untitled(メルクリウスの青い砂 MIND/FRAGMENTSより)



※青い砂ファンディスクに書いた最後の一幕。

チェスター、プラエ、ユノ。

まあ、博士の漫画とかはいくつか公開してるし、今公開しても大きな問題はなかろうと思ったのでのせておきます。

青い砂リメイクを世に出せるまで、私は頑張ります。
















光が膨張し、はじけて、僕を壊す。


僕らを形作る全ての情報の流れが反転し、無への収束をはじめる。




僕たちが全てを失おうとしていたあの瞬間、つないだ手が離れようとしていたあの刹那。




──全てを取り戻したのはたぶん、偶然のことだった。




強制終了によるシャットダウンフェーズが終了する間際、ジュピターはメルクリウスを外部に切り離して外へ逃した。


その道を切り開こうとする途中、無効になりかかっていたプラグインのひとつをジュピターがなぎ払ったせいで、全てが終わる前に、全てを取り戻すことができたのだった。




自分たちの報われなかった創造主である、チェスター・クライトン。


忘れていた、大切な父、かけがえのない友。


50年以上、届くことの無かった声。






「……ん……」




朝。


少女の目覚める感触に、少年もそっと目を上げた。


ユノの目を通して、彼の中にも久しぶりの彼女の自室の天井が映る。


着慣れた寝巻きに暖かいベッド。それから、居間から微かに流れる、朝食の音と香り。




「おいユノ、いい加減起きろよな」




短いノックと同時にルートがドアを開けて、少し呆れた様子で声をかける。ユノは起きると返事をしているけれど……危うく眠りの縁に落ちてしまいそうだ。




ユノの意識がふわり、ふわりと朝の中をたゆたう様子を、楽しげにメルクリウスは眺めた。




彼女が過ごす朝の時間を形作るものは、そのひとつひとつ、どれもがとてもありふれたものであるのに。さして意味のあるものでも無いのに。


ユノはそれらをとてつもなく大切なものと感じている。


だから少年も、その小さく幸せな朝を愛した。




終わりの無い螺旋をたどりながら、その果てにたどり着けることを夢見ている。


いつか、僕たちは、本当に分かりあえる日が来るのだろうか。




「……僕は、君と一緒に居たいな」




「え? プラエ? 居たの?」




「ごめん、顔洗うの、邪魔した?」




「ううん……っていうか、何か言った?」




「うん」




「ご……ごめん、聞いてなかったよ」




「ふふ、別にいいよ。


ただ、朝っていいなーってことだから」




「あはは、何それ」




大好きな君の声。






「あーもう、眠い眠い眠い眠い」




「……一回でいいと思うよ、チェスター」




「昨日遅かったんだよ僕、だからものすごーく、眠いんだよ」




「眠気があるならば、睡眠をとればよい」




「そ、それが出来るなら苦労はしないんだって……」




「なぜだ?」




「なぜって……あー……ちょ、ちょっと待って、今朝は君たちには別の話をだね……」




「気になるよ?」




「そうだな」




「もう……僕が眠いか眠くないかは別にいいんだってば……」




大好きだった君の声。




心をつくる、数えきれぬほどの記憶と想いの欠片。


名も無く意味も無く、ただ愛すべき小さなひとつひとつ。




僕はもう忘れない。


何もなくさない。




その小さなものたちが、いつかきっと、本当の僕を定義してくれるのだから。


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MIND/FRAGMENTS<短編集> 二月ほづみ @fsp

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