い方が有利になるから時代が進むごとに槍をどんどん長くするようになっていった。

しかし槍が長くなると、柄に竹を使用していたのもあって槍がグニャグニャしなるようになるから突くことが困難なうえ、重すぎて取り回しが悪く、相手を狙ったり細かい操作・技術などが使えなくなった。

なので元々武術に精通していない農民では穂先を持ち上げて叩きつけるしかなくなり。しかしそれでも殺傷能力は高かったので問題なく、農民をもっと簡単に兵として使えるようになった。

『槍衾(やりぶすま)』という言葉があるように、槍隊を横一列に隙間なく敷き詰める集団戦術で長槍を用いたので、細かい狙いがつけられなくてもあんまり問題がなかったのではないか?と予想出来る。


一方で侍は侍大将のようにそこそこ身分が高くなると馬上衆と言って馬に騎乗して戦に出られるようになる。そもそも馬はそこそこ高いわけで、それなりに身分の高い侍でないと確保が困難だったはず。

で、その前に。一説によれば戦国時代の騎馬隊は馬上では戦わなかったというモノがあり。馬はあくまでも移動手段で、騎馬隊は移動する時に馬を使い、戦う時は馬から降りて戦ったと。そういう説もあるのだが、その逆に馬上槍で戦ったと伝承が残ってる武士もいるので、これはどちらとも言えない話という前提で。

仮に馬の上で戦うとしたら片手は手綱を握ったりするわけで、超重たくて両手でも扱いに苦労する4mオーバーの長槍を馬上で、しかも場合によっては片手で使わないといけないとなると少し違和感がある。

(ヨーロッパではランスという馬上槍があり、これは4m以上あるモノもあったという話だが、ちょっと使い方が違うので別の話とするが)

浮世絵に描かれている馬上槍のシーンなんかも大体2m前後の槍だし、将クラスの侍はそれぐらいの長さの槍を持っていたのではないかと推測する。


つまり槍衾を形成する足軽が持たされていた長槍と、槍衾の後ろにいた武将クラスの侍が持っていた短槍は別物で、使い方も別物だったのではないか、という結論に達した。

武将クラスは短い槍で(まぁ本多忠勝の蜻蛉切は6mだったという話はあるが、これは本多忠勝が化け物だったということにして……)侍が使う槍の技術だから流派が生まれて現代に残っているし、4mオーバーの長槍の技術は単に足軽の技だから後世に残っていないのではないか。という予想がある。


4mの槍の槍衾がある中で2mの槍が役に立つのか? という話があるけど。

恐らくこの時代の基本戦術は、鉄砲が普及する前に関してはだが、槍衾という前面に対してのみ高い抑止力を持つ(つまり長い槍が邪魔で敵が接近出来なくなる)槍隊を最前列に横一列に展開し、相手の槍隊と潰しあいをして、どこか一点でも相手が引いてラインが崩れたところから相手の槍衾の内側に入り、そこから接近戦に持ち込んでいたのではないかと考える。

接近戦に持ち込めば4mの槍なんて邪魔になるだけで逆に2mの槍は接近戦でも扱いやすく刀よりもリーチが長くて有利になるはず。

そう考えていくと騎馬隊や伏兵による側面攻撃がどれだけ強かったのかが見えてくる。なんせ槍衾は隙間なく槍兵を並べて敵兵を内側に入らせないことが要の戦術なのに、いきなり側面からあたられると槍衾を形成出来ないわけで、ただの近距離戦をするしかなくなると。


ちょっと話が逸れたけど。

結論としては、長槍を用いた戦術として相手を叩きつけるような使い方をした場合もあるが、短槍では普通に突いてたはずで『槍=叩くモノ』という考え方は間違っているんだろうな、ってのが自分の中で出した答え。


というのはとりあえず置いといて。

ファンタジーなんだし、自分の作品内では槍で突きもするし斬りもするし炎も出すし謎のパワーで大地を斬り裂いたりする予定なので、そこんとこよろしくお願いします!

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