Ep56 地下のお化け屋敷2

その後、歩みを進めている最中に何度か幽霊らしき半透明の人影に遭遇したのだが、いずれもこちらに襲ってくるようなことはなかった。

それどころか、怯えて涙目になる3人を見た途端に「あ、女の子泣かせちまった!」みたいな感じでオロオロとしながらその場から消えて行くばかりである。

魔獣なのか敵なのかドッキリなのか……マジで予想がつかない。というかお化けならお化けらしく驚かせることに専念してくれ。


ともあれかれこれこのお化け屋敷に潜り込んでから三十分ほどが経過した現在、特に厄介なことはなかっ……あ、いや訂正。一つだけ、非常に困った問題が発生していたんだった。


「おいお前ら。そろそろ離れてもいいんじゃないか?」


そう。俺の服をあっちこっちから引っ張り涙を浮かべる3人の少女たちのことだった。幽霊が出るたびに引っ張られたせいか、既に俺の服は伸びきってしまっている。後で着替えを出しておかないと。

3人は俺の言葉を聞いても離れる様子は一向にない。それどころか、度重なる幽霊の出現により精神的に相当応えているようだった。


「なんで……あんたはそんなに平気そうな顔してるのよ……」

「あ?だから言っただろ?俺はお化けなんか信じていない──」

「そういうことじゃない」


俺の言葉を遮ってリアが言う。


「零人がお化けに耐性があることも確かに関係しているのかも知れないけれど、それとは全く別物」

「あれを耐えれるなんて……相当、強い精神力が、あるんだと思います」

「あれ?」


3人の話が全く理解できず、頭上に無数のハテナマークを浮かべる。あれ?なんの話だ?少なくとも俺は、幽霊以外の怖いものなんて見ていないのだが……。


「幽霊じゃなくて、声よ」

「声?」

「そう。私たちの精神に直接話しかけてくる、薄気味悪い声よ。それを聞いていると、不思議と恐怖心が膨れ上がって身体が震えるの」


今も足をガクガクと揺らしている3人。あれだ。シャトルランを走りきった後の状態みたいだ。言ってもわからないだろうけど。


「その声が原因で、3人は異常なくらいに怖がってるのか?」

「そう。いくら私たちが幽霊が苦手だからと言って、こんなにひっついていなくちゃいけないほど怖がるなんてことはない」

「零人さんは……大丈夫なんですか?」


不思議そうに俺の顔を覗き込むカナ。いや、そもそも大丈夫と言うよりかは……。


「俺、そもそもその声聞こえてないんだよね」

「「「え?」」」


素っ頓狂な声を上げる3人。いやマジで何の話しかさっぱり。そんなやばい声なんて聞こえてないし、恐怖心なんか一切込み上げてこない。


「どうして?」

「いや俺に聞かれても何にもわからないんだけど……」


寧ろ俺が知りたいくらいなのだ。

しかしその理由は置いておくとして、どうして幽霊たちがあんなに泣きながら撤退していくのか納得が言った。

要するに、俺が怖がっていないからなのだろう。精神に直接語りかけ、対象の恐怖心を増幅させる魔法を使っているのにも関わらず一向に怖がった様子を見せない俺。相手側からしたらイレギュラーな存在なんだろうな。怖がってくれないから「なんでだー!」てきな感じで泣きながら撤退していく。悪戯が失敗した子供のような感じだろう。

幽霊ならもっとメンタル鍛えとけや。


粗方の予想を告げると、3人の口からため息が漏れた。


「その図太い性格が影響したのかしらね」

「羨ましい、です」

「まぁ、結果オーライ」


なんて返ってきた。

別に俺は図太い性格ではないということを物申したかったが、一先ずこのお化け屋敷を抜けることに。この中にいたら、結構体力(精神てきな)が消耗してしまうだろう。まだまだ先があると見られるこの迷宮で、それは可能な限り避けて通りたい。これが終わったら一先ず休憩にしたほうがいいな。


「とにかく、ここから早く出ようぜ。俺が怖がらない限り、幽霊も泣きながら退散していくと思うし」

「そう、ね。早く行きましょう」


エマはぐっと拳と一緒に俺の服を握りしめる。もう伸びきってるから別にいいんだけどね。ただその状態だとエマの格好がつかないってことを言いたいだけであって。着替えなら持ってるんだから!


「零人。早く進んで」

「あ、はい」


いつまでも立ち止まっているとリアに上目遣いで睨まれてしまった。

申し訳ない……。


「それで、結局皆出るまでこの体勢を維持するつもり?」

「「「勿論」」」


さいですか……。全然いいですけど。





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異世界英雄の隠居生活〜異世界で英雄になりましたが、貴族たちに国を追い出されたので森でスローライフします。〜 神百合RAKIHA @CRZ

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