ざらついた、そしてぬめり気のある鉄の臭い
室小木 寧
-山本エリ「復元可能性ゼロ」と化す-
どうせなら「自分は好きなんだけど」な映画を紹介したい。
「私は好きなんだけど、誰かに薦めるのはちょっと……」この後に続く言葉がなんであれ、なぜためらうのかと言えば大体は「自分の感性を疑われそう」という不安のせいでは無いだろうか。
「この映画すっごい面白いの!もう音楽も台詞回しもまるで見世物小屋の中みたいで、おっぱいもチンコもぽろっぽろ出るし、生首も脳みそも腸も飛び出まくるし!!血しぶきもぶしゃぶしゃ!噴水みたいにぶっしゃぶっしゃ!出てくるキャラクターもめちゃくちゃ化け物で……」
なんて、初対面の人に言ったが最後、私の評価は「ド変態サイコ女」だ。ちなみに今語った映画は「東京残酷警察」私の好きな映画のひとつ。
どうせなら、見た後に「騙された!」と言われるようなレビューを書きたい。
かの有名な「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を所見の人に薦める時のような。
「ベイマックス」の予告編のような。
実際に観た人がエンドロールを最後まできっちりと見た後に、一呼吸おいて「騙されたぁ!」と叫ぶような。
そんな、レビューを書いて誰かを騙してみたい。
自分は好きなんだけど、他者の目が気になって薦められない映画を、誰かを騙すつもりでお薦めしてみたい。
【山本エリ「復元可能性ゼロ」と化す】
これはまるで演劇をみているような作品だ。
それも高校演劇や市民劇団のような、説明不足の世界観を観客が脳で保管しながら観ていくタイプの舞台。
架空の日本、とても現代にそっくりな、でもどこかが違う、まるで左右違う靴を履いてしまったような違和感のある世界。
専門用語や世界情勢、世界観を会話の端々から探り、欠片を広い集め、行間を想像して脳内で埋めていく。
基本的にこの映画は会話で構成されている。会話と日常風景と会話と風景と会話と回想……
そして彼らが彼女らがどのような関係であるかをさぐっていくのだ。
ある人が見ればそれはホラーにみえるかもしれない。
またある人が見ればそれは純愛にみえるかもしれない。
ただのエゴのぶつけ合いにも、悲しいだけの虚無にも。
私はこの映画を「美しい」と思ってしまった。
思ってしまった。というのは、その美しいと思ってしまった場面まではそれはただおぞましいものだと思ってしまっていたのだ。
しかし、映画を見続けているうちにその行為が尊く、悲しく、そして美しいものに見えてしまった。
そして私はその直後に突き落とされる。そしてそれを美しいと思った事を「良い意味で」後悔したのだ。
私はこの映画が好きだ。しかし、この映画を好きと堂々と言うのには勇気がいる。
だから私は独り言としてここで、限りなく中身に触れずにただ「誰かにも観てほしい」という気持ちだけを書き綴る。
誰かにも観てほしい。そして「騙された!」と叫んでほしいと。
ざらついた、そしてぬめり気のある鉄の臭い 室小木 寧 @murokone
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