物語を作る難しさ――『これは後に○○と呼ばれる男の物語である』を使っちゃいけないと思う理由

『これは後に剣聖と呼ばれる男の物語である』


というような一文が、例えば小説の中であったとすると、この物語の主人公――『男』は上記文章が出てくる時点では剣聖など程遠い存在だけど将来的に剣聖と呼ばれるぐらいに成長&大出世することになる、ということが見えるし。この文章がある時点では男の物語はまだまだ序盤頃だと想像出来るだろう。


これのどこが問題なのかと言うと――

『物語の終着点を明示してしまうと、読者が先の展開を想像出来てしまう』

ということだ。


例えばこの『男』に錬金術師の才能があったとして、『男』の幼馴染の女の子の父親でもある錬金術師の親方から「娘と結婚してうちの店を継がないか?」と打診され、『男』は悩んだ。という展開になったとしよう。

読者は『男は剣聖になる』という未来を知っているため『男』が錬金術師になることはないと予想出来てしまうし。逆にその予想を裏切って『男』が幼馴染と結婚して錬金術師になるという選択にしたとしても『男は剣聖になる』という未来は決まっているので、いずれ『男』は錬金術師を辞める展開になるのが濃厚だし、そうなると幼馴染とは離婚したり、錬金術師の親方との関係が悪化したり等の暗い展開になるのが想像出来てしまう。

勿論、それ以外の可能性は大いにあるし、『男』が錬金術師をやりながら剣聖になる展開もあるだろうけど、WEB小説の場合は特に、読者にこういう無駄にネガティブな想像をさせるのはブラウザバックに繋がるのでよくないし。

『読者が想像出来てしまう暗い未来』が合っているか外れているか、その答え合わせが行われるまでの期間が長くなればなるほど読者のフラストレーションが積み重なっていくはず。


これは『これは後に剣聖と呼ばれる男の物語である』という文章があるから起こる問題で、そんな明示がなければ簡単に回避出来る話だし。なければ上記の展開であったとしても読者は『次の展開はどうなるのだろう』と、その瞬間まではただ楽しみに見ていられる。

この『男』の未来がどうなるのか読者はまだ知らないからだ。


ここまで書いてきて、それを読み返してみて、例としてファンタジー世界を出したのは失敗だったかとちょっと思ってしまった。

ファンタジー作品の場合、ルールとか物理法則に縛られないことが多いので、例えばチートハーレム系主人公なら上記の展開ぐらいぶち壊して問題なく進みそうだしね……


まぁとにかく、こういう書き方はちゃんとその効果を理解して書かないと想像してもいない効果を読者に与えることがあるので注意しないといけない、ということ。


某人気恋愛漫画では最初に未来のヒロインのウエディングドレス姿とそれを懐かしく語る『男』が描かれていたが、これも似たような演出だと思うし、これは要するに『これは後にヒロインと結婚する男の物語である』という感じの明示なのだけど。

これに関しては物語の主題が『このウエディングドレス姿の女性(ヒロイン)は誰なのか』という部分にあり、最初の部分は謎掛けで、それを解いていく過程を楽しむ物語だから成立しているのだと思われる。


まぁ恐らく、未来が分かったうえで、未来と今の2つの点、2つの情報を軸にして上手く過程を楽しませるギミックがないとこの表現は失敗するはずだ。

それが思いつかないのなら安易にこの表現は使うべきではないと考える。

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