★別のエールを飲んでみよう
★この話は『深夜、コンビニ、探訪録』第13話『★そしてエールを探しに行く』からつながる話です。
★次に直接つながるのは『深夜、コンビニ、探訪録』第14話『最初のエールがもう一度、飲みたい』になります。
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という事で、昨日に続き今日もエールを買ってきた。
買ってきたのは『よなよなエール』『水曜日のネコ』『インドの青鬼』この三つだ。
……えっ? 『東京ブラック』はどうしたって? 全部制覇するんじゃなかったのかって?
そ、そんなものあったかなぁ? ちょっと記憶にないなぁ……。
……いや、何と言いますかね。東京ブラックって所謂、黒ビール、らしいんですよ。元々、エールってホップが入ってなかったりする苦味の少ないビールの事だし、これはエールではないんじゃないか? とか思っちゃって。
それに元々の趣旨は、エールについて調べる事で中世ファンタジーにおける一般的なエールについてしっかり考察して把握しておきたいってところだし。黒ビールとか変わり種のビールについては別にいいかなって……。
まぁぶっちゃけ高すぎて買うの諦めただけなんですけど。
だって一缶で三八八円とかほんと殺しにきてるし。
こんなの、こんな機会でもなきゃ飲まないっすわ……。
いや飲めないっすわ……。
一通りの言い訳も終え、改めてパッケージを見てみる。
しっかりとよく見てみると、何となく見た記憶が……。
「……いやこれ年末に親戚の家で飲んだやつだ」
よく見たらどの缶も見覚えあった。
味に関しては……よく覚えてないな。
覚えてないと言うより、確か、既に何本も空けた後に飲んで、イマイチ味がわからなかったような記憶がある。
「うーん……なんだかなぁ」
あの時にちゃんと味を覚えときゃよかったか……。
覚えてたらこんな高いの三本も買わなくてよかった。
まぁあの時はエールとラガーの違いさえ理解してなかったし、このエールについても、ちょっとパッケージが変わったビールだな、ぐらいの認識だった。
「過ぎた事は仕方がない。とりあえず飲んでみよう」
まず最初に、このシリーズで一番スタンダードらしい『よなよなエール』の缶を開ける。
ちなみに、この『よなよなエール』というのは、長野県にある『よなよなのの里』という名のエールビール専門の醸造所が作ったエールで、コンビニに置かれていた事からも分かるように、最近では割と全国的に一般化してきているビールらしい。
エールビール専門の醸造所が作ってるなら、やっぱり『東京ブラック』もエールビールなんじゃねーか! ほら、買ってきて飲めよ。というツッコミは受け付けない。
よなよなエールをトプトプとグラスに注いで、そのグラスをテーブルライトの下へと持っていく。
「色は……普通ぐらい? かな」
次にグラスを持って匂いを確かめる。
「匂いは……んん? あーこれは全然違うわ。レモン? みたいな柑橘系の香りがする」
それから軽く口に含んでみる。
しばらく味わってからゴクリと飲み干し、鼻から息を抜いて風味を確かめる。
「んー……これは何と言えばいいのだろうか」
味としては、ほのかな苦味と麦の味で、一般的に知られているラガーに比べるとかなり飲みやすい。
が、ぶっちゃけて言うと……風味がスポーツドリンクのソレだった。
もう一度、口に含んでゆっくりと味わってみる。
「うーん。一度スポドリだと感じてしまうと、それにしか感じなくなるな」
よなよなの里の公式サイトから、よなよなエールのページを見てみる。
「えぇっと……カスケード特有のグレープフルーツやレモンのようなホップ香がフレッシュに香る、と」
なるほどね。
何となく理由が想像出来て、一応『スポーツドリンク グレープフルーツ』でググってみると、某大手飲料メーカーが公式サイトで『スポドリにグレープフルーツの香料を使っている』と書いているのを見つけた。
つまりスポーツドリンクっぽく感じるのはグレープフルーツの香りなんだろう。
そう理解して、もう一度、口に含んで確かめてみる。
「……理解するとグレープフルーツに感じるな。人間の味覚って面白い」
全体的な評価としては、ほのかな苦味と柑橘系のフルーティな風味、そしてしっかりした麦の味。
全体のバランスが良くて飲みやすいエールだと感じた。
◆◆◆
よなよなエールを飲みきり、次に取り出したのは『水曜日のネコ』という名のエールだ。
缶を開け、グラスへと注ぎ、グラスをテーブルライトの下へと置く。
「色は……薄いな。うん、明らかに他のより薄い」
大体、緑茶ぐらいか。
ホワイトエールと呼ばれるだけはあるのかもしれない。
グラスを持ち上げ、ゆっくりと匂いを確かめる。
「匂いは……ミント? んー……何かのハーブっぽいけど、なんだろ」
ミントのようにも感じるけど違う感じもする。何かのハーブっぽい系統の匂いなのは間違いない。
少し口に含んでみる。
ゆっくりと口の中で転がして、飲み込んでから息を吐く。
「苦味はよなよなエールより少ない? でもプレモルのエールの方が苦味はマイルドだな」
パッケージデザインとかホワイトエールという名前から癖のない味を想像してたけど、癖はよなよなエールよりも強い気がする。
が、飲みにくいという感じではなく、何とも表現しにくい。
もう一度、口に含んで、口の中で転がし、そしてゴクリと飲み込む。
「んーこれは独特な風味があるな」
鼻に抜ける時に花の香りがするような気もするが、ぶどうのような風味も感じる。
もう一口、飲んでみる。
とにかく味が複雑すぎて、ちょっと飲んだだけでは味を捉えきれない。
「……やっぱりよくわからないな」
何かのハーブのような香りがするのは分かる。それが薬っぽくもあるし、喩えが悪いかもしれないがコーラのような風味にも感じた。
この風味をどこかで感じたような気もするけど、それが何だか思い出せない。
公式サイトで水曜日のネコのページを開く。
「えぇっと……青リンゴを思わせる香りとオレンジの皮の香り……オレンジピールとコリアンダーシードで風味付けしてんのか」
確かコリアンダーはパクチーの事だけど、コリアンダーシードの味はイマイチ分からない。
コリアンダーシードについて検索してみる。
「えぇっと、カレーには欠かせないスパイスで、パクチーのような変なクセもなく万人受けしやすい。柑橘系の香りもする、と」
へー、という事は知らず知らずの内に食べてる事は食べてるんだ。
でもカレー食べたからって、カレーの味からコリアンダーシードの味を探し出すのは難しいな。
うーん……。
総評としては、予想以上にクセがある、という感じか。
公式サイトでは女性にもおすすめと書いてあるけど、これは好き嫌い分かれる味だと思う。
自分はちょっと苦手な味。
水曜日のネコを飲みきり、次のエールを開ける。
次は『インドの青鬼』だ。
◆◆◆
インドの青鬼をグラスに注ぎ、匂いを嗅いでみる。
「んんんっ!?」
これは……これは……なんだこれ?
何かの草? のような匂いと鉄のような匂いが強烈に鼻を襲う。
「ヤベェぞ……。これはヤバい。絶対ヤベェよ……」
恐る恐る、口に含んでみる。
「んん!?……っ!!!!!!!!」
その瞬間、口の中に強烈な苦味が広がり、口中を支配した。
「なんっだこれ! 苦すぎだろ!」
ビールは苦いもんだが、これはそんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わった……。いやマジで。
日本で一般的な普通のラガーを飲んでいて感じる苦味は、炭酸の刺激とかで増幅されたスッキリとした苦味だが、この苦味は単純に普通に味として苦い。
昔、母親が作った丸焦げのハンバーグよりも圧倒的に苦い。
もし、食べ物として何かがこの味で出てきたら、口に入れた瞬間、躊躇なく確実に吐き出す自信があるほど。
恐る恐る、もう一度、口に含んでみる。
「……うん、やっぱり苦い」
ぶっちゃけ、もう本日三本目のエールで、若干、嗅覚味覚は鈍ってきてるけど、それでも苦味だけは特出していてはっきりとしている。
もう一口、飲む。
ちびりちびりと口をつける。
苦すぎてまったく進まない。
「味を確かめるために今日は出来る限りつまみを食べないようにしてたけど、これはちょっと無理」
チリ味のポテトチップスの袋をガサガサと漁り、バリバリとかじっていく。
そしてエールで流し込む。
「んー……つまみがあればいけるか。いや、割と濃い味のつまみとなら合うかも」
前回、親戚の家で飲んでた時は、ビール数本に、日本酒、焼酎、ウイスキーと、色々飲んだ後、最後の方に飲んだ記憶があるから、よく味がわからなかった。
あの時に気付いてれば話のネタにでもなったのに。少し残念に感じる。
公式サイトからインドの青鬼の紹介ページを開く。
「インドの青鬼は苦味が強烈な個性派ビールです、と」
分かってる。分かっているんだ。
それは嫌というほど味わった。
「インドの青鬼はインディアペールエールというスタイルのビールで、ホップの苦味とコクが特徴……」
英国によるインド統治時代。インドの水が悪くて飲めないために本土からエールを輸送して飲水の代わりにしようとしたけど、通常のビールでは冷蔵庫のない当時の輸送には耐えられず、保存性を上げるためにアルコールを高めてホップの量を増やしたのがインディアペールエールの始まり。らしい。
「へー、だからインドの青鬼という名前なのか」
インドの青鬼という名前を見て最初に考えたのは「何でインド? インドとエールって関係あるか?」という疑問だったから、何かスッキリした気分。
さて、インドの青鬼について考える。
元々、私は日本で一般的なスッキリとした喉越しのラガー、特にドライ系はあまり好きではなかった。
今回、エールを色々と飲んでみて、ラガーよりエールの方が美味しいと思ったし、エールならもっと飲んでみたいなとは思ったけど、このインドの青鬼はちょっと無理かもしれない。あまりにも直球で苦すぎた。
ただ、もう一度、飲んでみたいかもしれない。
次はもっと美味しく飲めるような気もする。
そんな予感がするエールだった。
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