執筆中の話
★本来のサマル51話と書かない方がいい話
若干のネタバレがあるので、「サマル振りヒーラー」を読まれている方は先に51話を読んでからの方がいいかもしれません。
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【閑話】ダレン・ウォーラー
「ランクフルト周辺でのモンスターの増加か」
冒険者ギルド、ランクフルト支部ギルドマスター、ダレン・ウォーラーは部下から上げられた報告書を読んで「うぅむ……」と唸った。
ここ数週間、ランクフルトの冒険者ギルドに所属する冒険者からモンスターが増加したとの報告が相次いだため、彼は部下に影響の調査を指示していた。そして先程、その結果が上がってきたのだが、内容が何とも言えない物だったのだ。
………………
…………
……
カタカタとキーボードを叩いていた指を止めた。
「……」
そして後ろに倒れ込み、ソファーに体を預ける。
サマル振りヒーラーの五一話目を作成している最中、とある可能性に気がついてしまったのだ。
「う~ん……。この話って……必要か?」
そう言い、そして暫く考え込む。
「いや違うな。……この話って書かない方がいいんじゃないのか? だな」
サマル振りヒーラーの五一話は、異世界に来て、それまで割と普通に冒険者として生活していた主人公が大規模なモンスターの暴走に巻き込まれる話。その最初のプロローグ的な話をこの五一話では書く予定にしていた。
そして書いていたのは『【閑話】ダレン・ウォーラー』。
これは、主人公が拠点にしているランクフルトの町の冒険者ギルドのギルドマスター、ダレン・ウォーラーの視点から、モンスター暴走の予兆が見えた頃から実際に暴走が発生するまでの期間、冒険者ギルドと領主が何を行い、どういう考え方で行動したのかを見せる話にする予定だった。
しかし……。
「主人公が知ることがない重要情報を読者が知る事は良い事なんだろうか? ……これは悩むなぁ」
小説や映画、何でもそうだけど、主人公が直接知る事のない情報を別のキャラクターの視点から語らせるのはよくある表現方法で、何も珍しくはないし、それ自体は別に何も悪い事ではない。はずだ。
「でも、一人称視点の話で、主人公が少しずつ色々な出来事に触れて、体験して、世界を知って、それに対してアクションを起こしていく姿を楽しんでもらう事を中心に考えて書いているのに、主人公が知らない裏側の話を見せてしまっても、読者はそれを面白いと思ってくれるのだろうか?」
元々、私は主人公目線で語られる、主人公に感情移入して見るお話において、主人公以外の視点で重要情報が語られる展開が嫌いだ。
要するに『フフフ……奴は四天王の中でも最弱』的な展開とか。主人公が倒した敵、あるいは解決した問題などが、巨悪の一部でしかなく、今後主人公はもっと大きな悪い展開に巻き込まれますよ、みたいな事を別視点から示唆してくる流れだ。
主人公は何も気付いてないけど、裏では主人公を取り巻く環境がどんどん変わっていて~みたいな流れ。
主人公が誰かの手の中で踊っているような、主人公がただ翻弄されているだけのような感じで好きではない。
なのに今、書いている話もそういう話になるのではないか。という気がした。
「もしそうなってるなら、嫌だな……」
こういう物は、客観的に第三者の目線で見ると目につくが、得てして書いている本人は気付かない。
意識して何度も見返したり、時間を置いて確認しないと気付けないのだ。
「うーん……」
もう一度、最初から読んでいく。
そしてもう一度、読む。
もう一度。
もう一度。
「うん。やっぱりボツにしよう。全部ボツだ。これはないほうがいい。そう決めた」
やっぱり読者視点で面白くない、余計な情報にしかならないように感じた。
じゃあそれはいいとして、この話のかわりに出す、モンスターの暴走が始まる最初の書き出しの部分はどう書くべきか。
第一案だった冒険者ギルドのギルドマスターの話はボツになった。
第二案は普通に主人公目線で話が始まる展開。
第三案はモンスターが暴走し始める地点での、神の視点の話。
第四案は町の住人がモンスターの大群を発見する話。
第二案はストレートすぎてちょっと面白みに欠ける。せっかく第一章のフィナーレを飾る話にする予定なのに芸がないな。どうせならもうちょっと直前に盛り上げておきたい。
第三案は……これは第一案と同じだよね? 余計な情報でしかない気がする。却下。
「となると第四案になるけど……」
でもこれは割とありそうなベタな展開な気がしないでもない……。
ソファーをゴロゴロと転がり、目をつぶって考える。
「うーん……。じゃあタイトルと話の前半を普通の日常話っぽく装って、読者をミスリードしつつ、最後でこの閑話の主役キャラがモンスターの大群を発見して急展開にする。……感じでどうだろうか?」
いいかもしれない。
じゃあとりあえず、登場人物の名前は某キャラの名前を適当に入れ替えて……。
そして――
そうして話が組み上がり、夜が更けて行く。
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