ドラマを見て人生がつまらなくなる瞬間という老化

(名前は出してませんが、一部、某ドラマのネタバレになる話があります)


昔、夕方にやっていた二時間ドラマの再放送が好きだった。

学校から帰ってきて、夕方四時頃からテレビをつけ、あのおどろおどろしいオープニングテーマを聞きながら『今日はどんなトリックなのかな?』と胸を躍らせる。

金田一、浅見光彦、火曜サスペンス劇場、時刻表トリック、山村美紗シリーズ。どれも懐かしい。

今でもまた見たいのだけど、アマプラでは配信してないんで見られないんですよね。


そんな感じのある日、あれは確か船越英一郎さんが出てた記憶があるので山村美紗シリーズのどれかだったような気がするのだけど。いつものようにオープニングで事件が起き、確か主人公が被害者の足取りを追う的な展開で、それはつまり二時間ドラマの序盤も序盤の頃だったと思うのだけど、主人公が立ち寄ったいくつかの聞き込み先の中の1つ、銀行の職員の顔に見覚えがあったんですよね。

その役柄としては本当にただの脇役A、店員Aという感じだったのだけど、それを演じていたのは二時間ドラマをよく見てる人なら見たことがある名脇役的な俳優さんなわけです。

そうして僕の頭の上にピコーン!と『!』が立ったわけですよ。


「……いや、お前、犯人やろ!?」


とね。

ストーリー的にはヒントはないけど俳優で犯人が分かってしまうという体験を、その日のその時に初めて経験したんですよね。

で、そのドラマを見続けた結果、案の定というかやっぱり当然のようにその銀行員が犯人と。

その瞬間の僕の気持ちは言うまでもなく、もう『うわぁ……やっぱそうか……』というモノで、なんかこう冷めちゃった感があるんです。


という話をどうして、こうやって書こうとしたのかと言うと……

さっきアマプラで推理モノのドラマを見てたんですよ。

で、そのドラマは1時間✕5本のドラマだったけど、ぶっちゃけた話、最初の1本目で犯人が大体想像出来ちゃったんですよね。

過去に誘拐事件があって生まれたばかりの男児が行方不明。それから20年後、脇役Aが家に帰って20歳ぐらいの息子と談笑する。そしてその息子は若手有名俳優……


「……いや、キミ、その誘拐された男児だよね!?」


とね。

これを書きながらもう一度見返してみたら、そこまでヒントになるような描写でもない気がしたし、そこを指摘するレビューもほぼないから僕が過剰に反応しただけかもしれないけど。

個人的には序盤の序盤に主人公ではない脇役Aの、しかもその子供にスポットライトを当てる展開が少々不自然に感じて、そのシーンにはストーリー的な意味があると考えてしまった。そうなるともう消去法的にその脇役の子供が誘拐された子供であるという展開を想像しちゃうんですよね。

当然、この時点ではまったく確信はないのだけど、この時点での大きな可能性として頭の中には残ってしまう。

で、それが頭の中に残った状態で考えると犯人は子供の親『脇役A』とその関係者になるはずで。

その前提でドラマの続きを見ていくと、本来なら視聴者に分からないように張り巡らされたのであろう伏線が際立って見えてしまうわけで、そうやって見ているとそのどれもが犯人が脇役Aの関係者であることを示していたと。

というか主人公も最後の謎解きの場面で「あなた(脇役A)を中心に考えると簡単に謎が解けました」的な話をしているんですよね。

このドラマは基本的には主人公の視点で事件を追っていくスタイルなので、主人公が得た事件に関する情報は全て視聴者にも共有されていて、だからこそ脇役Aの子供に不自然さを感じた段階で主人公より先に点と点が繋がってしまったんだと思います。


ただ言っておきたいのは、犯人が分かったからと言ってこのドラマがつまらなかったという話ではないんです。

つまり起承転結の『起』と『結』が最初に分かった状態でも中の『承転』分からないのでそんなドラマを見るのは楽しいし、そういう刑事コロンボ、あるいは古畑任三郎的な話も面白いでしょ?

なので最後まで楽しくドラマは見たのだけど、それとは別のベクトルで最初に展開が読めたつまらなさも感じるんです。


ここでやっとタイトルの話になるのだけど。

まず、別に、こういう話で『俺って犯人が序盤に分かっちゃって凄いんだぜ?』ってな話がしたいんじゃないんですよね。

こんなモノ、分かる方が損じゃないですか?

分からないからワクワクしながら続きを楽しみに見れるのでは?

最初に書いた二時間ドラマの話。あれが何故起きたかのかと言うと、僕が二時間ドラマを見すぎたせいで普通は目立たないはずの脇役俳優さんの顔を覚えちゃったことが問題だと思うんです。それがなければあのドラマもいつものように楽しく見れた。分からない方が良かったんですよね。

今回のドラマにしてもそうで、こういった推理モノを見すぎたせいか伏線の起きドコロが分かるようになってきたというか、そのシーンそのシーンの製作者側の意図を読み取っちゃうからこうなったと思うんです。

つまり、製作者側から考えてみると意味のないシーンは入れないはずなんですよね。

どんなシーンにも意味はあるはずなんです。

だって限られた時間内に作品をまとめる必要があるのだから、余計なシーンを入れる余裕はないはず。意味のないシーンが多いと思われている作品であっても製作者側にはそのシーンを入れた意図はあったはずだし意味もあったはず。それが視聴者に伝わったかは別として。

そう考えていくと、このドラマの序盤に脇役Aの子供を出した製作者側の意図はなにか。意味がないならそんなシーンは入れないはず。と、いう視点で見ているからこういうことになってしまう。

これって『経験』なんですよね。

経験を積むことで、過去の経験の中から似たような場面を思い出して先が予想出来てしまう。

よく歳を取ると感情の起伏が小さくなる的な話があるけど、そういう話だと思う。

色々と経験することで、どんなことでも先が読めるようになってきて動じなくなってくる的なね。

そしてどれも経験したモノばかりになって新しい経験をすることがなくなり、新鮮味がどんどん失われてく。


これぞ『老化』なんですよね。

あるいはそれを『成長』と呼ぶか。


好きなドラマであっても、色々な作品を見ていると様々なパターンを見尽くしていって、新しいモノを見ても次の展開が予想出来てしまうようになっていく。そして段々とつまらなくなっていき、やがて「○○のパクリ!」みたいな話をし始めると立派な老害の仲間入り。

そうはなりたくないので出来る限り新鮮な気分で見ようとは思うものの、やっぱりそれは難しい。

よく、大好きな名作を一度記憶を消去してもう一度見たい的な話をする人がいるけど、まさしくそういう話なんですよね。


楽しい経験をすればする程つまらなくなる。

まるでつまらない人生のために楽しい経験を積み上げているようなもの。

それが人生ってモノなんですかね。

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