金田一少年が陸の孤島に閉じ込められる理由から考える現代ミステリーを書く難しさ
昔から火曜サスペンス劇場とかが大好きで、夕方にやってた推理モノとかサスペンスの2時間ドラマ再放送をよく見ていた。
そんな2時間ドラマというモノは大体ミステリーで。
殺人事件が起こって刑事がやってきて周辺住民に聞き込みしたり、鑑識が指紋や血痕を調査し、検視官が遺体の調査をする。
そして、そこで得た情報を元に所謂『探偵役』が推理をしていき、犯人に迫っていくと。
流れとしては大体の推理ドラマはこんな流れだろうか。
そういったミステリーを自分が書くとなると『犯人はどういった手段を用いて探偵役の捜査から逃れるのか?』という部分を考える必要があると思う。
ようするにトリックを考える必要があると。
トリックがあって、それを探偵役が解き明かす。その過程を楽しむのがミステリーだと思うから。
じゃあどうやってトリックを考えていくのか? というと、まず犯人側と探偵(警察)側の手札がどんなモノなのか、それを知っていないとダメだと思う。
両者がとれる手段というか、どれだけのことが出来るかという範囲。
つまり、たとえばだけど『犯行現場に残された指紋を容疑者の指紋と照合する』という探偵側の手札。これを作者が知っているかどうかは大きな意味があると思う。もしこの手札を知らない作者が(犯罪系の)推理モノを書いたとしたら滅茶苦茶な内容になりますよね?
『犯人が現場に指紋を残しまくっているのに警察側がそれに気付かない』みたいな展開になってしまうと見てる側が『???』で違和感モリモリな変な作品になってしまうはず。
まぁ流石に今はドラマとか見てたら警察が指紋捜査をしていることぐらい多くの人が知っているだろうけど。
でも、
『じゃあ警察の捜査方法を全部把握してるのか?』
というと『う~ん……』ってなりません?
自信満々で書いたミステリーに「このトリックですけど、実際の警察だったら○○という手法で簡単に解決しますよ」みたいな指摘があってトリックが破綻したら小説崩壊で完全終了じゃないですか。
それを防ぐためには警察側の手札はちゃんとそれなりには把握してないといけないと。
ぶっちゃけ、WEB小説のミステリーを読んでると上記の問題にぶち当たってる作品が結構あったりするんですよね。
『血痕は拭き取ってもルミノール反応でバレる』
『通話履歴はスマホがなくても電話会社に残ってる』
『首吊り偽装殺人は吉川線でバレる』
『微量の体液からDNA鑑定でバレる』
等々、知っておかないとダメな要素って色々とあると思うのだけど、それを作者が知らないからなんか流れがおかしくて作品崩壊してる、みたいな。
それに公安とか外事とかSATとか、普通の警察より大きめの権限を与えられているらしい組織がどういう手段を使えるのか、という話もあると。
ドラマとかではそういう特殊な組織ってかなり荒っぽいアレな捜査も可能であるかのような描かれ方をしている場合があるけど、実際のところどうなんかな? ってね。
そして前に別のところで書いた、室内に盗聴器を仕掛けなくても盗聴可能な『レーザー盗聴器』とか、そういった一般人が普通は知らないような最新機器も、もしかしたら知られてないだけで捜査に実戦投入されているのかもしれないし。
でも、そういったモノを全て把握するのって今では難しいと思うんですよね。
今は科学技術も発展して様々な捜査手段も増えてるんだろうし。
後はインターネットが普及してからはサイバー捜査が重要になってきていると思うけど、今の時代、どれだけのことをWEBとか電子機器から警察は把握出来るのかって分からなくないですか? その分野にかなり精通してないと。
たとえば、犯人の携帯電話番号が特定出来たらそのGPS情報から犯人の居場所が分かるとか。そういうの、1つ知らないだけでトリック構築に致命的な問題が生じるはずなんですよね。
◆◆◆
で、ここでタイトルの話に戻るけど。
上記の問題を回避してミステリーを書くにはいくつかの方法があるんじゃないかと思うわけなんです。
①事件になるような作品にせず、警察を出さない
②警察が捜査しない展開
③警察が本格捜査する前に事件を解決
④時代背景を昭和に
⑤警察が来れない状況を作り出す
大体こんな感じかと思うんですよね。
①はそもそも警察が捜査をするような犯罪を作品のテーマとはせずに、もっとスケールの小さい謎を解くミステリーにする方法。
校内で起こったちょっとした事件を解決するとか、親兄弟とか友達間の問題を解決するとか。
それだと警察が関わらないのでそういった問題がまず起きない。
ライトミステリーと言われるような作品でしょうか。
②はホラーとかでよくある展開。
主人公は状況のおかしさに気付いているけど証拠がなくて警察が取り合ってくれなくて自分で捜査・解決することになる流れ。
『リング』とかも、主人公達が貞子の謎を調べて解き明かして、最後に井戸の中から貞子の遺体を見付けてやっと警察が動くみたいな感じだった。
そういう感じの展開。
③は名探偵コナンとかでよく見るような流れ。
ほとんどの場合、事件が起こって容疑者含めた関係者がまだ現場に残っている間にトリックを解いて犯人を明らかにしていると。
つまり、警察がどんな捜査手法を持っているとしても、それが表に出る前に主人公が素早く事件を解決してしまえば問題にならない。という感じ。
個人的には、名探偵コナンが最速で事件を解決している理由はここにあるんじゃないかと思うんですよね。
④は現代的な捜査が始まる前の時代の話にする方法。
1950年とかのまだDNA鑑定とかがない時代をベースにしたり。80年代とか90年代をベースにしてもインターネットがほとんど登場しないから書きやすいはず。
最近『刑事モース』という海外ドラマをAmazonで見てたけど、これも50~60年代ぐらいの世界がベースになっているので科学捜査的なモノが少なく、主人公が暗号を解読したり被害者や犯人の過去にフォーカスした謎解きになっていて、昔ながらのミステリー感があって面白いなと。
で、最後に⑤だけど。
⑤は警察が来れない場所で事件を起こす。
つまり陸の孤島や本当の孤島とか、山小屋とか謎の洋館だとかに主人公らが閉じ込められて事件が起こる的な感じのアレ。
そうなると警察の捜査を考慮せずにトリックと謎解きを構築しやすいと。
つまりタイトルの話の結論を言うと、金田一少年が毎回のように警察が来れない孤島(とか陸の孤島)の洋館とか――まぁ、そんな感じの半ば隔離された場所に閉じ込められるのは警察の現代的な捜査を考慮せずにトリックを構築出来ることが作者側の視点からは大きいからなんだろうな、と思うんですよね。
登場人物達を閉鎖空間に閉じ込めておければ、犯人側と探偵役の両者の手札が制限されてトリックを考えやすくなると。
最近、金田一少年の事件簿の続編で『金田一37歳の事件簿』ってのを読んだんです。
これって金田一少年の事件簿から20年後の話なんですけど、その初回の話が本家金田一少年の事件簿と同じくオペラ座館があった島での話で、またまたまたそこで事件が起こるってな設定(その島での話は何度かこすられてる)なんですが。面白いのが、本家ではオペラ座館の部屋にはアナログな『黒電話』が置いてあったんですけど、37歳の方では金田一が普通にスマホを持ってるんですよね。
本家では恐らく携帯電話も出てこない時代設定(連載開始が92年だからね)で、カメラとかビデオカメラも比較的珍しめな時代なため『佐木兄弟』というビデオを撮るための役割のキャラが出たりするぐらいなんですけど、37歳では犯人がスマホからBluetoothで接続したスピーカーを遠隔操作してアリバイ工作したりしてるんですよね。
逆に本家のオペラ座館の話では悲鳴が録音されたテープを流すことで殺害時間を錯覚させてアリバイ工作してるんだけど、それも時が経ってBluetoothやらでの遠隔操作が可能な今の時代になってくると、作者側の視点から考えると読者を上手く騙せるかが微妙で、トリックとして微妙な感じがしません?
そんな感じに考えていくと、トリック構築のために考慮に入れなければならない要素って仮に孤島に閉じ込めたとしてもやっぱり昔より凄く増えてる気がするんですよね。
◆◆◆
というのが、ちょっとミステリー書きたいなと思いつつ『やっぱ難しいわ……』と感じてしまってまだ世に出せてはない程度の僕の現時点での現代ミステリーに関する考察です。
でも、これを書きながら考えてみると、極スタも2巻ぐらいからミステリーっぽい要素というか、いくつかの情報から真実にたどり着くみたいなストーリー形式になってるなと感じてきた。
特に3巻と、まだ出てないけど5巻部分とかね。
個人的にはそこまでミステリーを意識したつもりはなかったのだけど、やっぱり好きなモノが自然と出てきてたのかもしれないですね。
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