平成という時代

 4月30日、午後になり、平成も数時間で終わるところまで来て、『平成』について何か残しておきたくなり、カクヨムを開き。アセロラ味のガムを噛みつつ人工甘味料でカロリー控えめに入れた熱々のホットレモンティーをすする。

 しかし平成について語るにしても、それもまた難しい話だ。

 何について語るべきなのかもよく分からないし、語るには30年は長すぎるし、専門的な話をするにしてもそこまでの知識がない。

 これは困った、という感じではあるけど、思いつくままに駄文を並べていこうかなと思う。


 平成の始まりはバブルの好景気からだった。

 金が溢れ、日本全体が浮ついている時代。日本最高の時。

 その平成元年、スレイヤーズが発売される。

 ある意味でラノベ元年と言えるのかもしれない。

 しかしそんなバブル期も平成に入ってすぐ終了。バブル崩壊。

 出版業界に関して言えばピークは96年なので、バブル崩壊後もまだ伸びていた事になる。

 95年にWindows95が発売され、それによってPCとインターネットが一般化してきた事を考えると出版業界の衰退はバブル崩壊よりもPCの普及が原因ではないだろうかと思う。

 その後、99年にはiモードがスタートし、携帯電話で限定的なインターネットが可能になる。

 これで移動中も本や雑誌ではなく携帯電話をポチポチといじる人が増えた。

 元々、本や雑誌は通勤通学の暇つぶしに読んでいる人が多かったので、これは大打撃だったはずだ。


 この頃の日本は、はっきり言って暗かった。

 就職氷河期。失業率の悪化。政治への不信。

 閉塞感が物凄かったし、未来をポジティブに考えている人がほぼいなかった時代。

 この頃に小泉純一郎や堀江貴文など、既存の仕組みをぶち壊す人間が台頭してきたのは偶然ではないと言える。

 それぐらいこの頃の状況は酷かったのだ。

 景気が悪いから仕事がなく、仕事がないから別の道を見付けようとしても、その道が何も見えない時代。

 今みたいにクラウドファンディングで起業なんてなかったし、普通の仕事が無理ならYouTuberとかプロゲーマーを目指すような選択肢もなかった。

 目の前の未来に広がるのは真っ暗な空間。


 あの当時、誰もが中学生ぐらいで将来を意識し始め、高校生の頃には将来の方向性を決めた。

 目指すルートは大体4つ。

 一流企業か国家資格かアスリートか芸術関係。

 当時の一般的な日本人が日本で良い人生を送るために選べる将来の方向性は大体こんなもので、後はコネとか家業でいくつか追加されるぐらい。

 このレールから脱落した人間には逆転のチャンスはまず残されていなかった。

 しかし多くの人が中学生、高校生ぐらいで気付いてしまうのだ。

 自分には一流大学に入ったり国家資格を取れる頭はないし、アスリートになれる身体能力もないし、特別な創造力や容姿もない、と。

 一流企業には就職出来ないし、国家資格も取れないし、アスリートにもなれないし、芸術家にもなれない、と。

 そして自分の未来が見えてしまう。

 このまま適当な大学に進み、適当な企業に就職して、企業の歯車として普通に勤め上げて一生を終える。それが自分に可能な最良の未来だと。

 まだこれが好景気の頃はいい。誰でも真面目に働いていればそれなりにお金は回ってきたのだから。だが不景気の状態では未来への希望なんて何もない。

 このまま進んでも自分には明るい未来はない。

 レールが可視化された世界ではそれが分かってしまう。

 しかし進むしかない。生きるなら。

 それがあの頃の若者であり。あの頃の閉塞感であり。あの頃の絶望だった。


 あの時代に小泉純一郎がウケたのは、そんな日本にした政治をぶっ壊してくれる期待感があったからだし。堀江貴文がウケたのも、そんなエリートが乗るべきレールすらぶっ壊して自分の力で新しい道を切り開いてのし上がったからだ。

 今から考えても「そりゃウケるわ」と思う。


 エンタメ関連で言うと、95年に庵野秀明監督によるエヴァンゲリオンが世に出て衝撃を与えた。

 これは当時のアニメファンにも衝撃だったらしいが、それ以上にアニメ業界にとっても衝撃だったらしい。

 岡田斗司夫や宇野常寛、谷口悟朗。彼らの話を総合すると、それまでアニメを流して関連玩具で稼ぐ――つまり玩具を売るための存在という位置付けをされがちだったアニメが、エヴァンゲリオンが作品の芸術性やストーリーを評価され円盤が売れて成功したため、業界全体がストーリー性や芸術性を重視した作品を作るように変わっていった感じだろうか。

 個人的にはこの時代に芸術性に寄りすぎたせいで、その反動として日常系が流行ったのかな? という気もする。


 小説の話をすると、平成に小説投稿サイトが作られた事にも言及しておきたい。

 今から数年前、小説投稿サイトで初めて小説を読んだ時は衝撃を受けた。

 あの衝撃は忘れられない。

 それを端的に説明すると、『こういう作品を作ってもいいんだ』という衝撃。

 これは小説投稿サイト登場以前の作品に慣れ親しんでいないと分からないかもしれない。

 恐らく、今人気の新文芸を書いている人も、それを好んで読んでいる人も、小説投稿サイトでこの衝撃を受けた人に違いないと思う。

 不幸だと思うのは、若い頃から小説投稿サイトから生まれた新文芸に触れた世代。

 我々が新文芸を面白いと感じるまでのステップを踏まずにダイレクトに新文芸に触れた場合、その面白さがまったく理解出来ないかもしれない。

 それはそれで何も問題ないかもしれないけど、そういう人が小説投稿サイトに小説を投稿しようとした場合、自分達の好みの作品を小説投稿サイトに投稿してもまったく評価されない状態になるのでは? と思う。


 今の新文芸の面白さとは、『新文芸までの作品』がベースにあるのだから。


 カタカタとキーボードを叩いていたら眠ってしまって令和になってしまった。

 こういうモノは平成の間に上げなきゃ意味がないような気がして全文廃棄しようかと思ったけど、もったいないから続けるとする。

 しかし、いつも優秀なGoogle日本語入力で『令和』の予測変換が出ない事に今気付いた。

 Google日本語入力ってアップデートした記憶ないけど、どのタイミングでどうやってアップデートされてるのだろうか?というどうでもいい疑問が湧いてくるけど、まぁそれはいいとして。


 よく飲み屋では政治と宗教と野球については語るなと言われているけど、インターネットでも似たようなモノで、その3つは人によって考え方が違うしどれが正解とかない話でもあるから、やっちゃうと意見が対立して場が荒れるから止めとけという話なんだけども。

 作家などがTwitterとかでその話をしないのも似たようなモノで、そのあたりの主事主張を発信しても基本的にプラスには働かず、「この作品の作者はああいう思想」と言われて作品にマイナスの影響があるから自重するのだ。

 しかしそれが分かっているのに政治などの話がひょっこり顔を出す時は、それが『賛否両論ある話』だと気付いていないのだろうと思う。要するに自分は偏った話をしているつもりはないのに外から見たら偏っているパターン。

 そういう場面こそ、その人の素の考え方が出るんだけど、まぁそれはどうでもいいが。

 しかしそういう自重の空気が平成の世を悪くした原因の1つであると思う。

 宗教はともかく政治についても語るのはタブーという空気が政治に対する理解を遅らせたし、政治に対する無関心を生んだ。

 政治家が選挙期間になるとゴテゴテした車に乗り、ウグイス嬢に自分の名前を連呼させるのは、彼らは日本人は政治など理解していないと知っているからだ。

 細かい政策について語っても誰も理解しない。我々日本人が選挙で一票を投じる時の判断基準第一位はまず間違いなく『名前を知っている事』で、だから政治家は自分の名前を連呼する。

 そりゃタレントが担がれて選挙に出るはずだ。タレントは最初から名前が知られているのだから話が早い。


 なんて話をこうやって書く事もリスキーな行動なのだ。

 これを書いて自分の作品のファンが増える事なんてほぼないだろう。

 むしろ『偉そうな事を言いやがって』と思われるだけ。

 特に得はない。だから自重するべき。

 ……はぁ、なんてつまらない、くだらない世の中なんだ。

 しかしそれが平成という時代だし、それでも平成という時代の最後にここまで来れたとも言える。これが昭和なら飲み屋ですら語れてないのだから。令和の時代には、もう一歩、先に進んでくれたらと思う。


 日が昇り、朝日が眩しい。

 しかしキーボードを打つ手が止まらない。

 こんなものを書いている暇があるなら小説書けや、ってな話ではあるけど止まらない。


 インターネットという文明の利器を手に入れた事で我々はいつでも自由に情報を発信出来るようになり、バカッターのような事例も増えたけど能力のある人が正当に評価されやすくなった。

 そう、今は能力がある人が報われやすくなった。

 起業家にしてもそうだし、アーティストは特に。

 これまではメディアしか持っていなかった情報発信手段を誰もが得られる時代になって、プレイヤーが市場に直接問う事が出来るようになった。『僕が作った(作りたい)これはどうですか?』と。

 我々、新文芸作家はそのありがたみを噛みしめているはずだ。


 と、書いている内に昼になり、なんだかどうでもよくなってきたのでそろそろ締めたいと思う。

 思えば自分自身の平成も、そんな感じの適当な人生だった気がする。

 令和はもう少し真っ当に生きていきたいものだ。

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