Ep55 地下のお化け屋敷

あのクソみたいな土竜叩きエリアを抜けて俺たちが進んだ先は、歩いてきた通路よりも更に暗い不気味な部屋だった。入り口にはご丁寧なことに『あなたは今宵、恐怖する』と書かれた表札のようなものが掛けられていた。安くてクオリティの低いお化け屋敷のようだな。


「今度はどんな試練が待ってるのかしらね」

「嫌な予感がする……」


リアが嫌そうな顔を作る。まぁそれも仕方ないことだろう。先ほど理不尽な土竜叩きをプレイしてきたばかりなのだから。


「まぁ、なんだ。多分大丈夫だろ。流石にさっきみたいにイラつかせてくるようなもんじゃない」

「だといいんだけどね」


不安はどうしても払拭できそうにないようだ。俺もだけど。

周囲を警戒しながら奥へと進む。どうや部屋は入り組んだ構造をしているようで、迷路を思わせる。そんなところまでお化け屋敷のようだな。


「何だか……肌寒いです」

「確かにね」


そう言うエマとカナのケモミミはピクピクと可愛らしい動きを繰り返している。

言われてみれば確かに寒い。通路と比べて二、三度ほど気温が下がっているのだろうか?


「……そういえば聞いたことがあったな」

「なにが?」


俺の呟きが聞こえたようで、リアが問うてきた。俺はそれに声を低くして答える。


「いや、昔聞いた話なんだけど、いるところって気温が下がるらしいぞ」

「いるって……何が?」


わかっているのだろう。少し声が上擦っている。聞きたくないのは、認めたくないのはわかっているが敢えて言おう。


「何って……幽霊だよ」

「「「………」」」


近くで話を聞いていたエマとカナも含めて、3人の顔がサーっと青くなった。その表情、凄くいいね。

幽霊がいるかもしれないとわかった途端、3人誰からともなく俺に近づき、服の裾や手を握ってくる。やっぱり怖いんだなぁ。


「れれれれ零人、ぜぜ絶対に先に行くんじゃないわよ!」

「私も……怖い、です」

「わかったから。あんまり強く引っ張ると服が伸びるだろ」


俺に注意されて3人は掴む力を緩め、しかし、絶対に放そうとはしなかった。どれだけ怖がっているのやら。

俺は幽霊を怖がったりしないというか、恐怖よりも好奇心が勝る性格なので、自分から近づいて行ったりするタイプの人間だ。だから、幽霊に対して怖がったり足がすくんで動けないなんてことになる人の気持ちがわからない。お化け屋敷で大声あげて怖がってる人とか絶対にワザとオーバーリアクションとってるでしょ。

とその時、正面の壁から半透明の白い人影が俺たちの前に現れた。その瞬間、甲高い叫び声が室内に反響した──俺のすぐ側から上がった3人の悲鳴が。


「「「キャアアアアアアアアアアッ!」」」


うるさすぎる。

俺は両手で耳を塞ぎ、響き渡る声が止むまでジッとする。どんだけデカイ声だしてんだよ。目の前のお化けの方が唖然として固まっているじゃねぇか。そんなことは気にも留めない様子で俺の身体に顔を押し当てる3人。


「……そんなに怖かったか?」

「「「………」」」


無言のまま頷く。前を向くことができないほど怖かったようだ。

俺はため息を吐くと、仕方ないと肩を落とし、目の前でアワアワしている幽霊を見る。なんでやっちまったみたいな感じで慌てているのかはよくわからないが。


「倒すか」


なんか敵っぽくないが、倒さないと奥には進むことはできないだろう。迷宮に現れる奴らなんて大体敵だ。害のない奴らなんていない。

てっとり早く終わらせようと片手を前に突き出した瞬間、何故か白い幽霊は目の部分に手を当て、まるで泣いているかのような仕草をとる。そしてそのまま壁の中へと消えてしまった。


「え?」


これには俺も驚かざるを得ない。なんで敵であるはずの幽霊が攻撃もしないで泣きながらどこかへと消えて行くのだろうか。


「なんか……幽霊っぽくなかったな」


それしか言えない感想を口にして、怯える3人引き連れてゆっくりと歩みをすすめた。













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