『関ヶ原』という映画がアマプラで☆2.8な理由についての解説と思うところ
最近、アマゾンプライムビデオで『関ヶ原』という映画を見る機会があった。
岡田准一主演、有村架純ヒロイン。関ヶ原へと進む豊臣家を石田三成の視点から描いた作品で、原作は司馬遼太郎先生。
これはたまたまアマゾンプライムのトップページで見付けて観ることにしたのだけど、観る前に気になったことがあった。
それは、Amazonでの評価が☆2.8点という、かなり低めの点数だったことだ。
しかし元々、戦国時代モノはかなり好きなので、点数は気になりつつも、とりあえず観てみることにした。
ちなみにネタバレを防止するため基本的にはレビューは事前に見ない方なので、悪評の理由もちょっと気になりつつも、レビューを読まずに再生ボタンをポチッと押す。
◆◆◆
さて、物語を見ていこう。
物語の始めは『秀次事件』から。
謀反の疑いをかけられた豊臣秀次が切腹させられ、その連座で豊臣秀次の妻子全員が斬首になることが決定する。
三条河原で彼女らが処刑されようとした時、駒姫の侍女・初芽(有村架純)が駒姫を助けようと処刑人に襲いかかる。が、失敗。初芽は石田三成(岡田准一)に取り押さえられる。
有村架純が美人すぎ。
石田三成は初芽を大谷刑部に任せ、処刑を見てヤジを浴びせていた島左近を追いかける。
なんやかんやで文句を言われつつも島左近を家臣として迎え、伊賀の忍者だった初芽も引き抜いた。
それから徳川家康が徐々に豊臣家譜代の家臣を取り込んでいくために策を弄する。
逆に石田三成は朝鮮出兵で活躍した武断派との対立が決定的になる。
そして遂に武断派の怒りが爆発して石田三成を襲撃しようとしたところを前田利家に止められる。
ちなみにこのシーン、どこかで見たことあるなと思ってたら撮影場所がうちの地元、姫路城横の好古園でちょっと驚き。
情報統制がしっかりしてるのか、姫路市民でもこういう撮影情報は流れてこないのだ。
それから前田利家死亡。と同時に石田三成襲撃計画が再燃。
石田三成は直江兼続と密談。上杉が北方で兵を挙げ、それを討伐するために徳川家康が北に向かったところで石田三成が大阪で挙兵し、徳川家康を挟み撃ちにする策で合意する。
そして徳川家康が東に向けて出発。
石田三成は安国寺恵瓊、大谷刑部と密談。毛利を総大将にすることで合意。
事が起こり、石田三成が大阪にいる各国の大名の妻子を人質に取ろうとするが、細川ガラシャが人質になることを拒否し、実質的に自害を選ぶ。そして家臣によって屋敷は爆破され、大阪が火の海になる。
各大名が関ヶ原に着陣していく。
吉川広家は大垣城には入らず、南宮山へ登る。
石田三成や安国寺恵瓊が大垣城へ入るように説得をしようとするも、聞く耳を持たない。
そして総大将の毛利輝元も石田三成の再三に渡る出陣要請を無視して大阪城にこもる。
徳川家康が関ヶ原に到着。
上杉景勝が足止めに遭い、北からの挟み撃ちが出来ないという知らせが石田三成に届き、石田三成がうなだれる。
徳川家康側についた大名が多く、石田三成が驚く。
徳川家康は本気で戦闘をする用意のある西軍が少数と見て関ヶ原に進軍。
西軍では島津義弘が夜襲を進言するが、石田三成が「東西の大決戦に夜討ちとは後世の笑いものになる」として却下。関ヶ原で正面から雌雄を決することに。
関ヶ原、開戦。
序盤は石田三成の西軍が優勢に進めるが、毛利や島津が動かず。
そして色々とあった後、小早川秀秋が大谷刑部隊に攻撃を仕掛けたことによって形勢が東軍に傾き、徳川家康が全軍総攻撃をかけ、西軍の敗北が決定する。
石田三成は捕まり、安国寺恵瓊らと共に処刑されるところでエンドロール。
間に少々ラブロマンスもあるけど省略。
◆◆◆
といった感じで物語は終わったのだけど、個人的には面白い作品だと思った。
戦国時代モノが好きという贔屓目もあるけど。
合戦で槍隊が槍を上から叩きつける描写があったり、北政所等の女性陣が平安貴族みたいな白粉にお歯黒、おでこ眉毛でガチ感出してこだわってたのもいい。
ただ、所々セリフがかぶっていたり、叫んでいたりして言っていることが聞き取れないシーンがあり、日本のドラマによくある舞台とかミュージカルみたいなわざとらしい演技とは違っていて、それはそれで良かったのだけど。単純に聞き取れないので意味が把握出来ず、それは少し問題だと感じた。
それにちょっと不親切というか分かりにくいと思うシーンもあった。
これを描くぐらいならアレを掘った方がいいんじゃ?と思う場面が多いとも思った。
しかしそれでも流石に☆2.8は低すぎでは?
そこまで酷評されるような作品か?
と、色々と考えつつ、答え合わせではないけど気になっていたアマプラのレビューを読んでみることにしたのだ。
で、ざっと読んでみた感じ、不評の理由は『意味が分からない』というモノ。
『役者がなにを言っているのか分からない』
これは少し感じたので同意。
そして、
『登場人物が誰なのか分からない』
『歴史を知らないと、なにがどうなっているのか分からない』
と見ていって「なるほど』とやっと評価が低い理由に納得がいった。
よくよく考えながら振り返ってみると、僕がこの映画を見ている時は、自分の頭の中で歴史的知識を使い色々と補完しながら見ていたわ、と。
要するに、知識がないとよく分からない作品だったのだ。
◆◆◆
それでは歴史の知識がない状態を想定しつつ、解説を入れながら映画を振り返ってみよう。
物語の最初は『秀次事件』から。
実はまずここが重要な伏線になっていたはずなのだ。
(伏線1)
謀反の疑いをかけられた関白豊臣秀次が切腹させられ、その妻子が処刑される。
映画では一瞬しか出てこないけど、その中にいた『駒姫』がキーになる。
有村架純演じる初芽が仕える最上家の姫で、彼女が救い出そうとしたのが駒姫だ。
駒姫は絶世の美少女だったといわれ、それを知った豊臣秀次が何度も催促して側室に迎え入れたが。駒姫は両親から非常に可愛がれていて、最上義光は渋々嫁に出したらしい。
しかしその駒姫が京都に到着して一息ついたその時に豊臣秀次が切腹させられ、祝言すらあげていない駒姫も連座で処刑された。
まだ結婚前なのに連座はおかしい、と最上義光が有力大名と共に嘆願書を出したが間に合わず、処刑。しかも、その遺体の引取も許されず、三条河原に埋められた。
劇中でも駒姫と豊臣秀次の妻子が穴に落とされるシーンがある。
(こういう細かい部分がこの映画の良いところかも)
これを知った最上義光は嘆き悲しみ、母親はすぐに後を追ったという。この時代一・二を争う悲劇といわれている事件がこれなのだ。
しかし劇中ではこのあたりの細かい話がすっぽり抜けてしまっていて、後の伏線回収時に回収しきれていない。
それから徳川家康が徐々に豊臣家譜代の家臣を取り込んでいくために策を弄する。
逆に石田三成は朝鮮出兵で活躍した武断派との対立が決定的になる。
この部分。
当時の豊臣政権では武断派――武功で成り上がってきた一派と、文治派――内政などの政務を行って実績を積んできた一派で派閥が出来ていて、石田三成や大谷刑部は文治派。
歴史では朝鮮出兵時の武断派の功績を石田三成など文治派が低く見積もったり悪評を流すなどして両者の分裂が決定的になったとか。
徳川家康はその分裂を上手く利用し、武断派を取り込むことに成功し、天下を奪う足掛かりとした。
しかしこの映画は石田三成を主人公とした作品なので、石田三成を悪く描けない。
そのためか、石田三成が加藤清正ら武断派に対して嫌がらせをした的な描写が乏しく、分裂が決定的になった経緯が見えにくく、歴史の知識がなければ「あれっ?なんかいきなり石田三成さんめっちゃ恨まれてんぞ?」という感じになる気がする。
そして遂に武断派の怒りが爆発して石田三成を襲撃しようとしたところを前田利家に止められる。
このシーンとその前後のシーン。ここでは『前田利家』とは書いたけど劇中では『大納言』という呼び名であり、最初に一度だけ『前田利家』とはテロップが出るが、多くの人が、誰だっけ?この人、となる気がする。
前田利家だけでなく、例えば黒田長政が『甲州』徳川家康が『内府』小早川秀秋が『金吾中納言』等々、呼び方が時代背景に合わせてあるので誰が誰か分からない。
とあるシーンで内府が、金吾中納言が何故東軍に加勢しないのか甲州に聞きに行かせるが、こここそ本当に『いやお前、誰だよ』状態になった。
事が起こり、石田三成が大阪にいる各国の大名の妻子を人質に取ろうとするが、細川ガラシャが人質になることを拒否し、実質的な自害を選ぶ。そして家臣によって屋敷は爆破。
石田三成は各大名の親族を人質にとる作戦を取りやめる。
(伏線2)
この場面ではまず火災のシーンから始まり、消火しようとする島左近と急いで大阪城に戻ろうと走る石田三成が映る。石田三成は大阪城に入り、人質政策が誤りであったとして奉行を呼び出し取りやめる。
ここで亡くなる細川ガラシャとは明智光秀の娘で細川忠興の正妻。
細川ガラシャは絶世の美女として知られており、細川忠興は溺愛していたという。
細川忠興の愛の深さは偏執的で、庭師がガラシャと話しているのを見ただけで庭師を斬り殺したとかなんとか。
その彼女を人質に取れば細川忠興は西軍に加わるだろうと石田三成は考えていたらしいが、細川ガラシャは死を選んだ。
上杉景勝が北の地で足止めに遭い、北からの挟み撃ちが出来ないという知らせが石田三成に届く。
(伏線1の回収ポイント)
石田三成と上杉家の直江兼続が密談。上杉と石田三成で徳川家康を挟み撃ちにする作戦が決定したが、しかし関ヶ原では上杉軍の直江兼続が足止めを食らい、挟み撃ちに失敗した。
では何故、上杉が西に軍を進められなかったのかと言うと、それは最上義光が直江兼続を全力で足止めしていたからだ。
最上義光は序盤の秀次事件で処刑された駒姫の父。
最上義光は駒姫事件の後、豊臣秀吉への不信感が増大し徳川家康へ急接近する。
結果的に関ヶ原では最初から東軍入りを決め、圧倒的不利な状況でも西軍の上杉家とも戦う道を選ぶことになった――とも言われている。
要するにここは最初に起こった秀次事件からの流れが活きる場面なのだ。
が、その伏線も浅く、この回収ポイントでもサラッと『上杉軍が最上に足止めされてる』という情報が出てくるのみなので、どうしてそうなっているのか、よっぽどこの時代の歴史に詳しくないと見えにくい。
序盤に秀次事件を大々的に描くなら、ここをちゃんと回収しないのはもったいない。
徳川家康は本気で戦闘をする用意のある西軍が少数と見て関ヶ原に進軍。
この場面は、西軍最大勢力であった毛利軍が動かないと判断して進軍した、という話なんだろうけど、劇中その毛利勢は山を登った後から出番がない。
劇中では出てこないので、歴史の知識がないとよく分からない感じになっている。
せめて『宰相殿の空弁当』の話ぐらいあれば……。
関ヶ原、開戦。
(伏線2の回収ポイント)
関ヶ原の合戦で石田三成の石田隊とぶつかったのは黒田長政。と、歴史では細川忠興らしい。
でも劇中では黒田長政に焦点が当たっていて、細川忠興は出てこない。
が、伏線2にあるように、細川ガラシャが石田三成によって死亡したことで細川忠興は激怒し、石田三成と西軍への恨み辛みが増大して石田隊への猛攻撃を加えたことは想像に難くない。
ここはフラグとフラグの回収場所としては綺麗に出来ていたはずの場所で、石田三成の失敗により西軍の敗戦に繋がったと要因の1つとして物語的には上手く機能したはず。
細川ガラシャの話を出すなら、その敵討ちとしての細川忠興の奮戦まで描いておけばもっと分かりやすくて面白かったろうな、と思うところ。
◆◆◆
と、まぁ関ヶ原の合戦時における各大名の立場とか状況とかをある程度、知っていれば脳内で補完して楽しめると思うけど、学校で習った歴史の範囲ぐらいの知識しかないとイマイチよく分からない感がある気はする。
例えば、島津義弘が進言した夜襲を石田三成が却下したことで腹を立てた島津軍が合戦が始まっても動かず、石田三成の出陣要請を無視し続けた。という流れは劇中で綺麗にフラグとその回収が出来ていて、石田三成の失策によって西軍が負けた要因の1つとして上手く機能している。
こんな感じにフラグとその回収を上手く描けば分かりやすかったのでは?とは思うけど。よくよく考えてみなくても、この作品の主人公は石田三成なわけで、その主人公の失敗を何度も描いて見せていくというのは娯楽作品としてはダメな気もちょっとしてきた。
それはそれで読者に『つまらない』と思われて失敗するような気もする。
たぶん、自分が小説として書くなら、そういった展開はかなり慎重に選ばないといけないと感じるだろうし、最終的にそういう流れを書くことは避けてしまう気がする。
なのでやっぱり敗者である石田三成を主人公として描くのは物語的には難しいのかもしれない、と文章を書きながら色々と考えていて最後に思った。
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