早くしろっ!間に合わなくなっても知らんぞーっ!

先日、某人気ラーメン屋に行った。

普段は大人気であろうその店もコロナの影響で客足も遠のき、自分の他には客は1人だけで寂しい感じ。

そんな現状に少し驚きつつもラーメンを注文し、カウンター席で静かに待った。

店内にはボコボコという鍋の音と食器のカチャカチャという音が響いている。

店主は淡々と作業をしつつ、常連客であろう客と世間話を続けた。


「最近、どうです?」

「もうダメだね。食材価格が上がりすぎてる」

「小麦の先物もどんどん上がってますよね……」

「これ以上、小麦が上がったら廃業だね。この店も今年までになると思う」

「そうですか……」


目の前に置かれたラーメンをズゾーっとすすりながらそんな話を聞いていた僕は思ったわけですよ。


『空気、重たすぎんだろ……』


とね。

なんだかそんな空気に居づらさを感じて早く出ようと思い、ズルズルと急いでラーメンをかっこんでいき、カンっとどんぶりに箸を置いて言ってやりましたよ。


「すみません。替え玉1つ!」


とね。

そんな空気の中でも旨いモノは旨いんですよ……。


◆◆◆


とまぁそんなこんなで小麦の話をするけど。

日本の小麦ってそのほとんどが輸入で、輸入小麦はまず政府が外国から買い上げ、それを国内業者に売り渡す仕組みなんですよね。

そしてその国内価格は4月と10月に改定されるのだけど、基本的には過去6ヶ月の小麦価格とか輸送費などを総合的に判断して決めていると。

で、小麦価格はここ数年ずっと上がり続けているのだけど、この数ヶ月はもっと暴騰していて、その原因がウクライナ問題であると。

何故かと言うと、ウクライナ(とロシア)が世界有数の小麦の産地だから。

で、前回、日本の小麦価格が17%値上げに改定された4月は、どうやら去年の9月から今年の2月までの価格データを元に価格が決定されたらしいんです。それはつまりウクライナ戦争が2月24日からということから考えて『今の日本の小麦価格はウクライナ戦争で暴騰した分を織り込んでいない』わけなんですよ。

つまり、小麦の国内価格が本当に暴騰するのは今年の10月の価格改定からのはずで、ウクライナ戦争から小麦先物価格が3割ぐらい上がったことから考えると、本当の価格上昇が始まるのはどう考えてもこれからなんですよね。


で、もっと悪い話をすると、原油価格もずっと上昇し続けているので、輸送費やら全体的にコストは上がるはずなんです。

もっともっと悪い話として円安問題というモノがあって、今はガンガン円安が進んでいるので海外からの買取価格も大幅にアップしてしまう状況にあると。

そう考えると、10月からは小麦がありえない価格になることがほぼ確定的なんですよね。


なので凄く残念なのだけど『これ以上、上がったら廃業』と言っていたあの旨いラーメン屋さんは今年で本当に廃業になってしまう可能性がかなり高い。ということなんです。


◆◆◆


とまぁ、ここまでは小麦の話をしてきたけど、今の状況は小麦だけの話では終わらなくて。

最近は肥料不足から肥料の価格上昇が酷いとか、原油高騰で燃料価格も高騰して輸送費の高騰やハウス栽培に影響が出てるらしいとか、漁船のベースコストが上がってるとか。円安でそもそも海外からの食料輸入が難しくなってるとか。まぁ他にも色々とあるわけですよ。

小麦価格の上昇だけでなく、食べ物全般的に価格上昇がこれから来そうな状況が前に見えてる感じ。


となると企業は原材料高騰分を価格に転嫁していく……のだけど、日本って価格転嫁が難しい国というか、ここ20年ぐらい価格を据え置いて内容量を減らす所謂ステルス値上げが当たり前になっていた国だし、価格転嫁は難しいお国柄。

だからこそ上記のラーメン屋のように『原材料価格が高騰したら廃業』という方向性に向かってしまうわけで、人気ラーメン店ですら価格転嫁が難しいということなんだと思う。

それに、日本と中国以外の先進国ではワクチンが普及した段階で国民の消費行動がコロナ前に戻ってきているらしいが、日本の場合はニューノーマルというコロナ前とは別の新しい日常に変化してしまっている。

つまり必要以上の外出・外食は避けておこう、という空気感が全体的に薄っすらと残ったまま、という気がするのだ。

だからこそ、上記のラーメン屋は繁華街の一等地に店があるコロナ前の人気店でも、今は平日夜の書き入れ時なのに閑古鳥が鳴いているような状況になっているのではないかと。

つまり、ただでさえ閑古鳥が鳴いているのに価格転嫁なんかしても、そこから良い状況になるとは到底思えない。だから価格転嫁せざるを得ない状況になったら廃業、ということなんだろうと思う。


今のこの状況、かなりヤバいんじゃないかと個人的には思ってるわけですよ。

恐らくこの状況では今年中に廃業せざるを得なくなる飲食店が全国にかなり増えるのではないかと。

それこそコロナ禍の時より状況は悪くなる可能性はかなりあると思う。

特に個人営業の小さい店とか、ラーメンやうどん屋とかパン屋のように小麦を主に使っている店は今年の11月頃からは厳しくなるかもしれない。

良くて大幅値上げ。悪けりゃ廃業という感じ。


なので、一度は食べてみたかった店とか、近所にある安くて旨い店とか、有名なラーメン屋とかうどん屋とか、そういう店があるなら今年中、それも出来るだけ早い段階で食べに行っておいた方がいいかもしれない。ってな話なんです。

それも、食べ納めのつもりで味わっておくべき。少なくとも今の値段で食べられるのは今年が最後の可能性が高い。

それにそうやって足を運ぶことでその店がギリギリで持ち直すかもしれないしね。

とにかく間に合わなくなる前に行っておいた方がいいんじゃない?という話なんですよね。


◆◆◆


ぶっちゃけ、今回の原材料高の影響やコロナがなくても、似たような状況はこの10年ぐらいの間に訪れそうだとちょっと想像してたんですよね。

まず、インターネットなどで日本の情報が海外に拡散される機会が増加して、日本の和牛とか魚とか高級食材とかの需要が海外で高まっていて、価格がどんどん上昇しているらしい、という話があるんです。

今はまだブランド牛であっても、庶民でもちょっと無理して背伸びをすれば普通に食べられる程度の価格帯ではあるけど、これからどんどん一般層が背伸びしても届かないレベルになっていくだろう、という噂があったり。

後は、どの地域にもあると思うけど、老夫婦なんかが家族で経営している旨い店。店はボロボロだったりするけど、ありえないぐらい安くてめっちゃ旨い。そういう店、どこの地方にも1件ぐらいあるよね?

恐らくそういう店の多くって絶妙なバランスで成立しているだけで、長期的には存続出来ない形態なんじゃないか?と感じるんですよ。

以前そんな店を特集したドキュメンタリーがあったのだけど。店の利益はほとんど出てなくてもお店は持ち家で器具も減価償却が終わっていてほぼコストがかからないと。本人達も高齢だから店の建て直しや調理器具のアップデートも考えていないので、本来ならかかるはずのその分をコストとして計算されておらず。もっと言うと本人達の生活費も年金でまかなえるから給料も必要ないと。だから安くて旨い店が実現しているのだと。

そういった『下町の人情で持っている大衆食堂』のドキュメンタリーだったのだけど、やっぱり色々と考えさせられるモノがあったんですよね。


そういった店は元々、店主が働けなくなった段階で継続が不可能になるはずで、この先10年ぐらいの間にどんどん消えていくのだろうという予想はあったのだけど、今回の原材料高で一気に加速する感じがしてるんですよね。

もう、これからは人情では支えられないフェーズに入るのでは?と思うんです。


だからこそ、間に合わなくなる前に色々と食べておけよ!と、個人的には思っていたりするんですよね。

最初に書いたラーメン屋さんのように、もう二度と食べられない味が今年、いくつも生まれると思うので。

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