第1章 カードキャプターさくら ~寛容な世界とその魅力~ 第2項 物足りなさの正体と、オタクのオアシス

前項では、『ccさくら』の概要を語ったが、今回は私の感じた「物足りなさ」について、語っていきたいと思う。


私が感じた「物足りなさ」は、『ccさくら』は物語の中で、何かを犠牲にして、何かを得るということはない、「CLAMPっぽくない」という点だった。

もちろん、これは私の感じたことであって絶対ではない。

しかし、『ccさくら』の世界は基本的に否定されることがない世界、やさしい「寛容な世界」がこの作品の根底にあると思っている。


私の知る限りにはなるが、あの世界において、恋愛的な関係で否定された人たちはほぼいない。先生と生徒だったり、同性だったりと様々であるが、どの関係も、特に否定されてはいない。

おそらく周りは気づいているが、それをあえて言及せず、見守る姿勢をみせるのである。もちろん、キャラクターたちがいい人であるという前提ではあるが、とにもかくにも、頭ごなしに否定するような発言をする人は出てこない。

これが、他の作品ならドラマ性を持たせるために、反対させたりするもんだろうが、

『ccさくら』ではそんな野暮なことをする人間はいないのである。

もちろん、サブキャラにそんな時間使えないということはあると思うが。


そんな中で唯一関係を否定されたと言っていいのは、主人公である木之本桜の両親、藤隆と撫子の関係だけである。

この二人、高校の先生と生徒という関係から恋愛関係になり、撫子の実家に結婚を反対されて、絶縁に近い状態になっている。

しかし、この二人の関係についても、別に完全に否定されたわけではない。

なぜなら、本気で二人を引き離そうと思えばできたものを撫子の実家はしなかったのである。その点を見ても完全に否定したわけではないということが言えると思われる。作品中でも、反対したことを後悔している様子も描かれている。


つまり『ccさくら』はやさしい「寛容な世界」であるといえると思う。

そして、やさしい「寛容な世界」にいる彼らは何かを犠牲にして、未来を手に入れることはなく、やさしい「寛容な世界」に守られてすべてを救い上げていけるということである。

ここが「物足りなさ」「CLAMPっぽくない」と感じた部分であると私は考えている。しかし、大人になってからこの作品を改めて読み直した時、私はあることに気が付いた。

みんなが無意識化で魅力を感じたのは「寛容な世界」に対してではないかと。


私たちは成長するにつれて、否定されることのほうが多くなる。

私は両親からあまり否定の言葉を投げかけられたことはなかったが(悪戯して殴られたことは何度もあったが)、周りの友達を思い出してみると「それはやってはだめ」「なんであの子みたいにできないの?」などと言われている子たちがたくさんいた気がする。現実で否定をされた子たちは、フィクションの世界くらい「寛容な世界」を求めたのではないだろうか?


大人になるにつれてやってはいけないことは増えてくる。権利を得る代わりに責任と義務が大きくなってくる。

そして、私が子供のころ『ccさくら』にはまった大きなお友達は、ただのロリコンというわけではなく、バブル崩壊後の就職難を戦っていた、不景気で給料が上がらない時代を戦っていたのである。

現実という厳しい世界の中で戦う彼らにとって否定されないやさしい「寛容な世界」はどのように映っただろうか?

私が感じた「物足りなさ」は実は私がまだ現実の厳しさを知らない子供だったから感じたのではないかと考えるようになった。

この「寛容な世界」に浸ること、そこに生きる「やさしく」「寛容で」「かわいい」彼女たちをみることは、オタクという当時「否定される」側の人間だった私の先輩たちにとってオアシスに成り得たのだと考えるようになった。

それに思い当たり、成長したなかで、私は『ccさくら』をより好きになった気するのである。

もっと純粋に楽しめよと思われるかもしれないが、純粋な子供のころよりも、理屈っぽくなった大人になってからのほうが、私はこの作品を好きになったのである。


次項では、『ccさくら』の魅力を何人かのキャラクターの視点から「寛容な世界」とともに語りたいと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自分勝手少女マンガ・アニメ論評~ただのオタクの独り言~ @nagayaou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ