小説を一冊分仕上げる、という事
「そろそろ、新しい小説を書いてみたいな」
なんて事をふと思いつき、それじゃあやりますか! と、体を動かそうとして、そこで考える。
今から新しい小説を書くだって?
おいおい、お前は馬鹿か? 今でさえいっぱいいっぱいなのに、どうやってそんなものを書くんだ? どこにそんな余裕があるんだ? どこにそんな時間があるんだ?
自分の中のもう一人の冷静な自分が勢いよく突っ込みを入れた。
「い、いや、だって、書こうと考えてた話は他にもあるしさ……というか、何かのコンテストに応募する用の小説を一本は用意しときたいし……。タイミング悪くてカクヨムコンにサマル振りヒーラーをエントリー出来なかった時点で、使える弾が何もないじゃない……」
ほとんどの小説大賞は一〇万文字から一五万文字程度の『完結した小説』が対象だ。つまり連載中のサマル振りヒーラーはほとんどの賞には応募出来ない。
サマルの第一章が終わったら無理にでも完結状態にして、スニーカー大賞にでもぶちこんでやろうかという考えが何度か頭をよぎった事もあったけど、それはどう考えても悪手だろう。せっかく応援してくれてた読者を裏切る事にもなりかねないし、それで受賞を逃せばカウンターダブルパンチの一撃役満で終了だ。
何故こういうルールがあるかと言うと。諸説あるが、出版社側は一冊の中で読者を納得させられる作品を求めているからだと思う。
何巻も読まないと面白さが理解出来ないような作品をただの新人が書いたとしても、読者を納得させられるような要素が何もない。つまり売れない、という事になる。売れない作品は必要ないのだ。
いいか? 冷静に考えてみろよ。お前は一日に何文字書けるんだ? 良い日で六〇〇〇文字程度が限界だろ。平均取れば三〇〇〇文字以下だ。仮に一日三〇〇〇文字ペースで順調に書けたとしても、一冊分を書くならどう計算しても一ヶ月以上かかる事になる。さらに言うと、これは全てが問題なく上手くいった場合の計算だ。実際は作品設定やプロットやら色々作るのにも時間がかかるし、途中で問題点は必ず出てくる。それに連載中の小説も既にあるから新作にばかり構っているわけにもいかないんだぞ。
「……」
そして手が止まる。
仮に連載中の小説を止めて新作に全力を注ぎ、全てが上手く行っても一ヶ月以上。
連載中の小説の更新頻度を半分にしたとしても三ヶ月近くかかる。
このまま一日一回更新を続けながら少しずつ作っていったら半年以上はかかりそうだ。
目の前にあった『書きたい! 書けそう!』という気持ちが『いや無理だわこれ。無理ゲーだよ!』という気持ちに変わっていく。
「……まぁ、現時点で読んでもらえる作品があるのに贅沢な事は考えるべきではないのかも」
そう考えながら、画面に表示されている小説ネタ帳をスッと消した。
そしてソファーに寝転がる。
「書くのって大変だわ……」
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