NTR大人気問題から考える、創作物における『視点』の重要さ
最近、いくつかの調査結果などを紹介する記事を見ていて『某業界』ではNTRが『人気ジャンル』のぶっちぎりトップになっていると知った。
しかしながらNTRというジャンル設定には大きな問題があり、ある意味で不正行為のような状態で不当に順位が嵩上げされていると思うのだ。
NTRとは『寝取られ』の略称。
カップルの片方を第三者が横から奪っていくストーリー展開の総称だと思う。
よくある王道NTR展開では、男女の仲の良いカップル男性Aと女性Bがいて、その女性Bを第三者である男性Cが奪っていく流れだろうか。
しかしよくあるこの展開は、実は大きく分けると3つの別のジャンルに分割する事が可能なのだ。
それはこの3つ。
①寝取られ
②流され
③寝取り
解説しよう。
まず①の『寝取られ』はそのまま。
好きな人を第三者に取られてしまう展開。
上記の王道NTR展開でいうと男性A視点になる。
②の『流され』は、
好きな人がいるのに第三者に言い寄られ、流されて付いていってしまう展開。
上記の王道NTR展開でいうと女性B視点になる。
そして③の『寝取り』は、
カップルになってる2人の片方に言い寄って奪っていく展開。
上記の王道NTR展開でいうと男性C視点になる。
よくNTRについて解説しているモノを見ると、NTRを『寝取られ』と『寝取り』の2ジャンルに分割にしているモノが多いけど、個人的にはNTRは上記3ジャンルの3分割が正しいと思っている。
というのも、上記王道NTR展開はストーリーは完全に同じでも登場人物3人のどの視点から見るかで読者の印象がまったく違ってしまい、内容的には別物になってしまうからだ。
具体的に言うと、
①は、自分の好きだった相手がいつの間にか別の人を好きになっていて、完全に落とされてしまい、後からそれを知って悔しさと絶望感にまみれるのが主軸の話になる。
②は、好きな相手がいたけど別の魅力的な相手を知ってしまい、心がそちらへ移っていってしまう心理模様が主軸の話になる。
③は、パートナーがいる相手を強引にでも自分のモノにする支配欲や征服欲、優越感などを主軸にした話になる。
これらは起こっている出来事はまったく同じだけど、視点の違いで読み手の感じ方がまったく違うのでストーリーが別物になってしまい、人によって好きなモノが完全に分かれてしまうのだ。
つまりNTRとは完全なる別物の3つのジャンルを統合して1つのジャンルとして扱ってしまっているため、①②③のそれぞれを好きな人が全てNTRに投票してしまい、人気投票では上位に上がりやすくなっているのだと考える。
なのでNTRはジャンルとしては分割すべきだ。
NTRというジャンルの面白いところは、NTRジャンルに必須である『寝取られ役』『流され役』『寝取り役』の三者の誰の視点で書いた話にも需要があって人気があるというところ。
だからどういう描き方をしても『そのジャンルにおける地雷』にはならず、NTRを読みたがる人の誰かには刺さるので書きやすいのかもしれない。
◆◆◆
この視点の話は、実は創作ではかなり重要だと思っていて。
それを考慮し忘れると面白いストーリーでもとんでもない駄作になる可能性があると思っている。
例えば、ギャグ要素のある作品に出てくる『お笑い担当要員』など。
水戸黄門でいえば『うっかり八兵衛』みたいな立ち位置のキャラ。
彼らは『うっかりミス』や『調子に乗った行動』をとり、その結果、酷い目に遭ったり怒られたりしてギャフンと言わされ、それが笑いになる。
或いは、特に悪いことはしていないのに理不尽に酷い目に遭うパターンもある。
しかしこれは第三者目線(俯瞰視点・神の視点。三人称視点)や主人公目線で語られるから笑えるのであって、この『お笑い担当要員』視点でそれを語ってしまうと完全に笑えない、場合によっては不快な話になってしまったりするのだ。
それでは例としてお話を書いてみる。
ここではNTRを主題として書いてきたので、NTRの導入部分みたいな設定でいこうと思う。
【登場人物】
A男 高校生。B子と付き合っている
B子 高校生。A男と付き合っている
C男 A男の友人。B子が好き。AとBが付き合っていることを知らない。
【パターン1 A男視点】
春。桜並木の道をB子と歩いている。
B子とは家が隣同士で幼馴染。子供の頃からずっと一緒に過ごしてきて、そして中学校の卒業式に告白。見事OKを貰い、今は付き合っている。
「高校も一緒だね」
B子はそう言って笑顔を見せた。
中学時代、同じ高校に行けるように二人で必死に勉強したのだ。
「うん。これからもよろしくね!」
俺はそう言いながらB子と手をつないた。
B子は少し恥ずかしがりながら、握り返してきた。
「おーい! 待ってくれよ~」
後ろからC男の声がする。
C男は俺達と小学校、中学校が同じ、所謂腐れ縁ってヤツだ。
振り返ってC男を待っていると、C男はゼイゼイと息を切らしながらB子の足元に盛大にズッコケた。
「えっ!?」
「ちょ! ちょっと! 見たでしょ!」
B子がスカートを押さえながら後ずさり、C男を蹴り飛ばした。
「おおっふ!」
C男は変な声を出しながらゴロゴロと横に回転していき壁にぶつかって止まる。
C男は悪いヤツじゃないけど、少しそそっかしいところがある。
「わざとじゃないって! マジで! マジで!」
「お前……なにもない場所で転ぶってどうなんだ? まぁいいけど……B子も抑えて抑えて」
「……もういい」
B子をなだめようとすると、彼女はそう言って一人でズンズンと先に進んでいった。
「あ! ちょっと待ってって! ほら、C男も行くぞ!」
そう言いながら俺はB子を追いかけた。
【パターン2 C男視点】
春。学校に行こうとしたら目覚まし時計が壊れていて寝坊した。
今日はツイてない。
急いで支度をして家を出て、全力ダッシュでA男との待ち合わせ場所に向かったが、そこには誰もいない。
そのまま待ち合わせ場所を超えても走り続けて角を右に左にと曲がったところでA男とB子を見付けた。
「おーい! 待ってくれよ~」
そう叫ぶと二人は俺に気付いたのか、こちらを振り返る。
その二人の手は繋がれていて――
「えっ!?」
その画の衝撃と、走り続けて疲れていた足のせいか、B子の足元に転んでしまう。
「ちょ! ちょっと! 見たでしょ!」
顔を上げるとB子の蹴りが飛んできていた。
それを避ける時間もなく、真正面から受けてしまい「おおっふ!」という意味不明な叫び声あげながら壁に激突した。
本気で痛い。
今日はツイてない。
「わざとじゃないって! マジで! マジで!」
急いで弁明するが、B子は俺を疑っているような目で見ているし、A男は呆れたような目で俺を見ていた。
「お前……なにもない場所で転ぶってどうなんだ? まぁいいけど……B子も抑えて抑えて」
「……もういい」
「あ! ちょっと待ってって! ほら、C男も行くぞ!」
B子が怒りながら去っていき、それをA男が追いかけていった。
遠くの方でA男がB子を捕まえ、手を握るのが見えた。
俺はそれをただ呆然を見ているだけ。
「今日はツイてない」
気が付くとなんとなく、そう呟いていた。
といった感じに同じ場面を別の視点から書いてみましたと。
ストーリー的には同じだけど受ける印象はまったく違っているはず。
要するに、水戸黄門のうっかり八兵衛で言うと、うっかりしてミスしまくる八兵衛を水戸黄門視点、或いは助さん格さん視点で叱る話は笑えるけど、八兵衛視点で黄門様に叱られまくる話にしてしまうと、それは主人公が失敗して怒られる展開になってしまうので同じストーリーでも笑えないという話。
作品を作る場合、ここを考慮しないと読者が作者の意図とはまったく別の方向に受け取ってしまう可能性があるので注意が必要だと思う。
今まで数多くのWEB小説を読んできたけど、この視点を適切に指定出来ずに作者の意図したイメージと読者が受け取ったイメージが逆に振れてしまって破綻した作品を何度も見た。
ぶっちゃけ本当に偉そうな話をするけど。こういった作品が本当に惜しいのは、恐らくその作者は『何故それが読者に酷評され批判されるのかが理解出来ない』のでは?と思うところ。
つまり、視点を間違えたことで全てが破綻しているけど、作品のストーリーラインは間違ってないから作者が破綻に気付かない感じだと思う。
個人的に覚えてるパターンでいうと、『主人公が理不尽な目に遭い続ける系の話』だろうか。
この手の内容を主人公の一人称で書いてしまうと、ただ主人公が理不尽に責められる話になってしまい、そこに感情移入して見ている読者はサンドバッグになってボコボコに殴られる主人公の立場から見てしまうのでただただストレスフルになってしまう。
これは上記の『うっかり八兵衛系』の話と同じで、八兵衛目線で叱られるとストレスが溜まるけど、横から八兵衛が叱られてるシーンを見ると面白い。このパターンだと思う。
これらは恐らく三人称視点などで主人公から目線を離して書かないとダメなんだろう、というのが個人的な見解。
と、偉そうに書いてきたけど、僕もこのミスがたまにあって、後で気付いたり教えてもらったりして焦ることがあるので、あまり人のことは言えないわけですが……。
この視点の話って小説だけでなく漫画や映像作品でも似たようなモノはあるんだろうと感じるし、それらの作者さんもそういうのをちゃんと計算してカメラワークとか考えてるのだと思うと、やっぱり作品作りってどこも大変なんだろうなぁ……と感じるところです。
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