終末系作品を読んでいて気付いた『バッドエンドが見えてしまって読みたくなくなる作品のデッドライン』の考察

昔、ドラゴンヘッドという漫画が好きで――

内容を出来るだけネタバレしないように書くけど。

学校行事の旅行で新幹線に乗っていた学生がトンネル内で崩落事故に巻き込まれ、そこから自力で脱出して東京を目指すが……的な書き出しから始まる内容。

当時はラストの展開を見て「まだ続きが読みたいのに、どうしてこんなところで終わるんだ?」という感想が最初に来たのと同時に、当時の自分には言葉に出来ない謎の「でも、この先を読んでも……」という変な感情があった。

で、その感情をなんとか言葉に出来るようになったのは何年も後なんだけど。結局、後からドラゴンヘッドのことを考察してみて思うのは、作者側の目線で考えてみると、あの作品はあれ以上は続けられなかったのだと感じると。

仮にあれ以上、続けることになったとしても恐らくコンセプトはズレてしまって実質別作品になってしまってた気がするし、あの面白さを維持するのも難しかった気がしてる。


藤子不二雄先生の短編集に『みどりの守り神』という短編があってアニメ化もされているのだが。

この作品の内容をかいつまんで話すと。

飛行機事故にあった男女が目を覚ますと見知らぬ木々が生えたジャングルの中で、冬だったはずなのに暖かく、彼らは不思議に思いながら救助が来ないので人里を目指し歩いた。

長年放置された民家で寝たり車などから食べ物をゲットして進み、途中で見たこともない謎の実をつける食べ物や、傷がすぐに回復する不思議なことも起こりつつ、ジャングルを歩くより川を下っていけば町に出るだろうと考えて筏を作って川を下る。

そこで野宿をして色々ありつつ、荒廃した巨大ビル群を見付け、ここが既に東京であったことに気付く。

ビルの中で世界になにが起こったのか記された文書を見付け、既に細菌兵器によって人類含め全ての動物昆虫類が死滅していることを知る。

で、絶望しつつ色々あって他に生き残っている人を見付け、最後に復活した鳥類を見付けたことで希望を持ち、他の生き残った人類を探す旅に出るところでエンド。


この作品を例に出したのは、事故に巻き込まれなにが起こったのかまったく分かっていない主人公らが助けを求めるために旅立ち、様々な冒険を経た後に『世界の崩壊を知る』そこでエンド、という流れがドラゴンヘッドと構造的に似ているからだ。

個人的にはこの『みどりの守り神』も続きが読みたいと思っていた漫画なんだけど。

恐らくだけど、このみどりの守り神もドラゴンヘッドど同様に、作者側からの視点では続きの話は『書けない』んだと想像出来ちゃうわけなんですよね。

だからこの話は短編だし、ここで終わりにしたんじゃないかと。


じゃあ、どう『書けない』のか?

という話なんだけど。

具体的には、その先の話を書いても救いがないし、別のジャンルとかストーリーになっちゃうからだろう、と考えたんです。

別の例で説明すると。

例えばホラー作品って、結局のところホラーの元凶になる事象・物体(つまり幽霊とか、サメとか、ゾンビとか、ジェイソンとか、今回の話で言うと災害などで遭難とか)から逃げたり、倒したり、問題を解決したりして、とにかく最後には『主人公は日常に戻ってこれる』という期待を視聴者が作品中に持てているから楽しめる、的なところがあると思ってるんですよ。

勿論、映画の『ミスト』のように救いがまったくないラストもあるし、『呪怨』とか『リング』のように、最終的にはどうも出来なくなるラストもあったりするけど。そういった『終わり』の話ではなくラストまでの途中の部分に希望があるのかが重要だと思うんです。

つまり、アンパンマンで観客が安心して楽しんで見てられるのは、最終的にはバイキンマンは倒されると期待出来るからだと思うんですよ。仮にバイキンマンがアンパンマンを倒して終わるバッドエンドな超展開になっていたとしても、観客はその瞬間まではバイキンマンが倒されると期待して見ていられるから、その瞬間まではワクワクして見れるはずであると。

ただ、アンパンマンが倒されたその後に続くであろう、バイキンマンに支配された世界の極悪な話を書けるのか? というと。それはもう完全に別物の話になっちゃうし、子供は絶対に喜ばないし読者層も変わってしまう内容になるだろうし、書けないですよね、という話。

上記のホラー作品で言うと、サメとかジェイソンは(強さの限界が見えるので)当然として、ゾンビモノとかは『外の世界に脱出したら日常生活が待ってる』という希望が見えたら楽しめるけど、世界全体がゾンビに侵食されて安全な場所がなくなっていた展開になると、とたんに別ゲーになってしまって事情が変わってしまうと。

幽霊系に関しても、幽霊から逃れるにはどうすればいいかを主人公らが考えて行動して最終的に解決策を見付ける、ってのが基本の流れだけど、幽霊から逃れられないという設定が判明してしまうと途端に別ゲーになってしまって続きが作れなくなる感じ。


映画の『ミスト』にしても、あのラストの後の話って必要か? という話があって、それは明らかに蛇足だからいらないと思うのだけど。しかし、あの後に人類はどうやって問題の霧のモンスターを押し返して撃退していったのか、という話には興味があって面白そうだと思うと。

でもそれは完全に別のストーリーであって、別の需要というか、別の作品なわけですよ。


つまりドラゴンヘッドにしろみどりの守り神にしろ『主人公が日常を取り戻そうと足掻く話』だからサバイバルモノとして楽しめたんだと思うんですよね。

だからラストで主人公らに――つまり読者に『もう日常はない』と突きつけてしまった以上、その先はもう書きにくいんじゃないかと思うと。

だから作者はそこで話を終わらせたのではないかと考える。


◆◆◆


で、なんでこんな話をしたかというと。

最近Twitterとかで流れてくる漫画の試し読みを見てると、


「面白そうだが、これって主人公に明るい未来あんのか?」


と思う作品がいくつかあったんですよね。

ぶっちゃけ冒頭部分だけ見ても面白そうだと思ったし続きを読みたいとも思ったりするけど、でも、冒頭に描かれた設定を読み解く限りでは主人公らに明るい未来があるとは想像しにくいし、ラストは切ないモノになる気しかしないわけですよ。

だから『面白そう』っていう感情を理性の方がストップするというか、今までの経験から考えるとそういう作品って普通にバッドエンドというか切ない感じになるのが見えてるから『読まない方がいい』というシグナルが脳から出てくるんですよね。


別にバッドエンドが悪いっていう話ではなく、最終的にバッドエンドになるにしても道中に関しては希望がないと見続けられないと感じるわけです。

主人公が地獄に向かって走っていくような展開の話でも、その中に一縷の望みが残っている可能性が(読者側に)見えると楽しめるけど、完全に明るい未来が絶たれてバッドエンドしかないと読者が感じた時点で地獄への坂道を転がり落ちているだけになるので単純に読むのがキツくなっちゃうと。


「でも、オープニングからバッドエンドが確定している名作ってあるよね? なんなら予告の段階でバッドエンド見えてるじゃん!」


と思う人もいるかもしれないけど、そういう作品はどこかに一工夫あると思うんですよね。

例えば映画版の『星守る犬』とかは最初に主人公の遺体が発見されるシーンから始まってバッドエンドが確定するが、実質的にはその主人公の遺体の身元を調べるために足取りを追う男の視点から主人公の最後までの人生が語られていく展開になっている。つまり映画版ではその男の目線で主人公が語られるから、要するにワンクッション置かれているのだ。

このワンクッションがかなり重要だと思っていて。バッドエンドに向かう主人公を主人公の視点で見るか、バッドエンドに向かう主人公を第三者の視点で観察するかには大きな違いがあると思う。

例えば刑事ドラマで刑事が犯人や被害者の足取りを追っていく中で彼らの人生や行動が分かっていく流れは天板だと思うが、それだと視聴者が犯人や被害者に感情移入する度合いは小さくなるよねってこと。これと同じと考えると分かりやすいはず。


話を戻すと、個人的にデッドラインはここにあると思っていて。

まずバッドエンドが早い段階でほぼ確定してしまう作品は展開的にはあまり良くない。

もしバッドエンドを最初から明示するならワンクッション入れるなり工夫が必要。

ワンクッション入れないにしても、短編とか映画一本とか比較的短い時間の作品で終わらすべき。何巻にもなる長編作品でそれはキツい。

こんな感じ。


やっぱり、どんなに絶望を背負う話であってもどこかに希望がないとキツいだけなんですよね。

特に長編になる話だと余計にね。

個人的にはそういう話はパッと見た最初の段階で敬遠しちゃう。仮に最後にはハッピーエンドが待っていようが、最後の最後に希望を掴もうが、最初がダメならダメなんですよね。

『最後まで読んだら面白い』っていう言い訳は通用しないわけですよ。

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