ブランチング・ワンロード

「ヒグマ!見えてきたよ!」


サーバルはヒグマに聞こえるように、でもセルリアンには聞こえないように言った。


「様子は?」


「ゆっくり歩いて来てるみたい。こっちには気付いてないよ!」


私は、道が悪くてヒグマみたいに速く走れなかったんだけど、ときどきジャンプを繰り返して何とか追いついてた。

そのおかげで、ヒグマより早く黒いセルリアンを見つける事が出来たんだ。


「よし、奴に見つからないよう右手に回るぞ」


ヒグマが道を逸れたから、私もそれに合わせてついて行く。




「……最強過ぎるだろ」


2人で草むらの影から顔を出して、黒いセルリアンを観察してたんだけど、びっくりしたよ。

あの、おっきなセルリアン、かばんちゃんが作った松明を食べちゃってたの。

食べられた松明は火が消えちゃってたけど、もしかして火を食べてるのかな……?


その時、セルリアンの中に光るものが見えた。


「ねえヒグマ!あそこに見えるのって!」


「かばん……か?いしに近いな」


虹色にきらきらしてるもの-サンドスターかな。

きっとあれがかばんちゃんだ、と思った。

形が違っても、何となくそんな気がする。


「待てサーバル!正面からやり合っても無理だ。足から崩すぞ。」


飛び出そうとする私をヒグマが止めてくれた。

確かに、まずは動きを止めた方が良いかも。


「分かった、後ろに回るね!」


2人でセルリアンの後にある木陰まで走る。

それからヒグマがセルリアンをじっと見つめて、私に声をかけた。


「同時に行くぞ、構えろ」


3……2……1……


ジャンプ!


2人で一斉に、セルリアンの後ろ足に向かって跳んでった。

そしてヒグマは手に持ってる武器を、私は自慢の爪をお見舞いする。


ガキィン!


嫌な音が耳に響いた。

小さいセルリアンとは違って、すっごく硬い。

あんまり効いてる気がしないけど、爪を見ると少し黒くなってる。


……ってことは、削れてる!


「まだまだー!!」




待っててかばんちゃん、すぐ行くから。




---




「大丈夫でしょうか……」


リカオンが心配そうな面持ちでそう言いました。

キンシコウはというと、声をかけられてやっと我に返ったところです。

いつもなら、ヒグマさんなら大丈夫ですよ、と返しているのですが、今は状況が違います。

実のところ私も凄く心配で、先程まで思い耽っていたのです。


あの異常個体黒いセルリアンは他のセルリアンとは別格でしょう。

巨体、四足歩行、異常な硬度の表皮。

例の成長能力をかばん達が封じてくれたにしろ、それでも絶対的な脅威に変わりはありません。


特に、セルリアンを核まで削って割る、という方法でセルリアンを撃破してきた私達ハンターにとって、あの異常個体の硬さは大きな問題でした。


「信じて待ちましょう。私達にも役目があります」


そう返すと、リカオンがやはり心配そうに頷きます。


ここに残った私達の役目。

それは、ボスと船を護る事。


今回の作戦の肝となる船、そしてそれを動かせるボスは当然ながら港で待機する事になります。

しかしセルリアンの存在は、あの異常個体だけではないのです。


リカオンの偵察によって、付近のセルリアン達の動きが妙に活発になっている事が分かりました。

アライグマとフェネックの働きで、フレンズ達は退避しているものの、このままではボスと船が無防備となります。


今までボスがセルリアンに襲われたという話は聞きませんが、万一の事があってはいけない為、早々に私達2人はここで待機する事になりました。


「キンシコウさん、あれ!」


リカオンが声を上げました。

指差す方向には、黒い球……異常個体の欠片セルリアンがいくつか見えます。

直径はフレンズの背丈より少し大きい程度でしょうか。




私の心配をする前に自分の心配をしろ。




そんな、ヒグマさんの声が聞こえたような気がしました。




---




手応えは、ほとんどない。




ヒグマは、サーバルとほぼ同じタイミングで攻撃を仕掛けた。

その時、私は奴の硬さの前に細心の注意を払っていた。


動物けものの身体には急所がある。

目、口、鼻、首、後頭部……挙げればキリがないが、何にしてもこれらはセルリアン討伐に関しては役に立つ情報ではなかった。

しかし、目の前にいるこの化け物黒いセルリアンは巨体を動かす為にそうせざるを得なかったのか、動物の四足歩行を真似ている。

そして、そこに付け入る隙があった。


手足を使う全ての動物に共通する急所、それはだ。


どんなに硬い鎧を纏おうが、四肢の可動部分だけは軟弱にせざるを得ない。

でなければ足を曲げられる筈がないのだ。

膝をピンと伸ばした状態で歩いてみれば分かると思うが、とても自然な動きなど出来ない。


異常個体とてそれに例外はない筈。

私は奴の膝裏を見据え、一撃は意図した場所へと命中した。


だが、駄目だった。


武器を弾かれ、全てのエネルギーを跳ね返される様な感触。

黒いセルリアンの弱点と呼べるものは核だけか。

その弱点も、今や鎧の内に秘められている。

最早、手段を選んでいる場合ではないか……。


その時、私は一瞬動きが遅れた。


奴の身体から何かが落ちる。

その正体を真っ先に理解したのはサーバルだった。


私が遅れて気付いた時には、既にサーバルが走り出している。


「駄目だ!サーバル戻れ!」


かばんの持っていただ。

それを見たサーバルは、押し寄せる感情の波に突き動かされたのか、私の声も届かない。


奴の巨大な尻尾が振り上げられ、真下のサーバルを捉えた。




不味い、間に合うか……!




私はサーバルに向かって走り出した。

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けものと しょーじ @shoji97

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