小説に『○○ネタ』のコメディ要素を入れる時に気を付けるべき教訓を得た話【コメディ要素の書き方】
その昔、某所の某作品を読んでいた時の話。
その作品は凄く面白くてよく読んでいたのだけど、作品中にちょくちょく……いや、めちゃくちゃ頻繁に『○○ネタ』を挟んで来る傾向にあった。
それらの『ネタ』はほとんどがマイナーな分かりづらいネタで、僕も半分どころか2割も元ネタが分かってなかったと思う。
最初は自分が分かるネタを「なるほど、面白い」と思い、分からないネタを「これって何のネタなんだろ?」と思っていたのだけど、それをずっと読んでいて、そういうのが何度も何度も繰り返されてくると、分からないネタを「ウザったい」と感じるようになっていた。
そしてその「ウザったい」が積み重なった結果、その作品自体がウザったくなってきて読まなくなってしまったことがあったのだ。
この時の感覚を言葉にすると、
周囲は内輪ネタで盛り上がってるのに自分だけ分からなくてのけ者にされた気分とでも言うか。分からなくてストレスが積もっていった感じ。
それを最初はスルー出来てたけど、数が多すぎるとスルー出来なくなってきた感じだろうか。
その当時、その作品へのコメントを読んでいた感じでは同じような印象を持った読者は大勢いたようで、コメント欄でも似たようなニュアンスの指摘する声が多数あった。が、そういった指摘って『そう感じた原因』を読者が明確に認識してコメントしないと批判にしかならないというか単純な不満の表明にしかならないんですよね。だから作者には伝わらない。
結果的にその作品はどんどん先鋭化していったし、良くも悪くも読者が選別されていった。
それが良いか悪いかはともかく、人気を得るにはデメリットが多いんだろうなと。
まぁとにかく僕はこの件から、作中にネタを仕込む場合ネタの入れ方には慎重にならないと読者にストレスを与えてしまう可能性がある、ということを学んだんですよね。
◆◆◆
それでは『○○ネタ』について、説明しやすいように2パターンの例を作ってみる。
登場人物
山田太郎 日本人男性、主人公、営業マン
B子 女性、喫茶店の店員
【パターン1】
はぁ、疲れた。
午前は案件一本取れたし、今日のノルマはクリアだ。
「午後はどこかで少しサボってから帰るか……」
ノルマは達成してるんだ。問題ない。
この辺りは初めて来るエリアで土地勘がないが、大通り沿いに行けばなにかあるだろう。
暫く駅を目指して歩き、周囲を見渡すと小さな喫茶店を見付けた。
「ここでいいか」
見た目は古く、洋風な印象。あまり繁盛しているようには見えない。
出来れば有名チェーン店が良かったが、ないのだから仕方がない。
まぁ時間を潰せるならどこでもいい。
そう思いながら店のドアを開けた。
ドアベルがカランカランと鳴り、中から甘い匂いが漂ってくる。
「いらっしゃいませ。一名様でよろしいでしょうか?」
「あぁ」
出迎えたのは意外にも若い女性だった。
こんな寂れた古臭い喫茶店なんてもっと年寄りがやっているモノだと思っていたが。
そう感じ、彼女に少し興味を持った。
「こちらへどうぞ。メニューはこちらになります」
案内された窓際の席に座り、渡されたメニューをサラッと流し見る。
コーヒーがあることを確認し、すぐに注文しようとした時、なんとなく店に入ってきた時に香った甘い匂いを思い出す。
薄いメニューをパラパラと最後までめくってみると、最後のページに『本日のスイーツ』という文字が見えた。
店の中に漂う甘い香りに交じり、小麦の香りがするような気がする。
この『本日のスイーツ』は彼女がこの店で作っているのだろうか?
「これ、本日のスイーツとコーヒーで」
そう思うと柄にもなくスイーツが気になってしまい、気が付いたら注文していた。
まぁ……そういう日があってもいいさ。
今日はのんびりと甘いスイーツを食べながらゆっくりするとしよう。
「はい、コーヒーとスイーツですね――ところでお客様」
「ん?」
いきなり話しかけられて不思議に思う。
このタイミングで俺に話すようなことなんてあるのか?
「ドラえもんに似てますね」
「似とらんわ!」
そうして俺達は結婚した。
◆◆◆
はい。
ぶっちゃけ自分で説明するのも凄い憂鬱なんだけど、この文の『ネタ』で笑いどころはラストで女性店員がありえない話をするところ、ですよね?
読んでいると読者も『いや、似てるわけないだろ』的な脳内ツッコミとか『ドラえもんに似てるって主人公どんな人物やねん!』みたいな感じになりません?
上記のネタが面白いかどうかはちょっと横に置いといてもらって、その部分を審議してほしいんです。
これは誰にでも分かりやすく『ドラえもん』という馴染みのあるキャラクターで作ったパターン。
それが違うモノに変わったらどうなるか。
それでは、上記の話を踏まえて別のパターンで書いてみます。
◆◆◆
【パターン2】
はぁ、疲れた。
午前は案件一本取れたし、今日のノルマはクリアだ。
「午後はどこかで少しサボってから帰るか……」
ノルマは達成してるんだ。問題ない。
この辺りは初めて来るエリアで土地勘がないが、大通り沿いに行けばなにかあるだろう。
暫く駅を目指して歩き、周囲を見渡すと小さな喫茶店を見付けた。
「ここでいいか」
見た目は古く、洋風な印象。あまり繁盛しているようには見えない。
出来れば有名チェーン店が良かったが、ないのだから仕方がない。
まぁ時間を潰せるならどこでもいい。
そう思いながら店のドアを開けた。
ドアベルがカランカランと鳴り、中から甘い匂いが漂ってくる。
「いらっしゃいませ。一名様でよろしいでしょうか?」
「あぁ」
出迎えたのは意外にも若い女性だった。
こんな寂れた古臭い喫茶店なんてもっと年寄りがやっているモノだと思っていたが。
そう感じ、彼女に少し興味を持った。
「こちらへどうぞ。メニューはこちらになります」
案内された窓際の席に座り、渡されたメニューをサラッと流し見る。
コーヒーがあることを確認し、すぐに注文しようとした時、なんとなく店に入ってきた時に香った甘い匂いを思い出す。
薄いメニューをパラパラと最後までめくってみると、最後のページに『本日のスイーツ』という文字が見えた。
店の中に漂う甘い香りに交じり、小麦の香りがするような気がする。
この『本日のスイーツ』は彼女がこの店で作っているのだろうか?
「これ、本日のスイーツとコーヒーで」
そう思うと柄にもなくスイーツが気になってしまい、気が付いたら注文していた。
まぁ……そういう日があってもいいさ。
今日はのんびりと甘いスイーツを食べながらゆっくりするとしよう。
「はい、コーヒーとスイーツですね――ところでお客様」
「ん?」
いきなり話しかけられて不思議に思う。
このタイミングで俺に話すようなことなんてあるのか?
「クリンゴンに似てますね」
「似とらんわ!」
そうして俺達は結婚した。
◆◆◆
はい。
パターン2は最後の部分を変えただけなのですが。
これ、パターン1とくらべると、よく分からない感じになってません?
この場面の問題点は、これまで上で語った話から想像してもらえば分かると思うけど『クリンゴン』の部分。
つまり、この『クリンゴン』を読者が知っていれば、パターン1と同じく主人公と同じように『いや、似てるわけないだろ!』とか『クリンゴンに似てる主人公とか(笑)』的な脳内ツッコミを入れたはず。
で、それがシュールな笑いの要素になったはず。
(いや、なんか自分で言っててめっちゃ恥ずかしいけど……これはそういう例題だから……)
しかし『クリンゴン』を読者が知らなければどうだろうか?
恐らくこれを見てる人も知らない人の方が多いと思うのだけど。
知らないと『クリンゴンって誰?』という疑問と感情が脳内に先に来たのではないですか? そしてそのおかげで笑いの要素に繋がりにくかったのでは?
この場面の面白いポイントは『女性店員がいきなり突拍子もない話をする』という部分にあるはずで、読者がクリンゴンを知らないと『女性店員が突拍子もない話をしたのかどうかがまず分からない』ため、伝わらなくて混乱があるのではないかと。
こうなってしまうと、その『知らない』読者からすれば意味不明になるし、下手をすれば自分が分からない中で他の人は知ってて楽しんでいるような疎外感のある状況になってストレスを感じさせてしまう可能性もあるのではないかと思うんです。
これが、僕が最初に書いた話で気付いたことになります。
そしてこれを見てから色々と考えた結果、とにかくこの時点での結論としては『○○ネタを入れるなら読者に分かりやすいネタにしよう』ってのが自分の意見でした。
つまり上記の例題で言うなら『ドラえもん』のように比較的誰でも知っているモノを使ったネタにしておこうとね。
ちなみにクリンゴンとはスタートレックシリーズに出てくる戦闘民族宇宙人です。
分かった人、いたかな?
▲
でも、そうは言っても、
「俺はそんなポピュラーなネタなんて入れたくねぇんだよ! マイナーネタが好きなんだよ!」
そういう人っていますよね?
実は僕もそっち派の気があるんですよね……。
それじゃあどうすればいいのか?
考えたんですよ。
読者に『こネタっぽいけど分からない!』と思わせてしまうとストレスを与えてしまうかもしれない。
それは確実に作品にとってはマイナス。
でもマイナーなネタも入れたい。
で、考えついたのが、
『わかる人には分かるけど、分からない人には普通の文章』
という書き方なんですよね。
これなら、分かる人はクスッと来るけど、分からない人は自然に読み飛ばすだけになると。
自分でもそれが完全に上手く出来ているかは分からないけど、意識してそう書くようには努力しようと思って書いてるんですよね。
もう少し具体的に書くと、比較的ポピュラーなネタは特に気にせず表に出すような形で書くけど、マイナーなネタは出来るだけ隠すように知ってる人だけ気付くレベルに工夫して、薄めたり分かりにくく変えたりして書くようにしている感じですね。
という説明だけではちょっと分かりにくいと思います。
それでは実際に『極スタ』の中から具体例を抜き出してみます。
◆◆◆
【極スタ第38話】からの引用。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885201112/episodes/1177354054885304366
色々と考えて無難に身長と同じぐらいで、真っ直ぐなシンプルな鉄の槍にした。
何故かは分からないけど鉄の槍にしないといけないような気がしたのだ。これが僕の最強装備な気もしてくる。
そして僕は鉄の槍を手に入れた。
◆◆◆
この短い一文だけでは分かりにくいと思いますが。
(分かりにくいようでしたらリンク先から全体を読んでみてください)
このシーンは主人公が鍛冶屋で1つ好きなアイテムを貰えることになり、鉄の槍を選択したシーンです。
さて、この文章のどれがネタになっているのでしょうか?
そして、ネタ元が分からない人にはそれがネタだと気付きにくいように書けてないですか?
自分で言うのもなんですが。
このネタについて最初から解説していくと、まず、極スタの旧題は、
『サマル振りヒーラーの異世界冒険~神聖魔法が便利すぎて怖い~』
で、それを書籍化の段階で書籍化用の現在のタイトルにWEB版も変えたのですが、元々のタイトルの『サマル振り』ってのは比較的マイナーなMMO用語で『バランス振り』とか『バランス構成』を意味するモノで、この『サマル』というのは『サマルトリアの王子』の略なんですよね。
なのでやっぱり、サマルトリアの王子には、こういうタイトルにしたのもあって作者には少し思い入れがあったと。
で、次に、サマルトリアの王子というのはドラクエ2に出てくる仲間、というか主人公の一人なんですけど、戦士型のローレシアの王子と魔法使い型のムーンブルクの王女の中間に位置するような能力を持ったキャラクターで、本来なら前衛後衛どっちも出来て、しかも回復魔法も使える賢者系超万能型キャラで活躍するはずだったのでしょうが、勇者の血筋が凄いのか魔法使い型のムーンブルクの王女も何故か回復魔法を使え。肉弾戦に関してもローレシアの王子よりかなり性能が低くてダメージソースにもなりにくい。サマルは圧倒的使えない弱キャラ扱いされてたんですよね。
(それでも3人しかPTがいないので、いない方がマシとまではいかない。人数が1人減ると他の2人が被弾する確率が上がるので肉壁としてそこにいろ的な)
なので実質的に『サマル振り』というのは『使えないキャラ』という意味を含んだ蔑称の側面があったし。昔のRPGとか、特にMMORPGではこういう万能キャラとかパラメーターをバランス振りにしたキャラは秀でたものがなくてゲーム内では使えない傾向が強かったので、サマル振りとは『キャラクリの失敗』とか『中途半端』とか『MMORPGで嫌われるキャラ』とか器用貧乏的な存在につけられる名称になっていたのですが。
そのサマルトリアの王子がとにかく不遇で散々にいじられ、ネタキャラ扱いされ、開発から嫌われてたんじゃないかと噂される大きな理由の1つとして『最強装備が鉄の槍』ってのがあるんです。
そう、FC版の初代ドラクエ2のサマルトリアの王子は何故か装備出来る最強の武器が『鉄の槍』だったのです。
考えられますか? 勇者ロトの末裔で3人しかいないプレイヤーキャラクターの中の1人の主人公級キャラなのに最強装備が序盤の店売りの鉄の槍ですよ?
ありえないでしょ?
2でサマルの攻撃力が低い大本の原因がここにあるわけで。これのおかげで微妙なキャラクター扱いされてると言っても過言じゃないぐらい。
という前提があって『鉄の槍が最強装備』という上記の極スタの一文のネタになるわけです。
で、ドラクエ2を知っている人は『鉄の槍』と『最強装備』という2つの単語を見てピンっと来たはずです。そしてクスッと笑えると。
そしてそれを知らない人は『主人公がそう考えただけ』という風に普通に受け取り、普通に気付かずに読んで終わるだけ。
勿論、コメントを読む限りではこの文章のちょっと意味深な書き方に違和感を持ち、もっと深読みしている方もいて、それは凄くありがたいというか作者としては裏読み深読みを沢山していただける要素をいくつも入れているつもりなので、そういった考え方は大歓迎なのですが。この場面に関してはドラクエ2を知っている人が笑えて、知らない人は普通に読むだけ。というシーンと現時点では予定しています。
(もしかすると将来的には変わるかもしれないので、今はそう言っておきます)
そうして、
『わかる人には分かるけど、分からない人には普通の文章』
というネタ(笑いの要素)を作っているのですが。
最初に書いたように、この部分の書き方をこれ以上、主張しすぎるとネタ元を知らない読者が『なにかのネタっぽいけど、ネタ元が分からないからよく分からないから面白くない』と気付いてしまって問題が起きるかもしれない、と思うんですよね。
ここからもう少しでも、僕が「これはドラクエ2のサマルトリアの王子のネタですよ!」という主張を強めてしまうとネタに気付いてくれる人は増えるかもしれないけど、元ネタを知らない読者も分からないなりに『これはネタだろう』ということだけは気付いてしまうと。
そうなってしまうと、ネタ元が分かっていない読者がつまらなく感じてしまうかもしれない。
それを避けるため、こういうネタを入れる時は注意しながら出来るだけギリギリのラインを狙うように意識して書いています。
◆◆◆
これを書いている今になって思うのだけど。
そもそも、こういうネタって時代によって移り変わるというか、年代や性別とかによって面白い面白くないも変わると思うんですよね。
僕も昭和に流行った昔の芸人とか喜劇俳優の一発ギャグを見ても、なにがどう面白いのかサッパリ分からないモノとかあるし。
今までは自分的には『メジャーなネタはあまり気にせず書く』『マイナーなネタは慎重に書く』という感じのイメージで書いてたけど、そのラインも時代によって移り変わるのだとすると、メジャーのラインも移り変わるはず。だとすればメジャーなネタも慎重に書く必要があるのかな、ってちょっと思ったり。
それにしても、やっぱりこういう話を書くのって本当にしんどい。
『こうすれば面白くなりますよ』
なんて偉そうに語っても。
『いやそれ全然おもんないで(笑)』
って言われたらおしまいというかね……。
いやこれ、自分で書いててすんごい恥ずかしいというか、お笑い芸人が自分の一発ギャグの面白い部分について詳細に解説させられてるようなヤバさがあってですね。
ぶっちゃけこの話は去年に書いてたんだけど、ずっと書いてたら、
「イヤッ! やめてっ! そんな恥ずかしいところまで説明させないでっ!」
みたいな。
これはドS男優が出てるA○かな? ぐらいの羞恥心でグロッキーな気持ちになっちゃったので書くのを止めてお蔵入りにしてた話なんですよね~。
まぁそれはいいとして……。
こういう話を自分で説明するのってマジで本当にアレなんで……普通は作者側は語りたくない話なんだろうなと本当に思うんですよね。
だから表には出て来ない的な。
でもこういうちょっとした書き方のコツ的なモノって出て来ないだけで実際に存在してると思うし、上手く纏めたら良い創作論の本になるんじゃないか? と思ったりもするところです。
(創作論本の出版のお話、待ってるで!)
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