ホラー映画お馴染みのあの演出がそろそろなくなりそうなライトの話
蒸し暑い夏のある夜、仲間内で騒いでいる内にテンションが上がってきて、僕らは近所の廃病院に肝試しに行くことになった。
「――この病院、医療事故で人が死んじまったらしくてさ。それで潰れたんだって」
後ろから聞こえてくる嫌な情報に少し寒気を感じつつ、先頭を歩くたかしが持つ一本の懐中電灯の光を頼りに一歩一歩、足を進める。
病院内は地元のヤンチャな奴らが来ていたのか壁にスプレーで『○○参上!』などの意味のない落書きがされてあり。床には石やガラス片などが散乱していて、それが靴裏をジャリジャリと鳴らす。
「確か地下にある死体安置所で……『出る』んだよな?」
「あぁ、噂ではそうだな」
「ねぇ、もう帰ろうよ……絶対ヤバいって……」
「大丈夫だって、幽霊とか迷信っしょ!」
ぶっちゃけ僕も帰りたいけど、小さなプライドがギリギリのところでそれを言うのを妨げていた。
その時、どこかでピチャンという水音のような音が聞こえた気がした。
「おい、今どこかで音がしなかったか?」
「怖いからやめてよ」
「あっちか?」
たかしが懐中電灯を音のした方――左側へ向ける。
広い病院のホールに懐中電灯の光が踊り、奥へと続く通路の方向が淡く照らされる。
しかし懐中電灯の光は弱く、その奥までは見えない。
「ん? 今、なにか動いたような……」
「だからそういうの止めてって!」
「いや、確かにさっき――」
たかしは『ナニカ』を探すように懐中電灯を上下左右に動かしていく。
それに伴って光が上下左右に動き、壁、床、天井、イス、机と、順番に照らしていく。
なにか背中が凍るような嫌な予感を覚えつつ、その光を目で追っていると、一瞬なにかの影が光の端に映った気がした。
その瞬間、ドッと背中に冷たい汗が流れる。
「……帰ろう」
思わずそう口に出していた。
「なに言ってんだ、肝試しはこれからだろ」
「ねぇ、私も帰りたいって……」
「せめて死体安置所の前までは行こうぜ。ここまで来たんだし――ん?」
懐中電灯の光の動きが止まり、それを持っているたかしが黙り込む。
「たかし?」
「おい、どうしたんだ?」
「……」
するとたかしはいきなり動き出し、周囲を探るように懐中電灯の光をそこら中に向けだした。
「お、おい」
「たかし?」
「い、いや! さっき、ちょっと……」
たかしは後ずさりしながらこちらに近づいてくる。
と、次の瞬間、後ろから『ピチャン』と音がした。
たかしが勢いよく振り向いて、そちらに懐中電灯を向ける。
そして僕も振り向いた。
そこに『いた』のは――
「キャァァァァ!」
◆◆◆
みたいな展開ってホラー映画とかサスペンスとかではド定番じゃないですか?
夜中に主人公が懐中電灯持ってどこかを探索。
すると懐中電灯の光の中を一瞬だけ横切るナニカの影。
観客はそこでゾクッと来ちゃうみたいな。
ホラーゲームの零シリーズとかそういう感じの演出ですよね。
話は変わるけど、最近ちょこちょこ防災用品とかを揃えていってるんですけど、その中で懐中電灯というかライト関係も重要だなと思っていくつか充電式ライトを買ってみたんですよね。
ライトってとにかく光ればなんでもOKではなくて、状況によって必要な光の質って違うじゃないですか。
たとえば停電した夜に懐中電灯があったら、そりゃちょっと足元照らしたり捜し物をするにはそれで良いかもしれないけど、そんな一点だけを照らすだけの光では日常生活は普通には出来ないでしょ?
それこそ普段使っているルームライトのように広範囲を全体的に照らしてくれるような光が欲しいところだし、夜の間ずっと保つぐらいの持続力は欲しくなる。
やっぱり全体的に照らすような光源がないと夜は安心感がないんですよね。
個人的には前から懐中電灯の光ってあんまり好きじゃないというか、仮に真っ暗な場所で歩く時に使うとしても、足元を照らしたら周囲が照らせなくなって見えないから不便だなぁみたいなね。
そんなことを考えながら防災用品のライトを選んでたら良いのを見付けたんです。
それは『COBライト』というジャンルのライト。
2016年頃から普及してきたLEDライトの一種らしいです。
なんか書き方的にどこぞのアフィリエイトブログか通販番組みたいになってきましたが……。
特徴としては低電力で高ルーメン、コンパクトで照射範囲が広い。
つまりとにかく明るくてコンパクトで広範囲を照らすことが出来る感じ。
そう書くと万能っぽいけど、遠距離の照射が苦手なのが弱点と。
最初このCOBライトを使ってみた時、思ったんですよね。
これ、最初に書いたようなホラー映画のお馴染みシーン、もう出来なくなるじゃん……ってね。
とにかくコンパクトで照射範囲が広くて周囲を昼間のようにするので、10センチぐらいのライトでも部屋の照明として使えるぐらい光量と範囲があるみたいな。
具体的な範囲で言うと、ライトを向けている方向の上下左右、上下も左右も全方位160度ぐらいの範囲を満遍なく照らせてしまう。
上に書いたホラー話で言うと、懐中電灯の光って一点に集中しちゃうから、こういう探索をしようとすると懐中電灯を上下左右に動かして光を当てる場所を変えていかないと全体を見れなくて探索しにくいけど、COBライトなら見ている方向、目に入る視野角の大体の部分が照らされるから周囲がどういう状態なのか把握しやすいんですよね。
一度、深夜に人の気配も街灯もない場所を歩く時に使ってみたけど、全体の把握のしやすさが段違い。その一方で、周囲を明るくしすぎて自動車のハイビーム出してるぐらいの感じになるので、周囲に民家とか人が多いと迷惑になる可能性もあるなと。
で、これ。今はまだ使われ始めて6年とかなので一般にはそこまで普及してないけど、もしもっとこれが一般的に使われるようになって、一家に一台、懐中電灯の替わりに常備されるような状況になって『夜中に明かりとして持ち歩くなら普通にCOBライト』という状態になったら本当に上記のそういうシーンって書けなくなるというか。
見ている人に違和感になってくるはずなんですよね。
「えっ? 懐中電灯とか持っていくの? おかしくない? 普通はCOBライトでしょ?」
「今時、懐中電灯なんてご都合主義じゃない? 演出か?」
みたいな。
なんか、そうやって時代って移り変わって行くのかな? なんてちょっと思ったんですよね。
◆◆◆
なんかやっぱり通販サイトの商品紹介みたいになるけど……。
個人的に災害とか停電とかの非常用に常備するなら懐中電灯よりCOBライトの方が断然良いと思うんですよね。
災害時に使うとなると一点を照らすより全体を照らす方が絶対的に需要があると思うし。
この辺り周知されていけば懐中電灯からCOBへどんどん切り替わっていくと思うし、そうなったら割と10年後ぐらいにはそんな時代になっていてもおかしくないと思うんですが、どうですかね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます